1月号インデックス年頭所感新春特別インタビュー│旅の力│JATA NOW Cafe de JATA 添乗員のための旅行医学バックナンバー
   JATA NOW
P6 【旅の力】



 子どもたちに旅行を通じて様々な体験を提供するトムソーヤクラブは、子どもだけが参加し、親が同伴しないツアーに取り組んでいます。都会から自然との触れ合いを求めて参加する子どもが多い一方で、子どもが少ない地域から友だちを作るため、また、協調性を学ぶために参加することもあります。ツアーでは全国各地から参加者が集まることから、学校や近所といった普段のコミュニティとは別に友人ができ、子どもたちの世界が広がるようです。幅広い年齢層からの参加により、年上の参加者が年下の子どもの面倒をみたりする場面もよくあります。
 人気のプログラムは水遊びを中心とした夏のキャンプツアー。夕食は子どもたち自身で作るなど、子どもの自主性を尊重した内容になっています。食べ物に好き嫌いのあった子どもも、自分で料理することによって食べ物のありがたみを感じ、他の子どもと協力して作ることで協調性を学ぶといいます。
 ツアー中は1グループ6〜10人に分かれ、グループリーダーが体験活動や生活の支援をします。リーダーは単にリーダー
シップを発揮して子どもを指導するのではなく、子どもたちが自主的に行動するための手伝いに徹する「後押し役」。1人参加で初めはなかなかグループの輪に入れなかった子どもも、リーダーの支援によって次第に他の子どもと仲良くなっていくそうです。
 この子どもたちの指導にあたるリーダーは、教育系学部の大学生が多く、平均月1回の研修活動を通してキャンプのスキル、カウンセリング、救急法などを学んでいます。ここでの経験は社会人になった際にも大いに役立つため、リーダー自身の大きな刺激となっているようです。


 トムソーヤクラブの企画・運営を担当する日本旅行トムソーヤクラブ事務局の菱井優介さんは、「昔は自然の中で過ごすことが日常的だったのですが、現代の子どもは自然に触れることが少なくなってきています。非日常になってしまった自然に触れ合い、自らが興味を持ったものにチャレンジしてもらいたい。その経験が子どもたちの成長に何らかのプラスになっていくはずです」と話します。
 その効果の現れか、実際、旅行から帰ってきた子どもたちを見た家族からは、「目がキラキラしている」、「家の手伝いをするようになった」、「親子の会話が増えた」など子どもの成長を実感するコメントが寄せられます。また、親や学校の先生とは違う訪問先の地域の人やリーダーなど年齢の離れた人と触れ合う機会が多くなることから、何度も参加する子どもは人当たりがよくなるなどコミュニケーション能力が高くなる例もあるようです。
 一方、菱井さんはリーダー自身の勉強や成長にもつながっているようだと指摘。教員を目指す大学生でも直接子どもと触れ合う機会は少ないため、リーダーの活動はよい経験であり、何より多くの同じ志を持つ仲間ができることが、彼らにとっても宝になっています。
 トムソーヤクラブは今後、他地域での展開や親子で行くツアーも視野に入れており、新しいフィールドにチャレンジしていく方針。また、同クラブの趣旨に共感する企業、団体にツアーを提供することで、「旅の力」を広げて行きたいと考えています。
 「遊びの中で自分が知らない体験をし、楽しみながら経験を積んでほしい。その『遊びの空間』を旅という形で提供していきたいし、旅は多様な経験を提供しやすいツールだと思います。子どもは成長過程でいつか壁にぶつかることがあります。その時、昔の旅行で自分たちが体験したことを思い出して、なんらかの助けになればうれしい」と菱井さん。
 家庭や学校では習うことができない、地元の人、異年齢の仲間やリーダーと過ごすここでしか出合えない貴重な野外体験は、人生を育む大きな教育の力となっているようです。





 当研究室では旅育をテーマに研究を進めていますが、その定義はこれから構築していく段階です。教育効果のある旅といっても、修学旅行のように旅の中に教育的テーマを盛り込んだものと、旅自体の教育的効果の2通りがあると考えています。研究室では特に、後者において家族旅行に注目しています。2010年夏に行ったアンケートでは、18?25歳の1700人のうち、1割が家族旅行未経験者でした。その中から大人になってからも旅行に行かない人たちの理由を調査すると、未経験の人ほど、「旅行は嫌い」「お金がもったいない」といったネガティブイメージが強い結果となりました。子どもが小さな頃の家族旅行の経験の有無により、旅行全般に対する価値観がかなり変わることがわかります。
 旅行が子どもに及ぼす影響の一つに、本物体験があると思います。学生の研修旅行で訪問したハワイのチルドレンズ・ディスカバリーセンターは、遊びを通して職業が学べる施設ですが、体験用の機器はすべて本物。施設スタッフは「本物だからこそ、子どもは興味を持つ」と言っていました。まさしく旅行は「本物」「本場」に触れる体験であり、子どもにとって大きな成長になります。
 家族旅行の有効性については今後、検証していく必要がありますが、国内旅行より海外旅行で効果が高いと見ています。海外旅行では特に非日常性が高く子どもの興味を引くこと。また、家族一丸となってアクティビティに参加することが多いこと。親が一緒にいる安心感から、子どもが初めて出会う異文化に積極的な一歩を踏み出せることなどがあるからです。
 「旅行で体験する楽しさが、子どものどのような部分を伸ばせるのか」を親御さんに提案できると、子どもの教育の観点から旅行の重要性が増してくると思います。そして、成人後に改めて親と旅をしてみると、子どもの頃とは違う視点で新たな発見があると思います。「成人した今こそ、家族旅行に行こう」などのトレンドができれば、旅行需要が拡大できるのではないでしょうか。





(ツアー中に描く絵日記から抜粋。原文のまま掲載)

夏のキャンプより

夜、キャンプファイヤーをした。すん〜ごいたのしかった。3ぱく4日はやかった。まだかえりたくない…。本当に本当にみんなと仲よくなれてよかった。さいしょは心配だったんだけど、みんなとってもやさしくってよかった。本当に本当にありがとう。
《小学5年生・女子》
今日はさいごの日だ。おきた時みんなで楽しくすごすとちかった(自分一人で)。楽しかったのは、キャンプファイヤーとぼうけんをしたことだ。キャンプファイヤーではゲームをしたこと、ぼうけんでは山をのぼったのが楽しかった。
《小学3年生・男子》
きょう、カレーを食べたらすごいうまかったです。じゃがいもがうかまったです。お母さんのカレーより、ちょっとうまかったです。
《小学2年生・男子》

冬のスキー体験より

今日は雪あそびをしました。雪だるまをつくりました。とてもいいのができました。とても大きかったです。とてもたのしかったです。《小学4年生・女子》
今日のスキーは、転んでばかりでいたけどけっこううまくなったような気がします。明日のスキーバッチテスト楽しみにしています。《小学3年生・女子》

 参加者の絵日記には、「面白かった・楽しかった」という言葉が最も多く登場しますが、その内容は一人ひとり異なるようです。キャンプファイヤーでのゲーム、川遊び、カレー作りなど体験内容に関するものばかりではありません。(ここでしか出会えない)友達ができたこと、リーダーとのやりとりが楽しかったという記述は多く、新しい友達やリーダーとの出会いや再会を理由に、毎年同じコースに参加する会員もいます。
 初めて参加を検討するお客様は旅行案内に記載されている内容でしか判断できませんが、一度参加した子どもたちには、それぞれに「楽しかった」思い出が次のツアーを選ぶ後押しをしているのだと思います。




 トムソーヤクラブを卒業し、現在は中学校の教壇に立って生徒たちと毎日「楽しく」過ごしています。僕はこの、「楽しく」ということをトムソーヤクラブの活動で、強く意識して活動してきました。当初、人前で話すことが苦手で、自分から何かをすることもなかった僕でしたが活動を通し、「参加者の子どもたちと自分、その周りにある“自然”をつなげた楽しさを作りたい」という意識を持ちました。一緒に苦労し、成功したらハイタッチして喜び合いたい。でも支援者の目も持っていて、何かを達成した子どもの成長や変化に気づいてあげられる。これは、自分にとってのやりがいでした。
 この経験は、子どもたちが苦手なことを、別の「楽しみ」からきっかけをつくって興味を持たせることに役立つと思います。トムソーヤクラブ育ちとして恥じのないような、常に生徒と共にいられる先生になれるよう、今も奮闘中です。




 私は、小学3年生から中学卒業まで参加していたほどのトムソーヤ好きでした。大学進学を機に、昨夏、リーダーとして初参加しました。
 子どもたちの個性や性格はまちまちですが、すぐに友達になる適応力には圧倒されました。吸収力にも凄さを感じます。人の話を聞くこと、自分の言葉で気持ちを説明することなど、子どもに
とっては1つ1つがとても難しく悪戦苦闘しますが、あっという間に飲み込んでしまいます。そのほかにも、無邪気さ、何もない場所で遊ぶ力、難易度が高い作業を、積極的にやるチャレンジ精神など挙げればキリがありません。大人になると頭で考え、低リスクで確実な方法を探そうとしますが、子どもは五感を最大限使って感じ、素直に行動します。忘れてしまった子どもの頃の純粋な力を見習わなければと思いました。


  JATA NOW

1月号インデックス年頭所感新春特別インタビュー│旅の力│JATA NOW Cafe de JATA 添乗員のための旅行医学バックナンバー

Copyright (c) 2011 Japan Association of Travel Agents. All right reserved.