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P6 【観光地域プロデューサーに聞く】







11月下旬。すでに山頂には雪が積もり始め、観光の目玉となる立山黒部アルペンルートも間もなくシーズンを終えようとしている富山県立山町。2007年10月、この町に観光地域プロデューサーとして赴任してきた井野和英さんは、着任してからの1年間をこう振り返ります。
 「旅行会社の方々にこの町の知名度はありますが、長野県や関西にあると思われたり、千葉県の館山と間違われることも。実際に来た人は少なく、来ていたとしても10年以上前だったり。初歩的な質問も多いんですよ」と、温厚な人柄の眉間に皺を寄せます。立山といえば昔も今もアルペンルートの概念が強く、ここさえ通れば立山を分かったという業界関係者が少なくないのですが、観光地は大きく進化しています、と井野さん。「立山は通過の町。時間消費型の観光地だから仕方ないですが、もうちょっと中まで踏み込んで、文化的な面も見てもらいたい」と本音を漏らします。実際、アルペンルートを訪れる多くのツアーが、宇奈月温泉、長野県内、富山市内に宿泊。立山町に宿泊する観光客は少なく、またそのためか、宿泊施設も少ないのが現状です。立山黒部アルペンルートが全線開通してから今年で38年。年間100万人が訪れても、立山町は通過するだけ。時間消費の町として根付いた旅行業界や観光客の固定概念が、この町の観光振興をアルペンルート一色に染め上げ、ほかの色との混合を拒んでいるようです。



 見るだけの観光から、体験や文化を通して観光を振興させたいと意気込む井野さんが現在取り組んでいるのが、ボランティアガイド「立山りんどう会」による立山の自然の紹介。実費以外の費用がかからないことから旅行業界にも知名度が広がり、今では大手旅行会社が実施するツアーでも多く取り入れられています。ただ、ここでも時間消費型観光地であることが影響。「ツアーだと室堂や弥陀ヶ原で案内できる時間はせいぜい1時間。ピークシーズンともなると時間は押せ押せ。おまけに参加者の人数が多すぎて、集合するだけで数分はかかります。本当は花の名前を一つでも覚えて帰ってくれたらうれしいのに」と、立山りんどう会の村 立翁会長は残念がります。
 立山りんどう会がガイドする観光客のうち、旅行会社のツアー参加者は8割を占めますが、近年は個人グループの登山者が、弥陀ヶ原で池塘や立山カルデラについて3時間ほどのガイドを依頼することもあり、需要は旅行会社にとどまりません。
 ツアーが集中する夏季や紅葉シーズンは、次に発車するケーブルカーに観光客が乗れないなどの混雑ぶりは相変わらずで、村 さんは、ツアー参加者に不満が募っているのではないか、とツアーの質や参加者の満足度を危惧しています。

 アルペンルートの高原バスの中で流れる佐伯有頼の立山開山の昔話。立山は万葉の時代から、神のおわす尊い山として崇められ、長い間、信仰の山として栄えてきました。
 地元ではこの立山信仰を観光素材にと、2005年、2006年に、江戸時代に立山に登拝を許されなかった女性が極楽往生を願った儀式「布橋灌頂会」を開催。2008年には、参加しやすいように簡略化した「布橋体験渡り」を実施し、供養、癒し、記念になどを理由に87人が立山信仰を体感しました。近隣には、自然や立山信仰を紹介する展示館や、信仰布教のための掛図・立山曼荼羅をテーマパークにした「まんだら遊苑」などの施設を備えた立山博物館があり、芦峅寺を基点に「立山の文化と歴史を観光資源に」と意気込みます。しかし、井野さんは「マスツーリズムでないこの行事が旅行会社にどれだけ受け入れられるか。採算を考えると難しいかもしれません」と、不安を隠せません。
 
 このほか、観光客に民泊を通して農業体験をしてもらおうと、4軒ほどの民家にお願いをしたり、体験型観光として、埋蔵文化財センターでの土器・勾玉作り、雪中かんじき体験、陶芸体験などのプログラムを用意しているものの、「農業体験は旅行会社の方の関心が低く、教育プログラムをつくっても大勢を受け入れられる宿泊施設がありません」(井野さん)と困惑の様子。観光客の素通りへの対策は、観光振興にとって大きな課題となっています。  


「昔訪れた立山にもう一度行きたい。車椅子でも行けますか?」「田舎でのんびりスローステイをしたい。1週間滞在できるプログラムはありませんか?」  こんな問い合わせがNPOや一般の人たちから時折、観光協会に寄せられます。しかし、「こうしたミニツーリズムは募集型企画旅行に合わず、受注型では旅程づくりや見積が面倒だといって旅行会社の方に敬遠されがち」と井野さん。
 旅行会社へは、「もっと受注型企画旅行の推進を働きかけていきたいですね。山岳観光の場合、今週末は天気が良さそうだから行こうと思うのが普通の心理ですが、手仕舞いのある募集型では申し込みから出発まで日数があるため、天候が読めず晴天に恵まれないケースも。受注型で受けるか、募集型でも前日まで受け付けられるようなツアーがあれば、お客様の満足度も高いはず」。
 
 近年は1人旅も珍しくなく、室堂などで意気投合した女性同士がその後の行程を一緒に過ごすなど、個人旅行も目立ってきていることから、こうした需要の取り込みも必要なのではないか、と訴えます。
 マスツーリズムからミニツーリズムへ。新規顧客開拓、またリピーター育成のためにも、旅行会社はシーズン、旅行形態、観光の内容をほんの少し見直してみる時期に来ているようです。例えば、民泊してアルペンルートの自然や立山信仰の歴史をガイドと共に少人数限定で歩む。今まで素通りしていた町や自然の中に、新しい観光資源や観光客のニーズを発見できるかもしれません。



 国土交通省が2007年度から始めた事業。地域の観光振興の牽引役となる人材を欲している地域と、観光地域プロデューサー希望者とのマッチングを促進する。プロデューサーは自身の知識・経験・熱意でその地域の多用な観光資源を磨き、または発見・創造して適切に情報発信するとともに、旅行者ニーズを踏まえ、関係者と一体となって見せ方・楽しませ方を工夫・改善するなどして、地域が一体となった観光地づくりをプロデュースする。
 事業初年度となった2007年度は、千葉県富津市、東京都台東区、山梨県富士河口湖町、静岡県伊豆の国市、富山県立山町の5地域がモデル地域に、2008年度は茨城県石岡市、新潟県佐渡市、千葉県鴨川市の3地域にプロデューサーが派遣されている。
   2007年3月、名鉄観光サービスを定年退社。「だめもとで」応募した観光地域プロデューサーに採用され、同年10月、希望通り、憧れの山岳観光地の立山町に単身赴任。任期は2年。2008年8月から同町観光協会事務局長を兼務。主な観光地が国立公園に属するため、環境省、立山黒部貫光、黒部ダムを管理する関西電力、立山町、富山県など多くの利害関係者の調整役も大きな仕事の一つ。任期満了まで残り1年で真価を問われることになりそう。

 ツアーの多くは、室堂で1時間半ほどの昼食休憩をとり、周辺を散策します。しかし、昼食や記念撮影だけでも40分は経ってしまい、見て回る時間が足りないのが実情です。広い室堂平は見所が多く、移動しながら動植物、歴史、山岳景観などの解説をしているとすぐに時間が経つため、少なくとも2時間はほしいですね。お客様が一番関心を寄せるのは、動植物。中でも、雷鳥は室堂周辺だけで250羽ほど生息しており、全国有数の生息密集度です。観察できる確率も高く、5月の終りから6月いっぱいが狙い目です。
 ガイド時には写真のカードを見せながら紙芝居風にご案内。春に来たお客様には夏や初冬の立山を、夏に来たお客様には春や初冬の山の顔を紹介して、リピーターを増やすための工夫をしています。また国立公園内に進入する外来種の植物の除去活動にも積極的に協力しています。
 私たちができるのはあくまでも立山の自然のガイド業務だけですが、ガイドがいるのといないのとではツアー参加者の思い出も違うはず。少しでも立山の自然や歴史に興味を持って帰っていただけたら、それだけで幸せです。

●立山りんどう会:2004年から、約50人の会員のうち、25人ほどの会員が交替でアルペンルートを訪れる年間観光客の1%に当たる約1万人を案内。ガイド料は交通費などの実費のみ


 車窓観光で終わってしまうことが多い弥陀ヶ原ですが、バス停から15分ほど歩いたところにあるカルデラ展望台では、立山噴火口跡の雄大な景色が広がっています。遊歩道も整備されており、雪解けの6月中旬から9月上旬ころまで、アルペンルートの中でも最も豊富とされる高山植物を楽しむことができます。池塘(餓鬼田)が点在する高層湿原も見所の一つ。起伏が少ない地形なので、お子さんや年配の方も体に負担をかけずに自然散策を楽しんでいただけるでしょう。
こうした弥陀ヶ原の魅力を広めようと、2007年から、当ホテルで昼食を組み込んでいただいたツアーの参加者を対象に、ホテルのスタッフが弥陀ヶ原の散策を無料でガイドしています。また、ツアー以外のお客様には、入浴、昼食、散策ガイドツアーをセットにした日帰りプランを提供しています。クチコミなどのおかげか、日帰りプランの利用者は、2007年の170人から2008年は650人に増えました。
 アルペンルートの年間観光客100万人のうち、弥陀ヶ原へ立ち寄るのは5万人ほど。カルデラや高山植物を見て感動しているお客様の姿を目の当たりにすると、観光資源として非常に価値の高いところなんだと実感します。通過するだけでなく、その中身の良さを皆様に知っていただくことが観光にかかわる者の使命だと思います。
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