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P6-7 【People】
 房総半島の南東、太平洋岸に位置する千葉県鴨川市。都心に近い温暖な気候の観光地として古くから知られ、高度成長期にできたリゾート型ホテルや鴨川シーワールドは、現在も人気の高い観光施設。しかし、全国の観光地に見られる観光客数の減少傾向は、この地でも例外ではありません。
 旅行会社を自ら経営しながら、同市の観光地域プロデューサーに就任した西谷斎さんは、市の観光化復活のために積極的な取り組みを行っています。では、具体的にどのように地域の観光振興を進めているのか、また、旅行会社は市が進める観光振興にどのようにかかわっていけるのかを、ご本人や関係者にうかがいました。



 鴨川市の年間の入り込み客数は410万人(2008年)。月別に見ると、太平洋岸に点在する海水浴場と鴨川シーワールドの集客が増える8月が最も多く、年間の入り込み客数の15%を占めています。最も集客力がある施設は鴨川シーワールドで全体の20%。日蓮ゆかりの誕生寺や清澄寺などへも参拝者が多く訪れています。

 このような手堅い観光素材があるにもかかわらず、1998年のアクアライン開通後に500万人を超えたのをピークに、2006年は460万人、2007年は440万人と、ここ数年は観光客の減少に歯止めがかかりません。2008年6月に観光地域プロデューサーに就任した西谷さんは、「景気対策の一環としてアクアラインが1,000円(土・日・祝日、ETC利用)で通行できても、鴨川自体に魅力がなければ観光客は来てくれません。集客力のある既存の観光スポット以外に、新たな観光素材を掘り起こしていくことが必要です」と、現状を分析します。
 
シーワールドのシャチのパフォーマンス
海の生物の魅力いっぱいの展示やショーが家族連れを中心に多くの人を集める
(写真提供:鴨川シーワールド)



 就任してから情報収集を重ねてきた西谷さんは、「鴨川の歴史や自然には、磨けば光る素材がまだまだ眠っています。波の伊八など、もっと多くの方々に見てもらいたいですね」と、観光素材の掘り起こしに手ごたえをつかんだ様子。波の伊八とは、江戸時代の中頃に鴨川で生まれた彫刻師。市の西端に位置する「大山不動」をはじめ、南房総各地の神社・仏閣などに優れた装飾彫刻を残しています。「文化財保護の観点から、また観光素材としても、お金をかけて整備する価値は十分にあります」(西谷さん)。

 大山不動から車で数分の山あいにある「大山千枚田」。日本の棚田百選にも選ばれた美しい景観と、都心からも至近な棚田として有名なことから、旅行会社のバスツアーのルートにも含まれている観光スポット。2008年には旅館組合が主導して、たいまつを棚田の縁に並べて幻想的な風景を演出する「棚田の夜祭り」を開催し、多くの人を集めました。2009年も10月末の開催が決まっており、毎年恒例のイベントにしていく予定で、既存の観光資源に工夫を加えて、集客に結びつけようという試みです。
 また、千枚田から車で15分ほどのところにある「みんなみの里」には直売所やレストランがあり、観光客に、地元産の農作物や加工品を販売しているほか、農作業や竹細工づくりなどの体験プランを提供しています。「観光客の意識にあるのは、いかに現地で有意義な時間を過ごすかということ。直売所で米や味噌を買うだけではなく、商品に至るまでのプロセスを体験を通じて理解したり、指導員やほかの参加者との交流も商品価値の1つ。指導員は実際に農林業などを営む人たちですから、お客様は地元の農村に伝わる本物の文化を体感することができます」と、みんなみの里事務局長の清水宏さんは語ります。
 現在、みんなみの里を拠点にして、大山不動や大山千枚田を巡る日帰りツアーが試験的に行われています。波の伊八という歴史的な遺産、大山千枚田と里山の自然景観、そしてみんなみの里で体験する農村文化。西谷さんならではの外部からの視点で、これら個性のある観光素材を、ハイキングやサイクリングのコースに組み込んで1つの線に仕立てて商品化する試みです。
 
大山不動の本道入口を飾る
波と龍と雲をモチーフにした彫刻は、
波の伊八の代表作
「波を彫らせたら関東随一」と言われた名工



 一方、鴨川市商工観光課課長の藤後良治さんは、「アクアライン開通や館山道全通で鴨川へのアクセス事情がよくなり、日帰りしやすい観光地になったことで、宿泊客数の減少が懸念されます」と、地域が抱える構造的な問題を指摘します。そこで西谷さんは、自然環境と心身の健康を結びつけた旅行「ウェルネスツーリズム」に注目。「鴨川の里海や里山巡りを健康づくりに生かす商品や、メンタルヘルスの維持・改善を目的とした滞在型のプログラムについても、商品化の可能性を探っています。さらに、市内にある最新の医療設備を備えた総合病院の協力を得て、PET検査などのがん検診を組み込んだ宿泊プランなども作っていきたいですね」
 宿泊促進の取り組みは鴨川だけではありません。近隣の館山市、南房総市、鋸南町を合わせた南房総地域は、宿泊客の割合が20%にも満たない日帰りの観光エリア。3市1町は2008年10月に観光圏※事業をスタートさせ、いくつかのテーマを掲げて圏内での宿泊や滞在型観光を促進していく方針です。現状を変えるには「3市1町の行政、民間の連携が必要」というのは、複数の関係者が強調するところ。当事者とも言える宿泊施設側も、「市内の複数の宿泊施設と大手旅行会社が協力して、ウォーキングと健康によい料理をセットにした宿泊プランを企画中。また、宿泊施設が着地型旅行商品などを売ることができる観光圏内限定旅行業者代理業の認定を受けるため、取扱管理者に関する研修に職員を派遣しています」(鴨川館・関幸雄総支配人)と語るなど、具体的な取り組に着手しています。
 
数千本のたいまつが
棚田を浮かび上がらせる
大山千枚田の「棚田の夜祭り」

長狭平野の田園地帯にある
「みんなみの里」は都市と農村の交流を
テーマとした総合交流ターミナル



 入り込み客数の減少に危機感を持ち、観光素材の開発に積極的に取り組む鴨川市。観光促進のための環境整備にも目を向け、2009年度中にはマウンテンバイク(一部電動自転車)を貸し出すサービスを始めます。これは、鉄道や高速バスで訪れる観光客のための2次交通として、市内に散らばっている観光スポットを周遊してもらおうという狙い。「旅行会社には、こうした仕掛けを積極的に利用してもらいたい」と西谷さん。鴨川市観光協会事務局長の藤平康幸さんは、「旅行会社には、ツアーに参加したお客様の感想や意見を、観光地側にもっと伝えてもらいたい。それにより現状の改善点が明確になるし、商品のマーケティングに生かすことができます。さらに、地域発の商品をプロモーションして、鴨川の魅力を市場に広めていただきたい」と、旅行会社が持つ情報の収集力と発信力に期待を寄せています。
 観光地の自然や文化を生かした商品の担い手となるのは、その土地を知り尽くした地域の関係者。一方、旅行会社は、観光客のニーズや動向に常にアンテナをはっています。お互いの情報を交換して知恵を出しあえば、地域の魅力を最大限に生かしつつ、観光客の志向に合った商品の造成が可能になります。旅行会社に一番求められているのは、地域との密接なコミュニケーションであるのは言うまでもありません。
 
市街地から離れているが、
「マウンテンバイクをレンタルしてでも、
来てほしいスポット」(西谷さん)という
「魚見塚」からの眺め

 自身が経営する旅行会社がある名古屋から出張し、月の数日を鴨川で過ごす生活は「正直、大変!」と言う半面、プロデューサーの仕事を「社会貢献」と位置づけ、持ち前の行動力で奮闘中。近畿日本ツーリストに在籍時は、視察旅行、演奏旅行、国際交流のツアーなどを担当。国際的な大イベントにも携わり、観客動員について数多くの実績を持つ。
観光地域プロデューサーとは……観光庁が推進する人材の育成・活用の施策の1つ。地域の観光振興の牽引役となる人材を欲している地域と、観光地域プロデューサー希望者とのマッチングを促進する。プロデューサーは地域の多様な観光資源を磨いて情報発信するとともに、観光客のニーズを踏まえ、地域、関係者と一体となって観光地づくりをプロデュースする。

※観光圏……2008年7月に施行された観光圏整備法に基づき、観光地が広域的に連携する地域を指す。観光圏に認定された観光地は、観光客が2泊3日以上
滞在できるエリアの形成や、国際競争力の高い魅力ある観光地づくりを推進することで、地域の幅広い産業の活性化や、交流人口の拡大による地域の発展を目指す。
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