5月号インデックス特集旅の力JATA NOWVWCニュース │ Cafe de JATA │添乗員のための旅行医学バックナンバー
   添乗員のための旅行医学
P10 【Cafe de JATA】






【竹浦】市村さんは環境に優しいツアーにおける添乗のスペシャリストですが、近いうちに市村さんのツアーに同行して、どういうものかを実際にこの目で見たいです!

【小川】絶対に一緒に行ったほうがいいよ。私は熊野古道のウォーキングツアーに同行して、市村さんの環境保護に対する意識の高さを知ることができました。そもそも、市村さんが、こういったツアーに取り組むきっかけは何ですか?

【市村】旅行業界に入って、初めてヒマラヤのツアーを担当したのが15年くらい前。当時、トレッキング中はテント泊が主流で、お客様10名にガイド役のシェルパが2〜3人と荷物を運ぶ大勢のポーターがついて、総勢30名の大所帯で移動していたんだ。

【竹浦】食事は当然自炊ですよね。それだけ、ゴミが出る。

【市村】それと、煮炊きのために火をおこすから大量の薪が必要となり、木を伐採することになる。ネパールのある村で、現地の人に「日本人は、木を奪い、ゴミを落として、お金を落としていかない」と言われたんだ。その一言は、強烈だったね。

【小川】「お金を落としていかない」というのは、テント泊だと宿泊も食事も自前だから、現地でお金を使わないということですか?

【市村】その通り。そこで考えたのが、ツアーをテント泊からロッジ泊に変えることだったんだ。

【竹浦】ロッジに泊まれば、ツアー参加者の宿泊費や食費が現地に還元されるというわけですね。しかも、テント泊に比べて大きいカマドを使うから、余分な木を伐採することもない。

【市村】つまり、ロッジ泊は地域の活性化と自然環境を守る取り組みの両方の意味合いがあるんだよ。でも、最初のころは、電話のないロッジにどうやって予約を入れるのか、「何時に着くから、食事の用意をしておいて」とどうやって伝えるのか…。何回も通って、信用してもらい、こちらのやり方を覚えてもらったね。

【小川】そういった苦労を経て、いまやロッジ泊が主流になっていますよね。もしテント泊のツアーが続いていたら、現地の環境や経済は大変なことになっていたかもしれませんね。

【竹浦】ヨーロッパアルプスのツアーは、なぜ乗り換えの大変な公共交通機関を利用しているんですか?

【市村】専用バスを使うことは、無駄なCO2を出すことになるからね。でも後から気づいたんだけど、少ない人数でもツアーが催行できるという、メリットがあったんだ。

【竹浦】そうか。専用バスを出すためには、最少催行人数が大きくなってしまいますよね。そうなると、あと数人足りないためにツアーが催行中止になることも…。

【市村】人数の制約がない公共交通機関はその心配がいらなかった。

【小川】鉄道を使うと、ただでさえ大きいトレッキングの荷物を、乗り換えのたびに自分で運ばなければなりません。でも、スイスには国内の駅から駅へ荷物を直送するシステム「ライゼゲペック」があるから、荷物を持ち歩くことなく鉄道での移動ができるんですよね。

【市村】公共交通機関を使う利点は、他にもあるんだ。貸切バスだと、せっかく外国に来ているのに、ツアーの参加者同士の限られた付き合いになりがち。現地の鉄道やバスを使えば、地元の人たちとの触れ合いが生まれることになる。

【竹浦】鉄道なら、車窓からのアルプスの眺めもゆっくりと満喫できそうですね。いろいろな車両を見ることができるし、社内販売などのサービスも日本とは違うだろうから面白そう。鉄道で旅するという別の楽しみが加わります。


ネパール側から見た、ヒマラヤの山々


ヒマラヤトレッキングには、参加者がトレッキング
中に使用する荷物を運ぶポーターが同行する


近年、ネパールのロッジは整備され、
室内も非常に清潔

【小川】熊野古道の添乗では、観光客が持ち歩くストックが苔を傷つけている現状を目の当たりにしました。

【竹浦】旅行は自然環境に負荷をかける側面も持っているんですよね。こうした現状があるなかで、環境に優しい旅行と言っても、実感がわかない人もいるでしょう。そこで、ツアーのどこが環境に優しいのかを伝えることは必要だと思います。

【市村】なぜロッジ泊なのか、なぜ公共交通機関を使うのかの意味はちゃんと伝えるようにしている。それに、トレッキングツアーではお客様にゴミ袋を渡しているんだけど、事前にロッジ泊の意味を知っていると、自分たちが出したごみだけではなく、ほかのごみも夢中になって拾ってくれるね。

【小川】トレッキングして、ただエベレストを見て帰るだけじゃなく、自然環境にもよいことをして帰れば気分はいいはず。何かの役に立ったという意識は大事ですね。

【竹浦】言い換えれば、「私もネパールの環境保護に貢献した」という参画意識でしょうか。

【市村】お客様が参画意識を持つことは、自然環境に配慮した商品に限らず、旅行商品の付加価値として今後ますます大切な要素になってくると思う。
【竹浦】そういう意識を持つように、お客様の気分を盛り上げていくのも大事ですよね。この前、弊社の旅行説明会に同席しましたが、市村さんが環境に優しい旅行について熱く語っていて勉強になりました。

【小川】市村さんの熱意がお客様を動かしている部分はあるかもしれません。私も、このツアーを担当するようになって、お客様にお配りする日程表などを両面印刷して用紙の節約をするようになりました。

【市村】いつの間にかやり始めていたよね。そういった日常のささいなことからでもいい。自然を商品の素材にしている私たち旅行会社こそが、環境と共存していける旅行商品を通じて、環境保護の取り組みを率先して進めるべきだと思う。


ランチも各村のロッジでとる。到着時間を事前に
先回りしたスタッフが知らせるなど、
工夫をしても、準備に時間がかかることもある



ロッジには大きなカマドがあるため、キャンプ泊のように大量の薪木を必要としない


スイスの鉄道には目的地まで荷物を運んでくれる「ライゼゲペック」システムがあり、便利


スイスのツェルマットではガソリン自動車が
禁止され、電気自動車のバスが走る

写真提供:鈴木洋、西村達也


4月に入り、新しい年度がスタートしました。JATAでも一部組織替えがあり、じゃたこみを担当していた広報室も企画・広報グループとして新しいスタートを切りました。組織は変わりましたが、会員の皆さまにとって有効な情報を発信していく姿勢は変わりません。これからもよろしくお願いします。(S)

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