子どもたちに旅行を通じて様々な体験を提供するトムソーヤクラブは、子どもだけが参加し、親が同伴しないツアーに取り組んでいます。都会から自然との触れ合いを求めて参加する子どもが多い一方で、子どもが少ない地域から友だちを作るため、また、協調性を学ぶために参加することもあります。ツアーでは全国各地から参加者が集まることから、学校や近所といった普段のコミュニティとは別に友人ができ、子どもたちの世界が広がるようです。幅広い年齢層からの参加により、年上の参加者が年下の子どもの面倒をみたりする場面もよくあります。
人気のプログラムは水遊びを中心とした夏のキャンプツアー。夕食は子どもたち自身で作るなど、子どもの自主性を尊重した内容になっています。食べ物に好き嫌いのあった子どもも、自分で料理することによって食べ物のありがたみを感じ、他の子どもと協力して作ることで協調性を学ぶといいます。
ツアー中は1グループ6〜10人に分かれ、グループリーダーが体験活動や生活の支援をします。リーダーは単にリーダー
シップを発揮して子どもを指導するのではなく、子どもたちが自主的に行動するための手伝いに徹する「後押し役」。1人参加で初めはなかなかグループの輪に入れなかった子どもも、リーダーの支援によって次第に他の子どもと仲良くなっていくそうです。
この子どもたちの指導にあたるリーダーは、教育系学部の大学生が多く、平均月1回の研修活動を通してキャンプのスキル、カウンセリング、救急法などを学んでいます。ここでの経験は社会人になった際にも大いに役立つため、リーダー自身の大きな刺激となっているようです。
トムソーヤクラブの企画・運営を担当する日本旅行トムソーヤクラブ事務局の菱井優介さんは、「昔は自然の中で過ごすことが日常的だったのですが、現代の子どもは自然に触れることが少なくなってきています。非日常になってしまった自然に触れ合い、自らが興味を持ったものにチャレンジしてもらいたい。その経験が子どもたちの成長に何らかのプラスになっていくはずです」と話します。
その効果の現れか、実際、旅行から帰ってきた子どもたちを見た家族からは、「目がキラキラしている」、「家の手伝いをするようになった」、「親子の会話が増えた」など子どもの成長を実感するコメントが寄せられます。また、親や学校の先生とは違う訪問先の地域の人やリーダーなど年齢の離れた人と触れ合う機会が多くなることから、何度も参加する子どもは人当たりがよくなるなどコミュニケーション能力が高くなる例もあるようです。
一方、菱井さんはリーダー自身の勉強や成長にもつながっているようだと指摘。教員を目指す大学生でも直接子どもと触れ合う機会は少ないため、リーダーの活動はよい経験であり、何より多くの同じ志を持つ仲間ができることが、彼らにとっても宝になっています。
トムソーヤクラブは今後、他地域での展開や親子で行くツアーも視野に入れており、新しいフィールドにチャレンジしていく方針。また、同クラブの趣旨に共感する企業、団体にツアーを提供することで、「旅の力」を広げて行きたいと考えています。
「遊びの中で自分が知らない体験をし、楽しみながら経験を積んでほしい。その『遊びの空間』を旅という形で提供していきたいし、旅は多様な経験を提供しやすいツールだと思います。子どもは成長過程でいつか壁にぶつかることがあります。その時、昔の旅行で自分たちが体験したことを思い出して、なんらかの助けになればうれしい」と菱井さん。
家庭や学校では習うことができない、地元の人、異年齢の仲間やリーダーと過ごすここでしか出合えない貴重な野外体験は、人生を育む大きな教育の力となっているようです。
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