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P6-7 【観光地域プロデューサーに聞く「地域の観光振興と旅行会社の役割」】
 台東区全体の観光客数は、推計で年間3,400万人。浅草、上野の動物園、博物館、美術館、アメ横といった見所に加え、三社祭やサンバカーニバルなどの年中行事も多く開催されており、一見、宣伝などしなくても台東区には観光客が集まる要素は十分にそろっているように見えます。
 そんな平日さえも観光客でにぎわう台東区に、旅行業界と協業できることはあるのでしょうか。観光地域プロデューサーを務める鈴木英雄さんに、台東区の観光の現状や課題を、また関係者に旅行会社の必要性について語っていただきました。



 台東区観光のメインは、なんといっても浅草。正月三が日の浅草寺への初詣客は、2009年は230万人(警察庁発表)を超え、また、平日でも雷門と浅草寺を結ぶ仲見世通りには、観光客や参拝者の人波が途切れることはありません。「呼ばなくても人が来る」状況は、入り込み客数の減少に悩む観光地から見ればうらやましく感じられるもの。しかし、2007年10月から台東区の観光地域プロデューサーを務める鈴木英雄さんは、楽観できる状況にないと打ち明けます。
 「年間観光客3,400万人のうち、台東区での宿泊客は20万人にも満たないのが現状。本当の意味での観光振興を考えるなら、台東区に宿泊してほしいし、お金を使ってほしい」。東京をはじめ首都圏に住む人にとって、台東区は日帰りエリア。また、地方からの観光客は、都心のホテルに泊まり、東京周遊コースの一部として浅草や上野を訪れるパターンが多いようです。
 「浅草の観光客の平均滞在時間は1時間30分。せいぜい、食事をして仲見世通りを往復するだけで終わってしまう。できれば3時間くらいかけて、じっくりと浅草を満喫してほしい。そのためには浅草近辺に宿泊していただくのが理想的ですが、台東区の宿泊施設は一軒一軒のキャパシティが小さい」と鈴木さん。現実には受け入れ態勢が十分でないことを指摘しています。
 
仲見世通り
1月中旬、平日昼すぎの
仲見世通り。休みの日かと
錯覚するほどの人出



 宿泊客の増加を望むことは、地方発のツアー客を取り込むこと。首都圏の観光情報を地方へ発信し、東京行きのツアー造成に役立たせているJTB東日本国内商品事業部地域統括部長の影山寛さんは、「地方発のツアーのお客様は、若者に人気の新宿や渋谷よりも、浅草や上野など東京の東側に強い興味を持っています。伝統的な江戸の風情を感じたいというニーズに応えようと、当社では浅草を落語家さんと一緒に巡るツアーなどを設定。誰でも自由に行けてしまう場所だからこそ、普段は行けない場所、体験できないことを発掘し、商品化していく必要があります」と言います。
 影山さんが所属する部署は、首都圏の8都県市(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、横浜市、川崎市、千葉市、さいたま市)と共同で行うプロジェクト「Discover首都圏」の一環として多くのツアーを造成しています。「自治体の観光振興の取り組みは、旅行会社として大いに歓迎します。実際に採算が合わない場合もありますが、浅草のように歴史や伝統が残る場所を商品化することは、文化事業だと考えて取り組んでいます」と影山さん。旅行会社にとっては、中高年層に特に人気の高い下町という強力なブランドをもつ台東区に魅力を感じる一方、できれば自治体のバックアップがほしいという本音も垣間見えます。



 台東区役所の文化観光部にぎわい誘客課に籍を置く鈴木さんは、自治体の立場から観光政策を行う難しさを挙げます。「区でガイドブックを作る場合、うまいと評判のすし屋を名前入りで紹介することは、公正さを欠くためできません。それは、観光客のニーズを反映しているとはいえないでしょう。また、浅草、上野、谷中、浅草橋の4つの地域にある観光連盟に予算を平等に配分しているため、1つの地域に対
して重点的な施策を行うことができません」と、自治体が保つ公正さが観光振興の分野では足かせになっていることを嘆きます。根底には、自治体の「観光は文化事業の一環。お金儲けをするべきではない」との考え方があるからではないか、と分析します。
 さらに、伝統を重んじるがゆえの閉鎖性が地元に根強く、観光のための目新しい取り組みに対して「待った」がかかることもあるようです。
「浅草は観光地であると同時に、地元住民の生活の場。観光のために何でもやっていいとなると、地域社会が荒廃する可能性があります」(浅草観光連盟・辻信之事務局長)に代表される地元の声は、自治体として決して見過ごすことはできません。下町という、地域そのものが観光素材になっている台東区では、観光振興は町づくりとリンクさせて考えていく問題でもあります。




浅草花柳界の芸者さんと一緒に人力車で
浅草観光する外国人旅行者向けプラン


台東区役所前に停車する「南めぐりん」
ここで「東西めぐりん」との乗り継ぎもできる


 地元の理解を得つつ、自治体の立場から旅行会社を巻き込み、ビジネスとして台東区の観光を盛り上げる。そんな難題を前に、「大変であればあるほど燃える」と立ち向かう鈴木さん。その実現に向け、まずは江戸時代からの歴史を持つ浅草花柳界(花街)の協力を得て、料亭での食事に加え、観光客が芸者と一緒に人力車に乗り、街歩きをするプランを外国人向けに企画。この取り組みは、お客様の減少に悩む花柳界も積極的に応じてくれているそうです。
 また、1乗車100円、1日乗車券が300円の、台東区の循環バス「めぐりん」をツアーに組み入れてもらうよう、地方の旅行会社にアプローチ。台東区の東西、南、北の3つのコースを循環する「めぐりん」を観光客に利用してもらうことによって、浅草を起点に、上野、谷中、浅草橋などの観光地を回遊してもらう試みです。今後は、調理器具の専門店が集まる「かっぱ橋道具街」を料理専門学校向けの教育旅行にアプローチしたり、国際会議で訪れた外国人向けのポストコングレスツアーを浅草に誘致したいと話しています。


  「地方発のツアーに台東区の観光地を組み込んでいただき、そこでの滞在時間を長く設定してもらいたい」と鈴木さんは語気を強めます。滞在時間を延ばす工夫として、ツアーに浅草周遊のポイントラリーを組み込む構想をひそかに立案。「浅草は歴史の宝庫。例えば、明治に建てられ大正の関東大震災で倒壊した凌雲閣(12階建)は、当時の最新技術を駆使して建造された東京のランドマークでした。今は記念碑が残るのみですが、こうした浅草周辺の名所、旧跡の説明が載っているパンフレットを見ながら、その場所を探してポイントを集めていくなんて、宝探しの感覚で楽しめませんか?」。こうした仕掛けがあれば、浅草周辺への観光を促し、滞在時間も延ばすことができると言います。


江戸の街並みを再現した伝法院通り

 また、観光客の動線についてもひと言。「仲見世通りから一歩横に入れば、浅草のいろいろな魅力が見えてきます。伝法院通りは、江戸建築を再現した外装の店が立ち並び、とても情緒のある通り。そこから少し足を延ばして六区ブロードウェイに入ると右手に花やしき遊園地が見えてきます。その先にあるひさご通り沿いには江戸下町伝統工芸館があり、江戸の職人たちの工芸品や実演を無料で見学できます」。鈴木さんは、雷門→仲見世通り→浅草寺の一般的なコースだけではなく、違った浅草の歩き方を提案しています。


 浅草をはじめとする台東区の観光は、すでに成熟しているように見えますが、新しいものを開拓していく余地はまだまだ残っているのではないでしょうか。既存の観光素材や観光コースをそのまま商品にするのではなく、形を変えたり、いろいろな要素を組み合わせた新しいものをつくり出していく。こういった取り組みが、今、最も旅行会社に求められていることかもしれません。


 
 国土交通省が2007年度から始めた事業。地域の観光振興の牽引役と
なる人材を欲している地域と、観光地域プロデューサー希望者とのマッチ
ングを促進する。プロデューサーは自身の知識・経験・熱意でその地域の
多様な観光資源を磨き、または発見・創造して適切に情報発信するとと
もに、旅行者ニーズを踏まえ、関係者と一体となって見せ方・楽しませ方
を工夫・改善するなどして、地域が一体となった観光地づくりをプロデュー
スする。

 事業初年度となった2007年度は、千葉県富津市、東京都台東区、山
梨県富士河口湖町、静岡県伊豆の国市、富山県立山町の5地域がモデ
ル地域に、2008年度は茨城県石岡市、新潟県佐渡市、千葉県鴨川市の
3地域にプロデューサーが就任している。

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 浅草は歳時を感じる街です。浅草寺の初詣に始まり、隅田川の桜、春の観光祭、初夏には江戸三大祭の1つ三社祭が行われます。ほおずき市が本格的な夏の訪れを告げ、サンバカーニバルの熱狂が街を覆い、秋の時代まつり、年の瀬には羽子板市など、年間を通してイベントが目白押しです。浅草寺や雷門を見物に来るだけでなく、こうしたイベントを皆さんに知っていただきたいですね。また、意外と知られていないのが、浅草の花柳界。値段や風紀を気にする方もいらっしゃいますが、花柳界の伝統は日本が誇るべき文化です。その作法は、ベテラン芸者と若い芸者が一緒にお座敷に上がることで、伝承されていきます。花柳界の火を消さないためにも、多くの方にごひいきにしていただきたいです。
 芸者さんといえば、やはり外国からのお客様が喜ばれます。以前、オーストラリアからの観光客を招いたとき、ただ踊りを見て食事するだけではつまらないので、ローソクを灯して電気の照明がなかった江戸時代のお座敷遊びを再現しました。ローソクの光が金屏風に反射し、踊る芸者の姿を幻想的に浮かび上がらせ、そのほのかな光の中では芸者の白塗りの顔がより美しく見えるのです。皆さん、とても感動していました。
 これからは、新しい仕掛けを、私たち観光地の側がどれだけ生み出せるかがポイントになるでしょう。一方で、旅行会社からも、新しい仕掛けについての提案があるとありがたいです。こうした提案に柔軟に応えてくれる観光地をどれだけ持っているかが、旅行会社の強みになってくるのではないでしょうか。

浅草観光連盟:
1947年設立。浅草の観光振興を目的とする、地元の店舗、企業や有志などで構成される任意団体。

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