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P12【シリーズ/添乗員のための旅行医学】

 トレッキングがシニアの間でブームとなっていますが、平地と違い高地での運動にはリスクが伴います。実際、高地で体調を崩した場合の知識が乏しく、問題になるケースも少なくありません。そこで今回は、了徳寺大学健康科学部教授で日本登山医学会会長でもある増山茂(ますやま・しげる)先生に、高地での健康障害事例とその要因・心得についてお話をお伺いしました。

 本当に高いところがある
(文中のmは標高を表現します)
 チベットのラサにある病院の玄関先で院長らと懇談していたときのことです。両脇を抱えられて車から下りてきた高齢の日本人女性は、軽い右半身のマヒがあり発語障害を伴っていました。SpO2(動脈血酸素飽和度)※は測定不能。これは、いわゆる高山病でも重症化した状態、HAPE(高地肺水腫)でした。同じく重症型の高山病であるHACE(高地脳浮腫)も併発したのか。
早速、添乗員の男性に事情を聞きました。「途中でちょっと咳が出ていました。同夜、沱沱河(ととかわ)で宿泊しましたが、咳が激しく痰も出てよく眠れないようでした。体温は37℃台で、解熱剤と抗生物質を飲んでもらった。今朝はぐったりして動きが悪かったので、ずっとバスの中にいてもらいました」と言います。
 
 私が「酸素は与えたのですか?」と聞いたところ、「いや、我々は中央アジアのツアーで酸素を用意するとはありません。このグループは昨年もトルファンからカシュガルまで旅行をしており皆さんすごく元気でした。ラサは標高3,700mですが、皆さん富士登山の経験者ですから」。このような高地で酸素を用意しないことは危険です。
 この添乗員は、この病院に来て幸運だったのです。投薬・酸素投与・高気圧室での治療が可能だったからです。トルファンからカシュガルは標高ゼロメートルの砂漠。ゴルムドからラサまで、砂漠であることに変わ
りはないですが、ここは世界の屋根。クンルン山口で4,750m、最高でタングラ山口5,200mの峠を越えます。昨夜の宿泊地沱沱河は標高4,500m。医療関係者の間では、2,000mでも急性高山病になり、2,500mを超え
るとHAPEやHACEになる可能性がある、と認識されているほどであり、こうした高地を歩く際のリスク管理が甘かったと言わざるを得ないでしょう。この場合、夜を徹してもラサの病院に連れてくるべきであるし、翌日
も観光どころではない、と苦言を呈したいと思います。
 都市の標高はなんとか頭に入っていることが多い。しかしそこにいたるアプローチに落とし穴が潜んでいることを忘れないでください。

※ SpO2(動脈血酸素飽和度)
けが人や病人の状態を観察する上で血液にどの程度、酸素が含まれているかを測定するための値。
 ほんとに高いところでなくとも問題は起こる
 この他にもこんなことがありました。立山アルペンルートの室堂(2,450m)で、バスから降りたとたん意識を失ってしまった方が、後ほど診察して欲しいとおいでになりました。普段はジョギングもされる健康な中年の女性でした。
 私たちの体には酸素が必要です。低酸素状態になると、これは困ったと体が反応するようにできています。低酸素センサーが働き、中枢に情報を送り肺や心臓を動かし酸素を取り入れ体に運ぼうとするのです。
 検査では徐々に吸入酸素濃度を下げていきます。通常なら(低酸素センサーが働き)苦しくてドキドキしハーハーとなるはずなのに、この方は平気でした。ところが、あるポイントまでくるとストンと意識を失ってしまいます。
 この女性の低酸素センサーはほとんど働いていないのでした。この方にとっての2,450mは他の方にとっての6,000mにも相当するのかもしれません。この方ほどではなくとも、低酸素センサーの性能には大きな個人差があるということを覚えておいてください。
 
「思わぬ場所に高地リスクがある」には二つの意味があると思います。ひとつは実際に思わぬ所に現れる高い峠や山であり、もうひとつはその場所に立つ人間の側の「思わぬ」状態です。
 高いところ=低酸素状態、であるのは当然なのですが、添乗員として留意すべきは、ここで発生する病的状態には人間側の「配慮や状態や性能」が絡んでくるということです。また、高所はどこにでも生まれるということを忘れないでください。



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