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P6 【旅の力】




 日本エコプランニングサービス(JEPS)では、NGOやNPOの活動に参加するツアーや社会貢献に関するツアーを企画・催行しており、その中の1つ「タイ・チェンマイのHIV孤児施設バーンロムサイを訪れる絵本読み聞かせの旅」は、特に学生や女性に人気のツアーです。日本では絵本の読み聞かせが子どもの教育面にとてもよいと言われていますが、ツアーを企画した須川裕子さんによると、タイではあまり絵本が出回っておらず、貧困層はもちろん、人員や予算に限りがある養護施設では、子どもたちは絵本に親しむ機会がないとのこと。そこで、このツアーでは、日本で寄付によって集められた絵本にツアー参加者やボランティアスタッフがタイ語の翻訳を貼って持っていき、子どもたちに読んであげるとともに、読み終わった本を施設に寄付する活動を行っています。HIVで親を亡くしたバーンロムサイの子どもたちにとって、大人とふれあう機会は少なく、ひざの上に抱っこしてもらいながらの読み聞かせは、数少ない大人たちとのコミュニケーションの場の1つとなっています。タイ語で「メー(お母さん)」と慕ってくる子どもたちは格別にかわいらしく、お別れの時に涙する参加者は数多くいます。短い期間のツアーでも、タイの子供たちに触れ合いの場を与える重要な場となっています。


 2009年から春と夏に2回ずつ催行しているこのツアーは、参加者の多くが20代前半の学生たち。1回のツアーでの参加人数は約10人までとしており、決して人数を稼ぐためのツアーではありません。しかし、バーンロムサイには寝泊まりするゲストハウスやお土産ショップがあり、参加者が宿泊したり土産などを購入することで、直接的な経済支援が可能になっています。さらに、鎌倉にはバーンロムサイで作られた衣服製品などを販売する店があり、そこでの収益がバーンロムサイに届きます。ツアーに参加し、現地でお金を使うことが子どもたちを支える経済的な支援にもつながる一方、日本に帰ってから参加者同士の交流などを通して、この取り組みを広めていくことも現地の支援となっています。


 ボランティアツアーを成功に導く重要な要素として、現地で活動し地元の人と強いパイプを持つNPOやNGO、ボランティアスタッフの存在が必要と須川さんは指摘します。それが絵本読み聞かせプロジェクトの発起人である、いとうみわさんです。「バーンロムサイで1年間ボランティアスタッフとして働いた後、バーンロムサイのために何かできることはないかと考え、JEPSに持ち込みました」(いとうさん)。JEPSでは、多くのボランティアツアーでこういったコーディネーターと協働でツアーを催行しています。ツアーごとに予算や手配の方法は異なりますが、同ツアーでは現地の活動に関する手配をいとうさんに一任。いとうさんは、「一任していただくことで、その時々の実状に合った内容に柔軟に対応できる」と言います。さらに、「ボランティアツアーで大切なのは、現地の生活を乱さないこと、そして、少しずつでも継続して行っていくこと」(いとうさん)と続けます。JEPSでは当初の最少催行人数にわずかに満たなかったツアーでも催行し、協力者であるいとうさんと現地との信頼関係に努めています。
 現在では、バーンロムサイの他にフィリピンのカオハガン島でも読み聞かせツアーを催行。絵本の読み聞かせというソフト面でのボランティアは、場所を変えて広がりを見せています。



 ツアーをつくることで、多くの人が子どもたちに絵本を読んであげられると思ったことがこのプロジェクトをつくったきっかけです。JEPSには、ホームページに「一緒にツアーを企画しませんか」と書いてあったことと、企画主旨と会社の理念が合っていたこともあって持ち込みました。ボランティア旅行は一般的な旅行と違い、まず現地の状況に寄り添ったツアー内容にすることが重要です。大人数を呼べばその分儲けはでますが、大勢で行って相手側を混乱させてはボランティアになりません。たとえ少人数ずつでも継続して行っていくことが大切だと思います。


 参加者の多くは20代の若者ですが、ボランティア精神で「何かしてあげたい」という気持ちだけで参加しておらず、むしろ、“ぬるま湯状態”である日本の生活から抜け出し、子どもたちとの交流や現地での体験を通して、何らかの学びや感動を求めているようです。このツアーは短期間で気軽に行け、かつ現地に貢献できる実感が強いことが人気の理由の1つではないでしょうか。また、コーディネーターの存在が参加意欲を高めているのも確かです。このような、キーとなる人物がいると、ツアーの存在価値が高まります。



ツアーでは、交流の時間を2日間設けることで、
ボランティアができて観光もできるという、
旅行としてのスタンスを通している。


帰国後も定期的に参加者同士が集まる交流会が開催されており、
情報交換や思い出を語る場の1つとして
交流の輪が広がっている。


出発前にはタイ語の発音を録音したCDが配られ、
日本で読み聞かせ練習会も開かれる。


タイ語が読めなくても、子どもたちが教えてくれたり
一緒に読んでくれることで、コミュニケーションになるという。


絵本読み聞かせツアーはバーンロムサイを飛び出し、
フィリピンのカオハガン島でも行われている。

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