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野間 テレビ番組から映し出される関口さんの旅の姿は、見たもの、ふれたものをそのまま表現する自然体が印象的でした。そうした姿勢は、従来の旅行商品のつくり方にも示唆を与えると感じていますが。
関口 旅行って普通、目的地や見たいものが決まっていますよね。僕の体験上、目的地が決まっている旅行は、それを行うことによって何を獲得したいか、何を獲得できるかがすでに決まっています。例えば、「ロンドンに行ってビッグベンを見る」のが目的なら、旅行前にビッグベンについて調べて、到着して「これが本物だ」と確認する。次にやることといったら、記念撮影くらい。でも、それで心の中の何かが変わるでしょうか? それだけでは、行った証拠を残すためだけの旅になってしまうかもしれません。僕の体験では、名所旧跡よりも『何の変哲もない出会い』の中にこそ、心動かされるものがたくさんありましたよ。 |
| 実は、僕は元々旅があまり好きではなく、海外旅行をしたいとは思っていませんでした。わざわざ休みをつぶしてお金をかけて海外へ行って記念写真を撮るくらいなら、日本で日本食を食べながらハイビジョンテレビでそのシーンを見ているほうが、録画もできるしよっぽどいいと思っていました。ハイビジョンの画面は生で見るより綺麗ですし、写真なら僕よりプロが撮った方が上手い。好奇心を満たす消費財が身近に氾濫している現代、写真を撮りに行くような旅なら、わざわざ行く必要はありません。だからこそ、『何の変哲もない出会い』をする旅がしたかったんです。そういう意味でも、番組内で描いた絵日記はそれを表現するうえで大きな力となってくれました。言葉で伝えるとなると、その時僕が感じたことを的確に表現できないこともある。誰にでも理解でき、さまざまな気持ちを込めることのできる絵日記は、出会った人々とコミュニケーションを図るうえでも大切な存在でした。 |
野間 番組を拝見していると、行った先々で子どもになつかれて一緒に遊んだり、家に招き入れられて土地の食べ物をご馳走になるというシーンが多かったですよね。現地の人とのコミュニケーションを重視されていた点でも視聴者の関心を高めたと思いますが、こうした番組づくり、旅に対するスタンスは当初から意図的だったのですか。
関口 いいえ。当初は鉄道の旅も、各地の郷土料理を食べるだとか、線路の切り替えボタンを特別に押させてもらう中継だとか、僕が見飽きているそれそのものの企画内容だったんですよ。視聴者も、そういうのにはもう飽きているのではないでしょうか。事前に設定されている場所や食べ物、出会いをこなして喜ぶ旅の時代ではもうないですよ。ですから僕は、本当に自然な出会いの旅をしたんです。僕自身、そういう旅番組を見たかったので。僕は変わっていて、出演者のくせに、「番組に出たい」よりも「番組を見たい」と思っている部分の方が強いんです。それがちょうど、テレビ的な演出や企業の狙いを見抜いている視聴者の感覚やニーズと重なったんでしょうね。
それは従来の番組のつくり方からすると、あれもこれも「0」からの構築になってしまうので大変なんですが、新しいものを生み出す時って必ずそうなんだと思うんですよね。旅行業界も同じじゃないですか? |
野間 2007年に中国大陸を鉄道の最長片道ルートでめぐる旅に挑戦されました。旅行業界でも中国は非常に重要なデスティネーションです。関口さんの鉄道紀行をテレビで見て、関心をもたれた方も中高年の男性を中心に多かったと聞いていますが、昨年は一転、食の問題、四川大地震、チベット問題が重なったこともあって、旅行者数が落ち込みました。減少の背景には、一部に日本人の心理的な感情もあると思いますが、関口さんの番組から伝わってくるのは人々の素朴な笑顔ばかり。むしろ構えることの不自然さも考えさせられます。ご自身では中国の旅を通じてどんなことを感じましたか?
関口 日本は、生きていくために衣食住の心配をする段階を超え、満ち足りた世界になりました。でも、それは逆に生きている実感を持ちづらいともいえる。中国は地域によってはまだ発展途上であり、彼らは生きていくことの大変さの中にあります。すなわち、生きている時間、密度が濃いんです。旅の途中、たった3時間しか会っていない女の子が「この出会いは一生忘れません」と言ってくれる場面がありました。そういう感覚って、僕たちはなかなか持ちづらい。国も生まれも違う者同士が、広い世界の中で出会う価値を知っているんです。中国人に会って僕は、自分が生き物なのだと再認識できました。中国には、人が本来持っている魅力やエネルギーがあります。それは昔の日本にもあったもの。彼らと会うと、僕たち日本人は大切なものを思い出させてくれるんですよ。それが、僕が見てきた中国の魅力です。
安全が気になるなら、10年後の中国に行けばいいでしょう。しかしかし、きっとそれでは、人の生きるエネルギーや人に対する温かさは、今の日本と同じ状態に
なっているでしょうね。そういう意味では、中国へ行くなら今のうちですね。個人的には、中国が持つ人間のエネルギーと、日本が経験した豊かさの弊害の経験を交換しあえたら、お互いに素晴らしいのにと思っているんです。日本人は本来のエネルギーや心の魅力を思い出させてもらい、中国人は急激な高度成長の落とし穴とそれを回避するノウハウをもらえる。それは個人でも企業でもできること。そして、最も価値ある交流だと思います。僕の中では、万里の長城見学は、そのついでで十分といった感じなんです(笑)。 |
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