会報誌「じゃたこみ」 【EXPO】ツーリズムEXPOジャパン2022 開催レポート Vol.2

更新日:2023年12月22日


“TEJ2022”フォーラム
[基調講演/第5回観光大臣会合]
脱炭素の取り組みは地球規模での「大きな挑戦」
7カ国と4組織から観光行政トップや専門家が出席

 9月22日の午後には、東京ビッグサイト会議棟で“TEJ2022”フォーラムが開催され、定期航空協会の会長を務める全日空の井上慎一代表取締役社長が「“さぁ、未来の空へ”持続可能な航空業界への挑戦」をテーマに基調講演を行ったのに続き、「観光による気候変動への挑戦/ウィズコロナ・ポストコロナ時代の新しい産業のカタチとは」をテーマに掲げた第5回TEJ観光大臣会合が開かれました。

 

不可欠なサステナビリティへの対応
 井上社長が会長を務める定期航空協会は、航空運送事業に関する調査・研究などを通じ、国内における航空運送事業の健全な発展を促進することを目的に活動を行っており、日本に本拠地を置く航空会社19社が加盟しています。井上社長は、多くの国々や地域を結んで運航を行っている国際航空の分野では、航空輸送によって生じているCO2がどの国や地域に帰属するかを整理するのが難しいことから、国連の専門機関である国際民間航空期間(ICAO)で脱炭素に向けた共通の目標とスキームを定めていることを説明。定期航空協会に加盟する航空各社も、国際線ではICAOが定めた“CORSIA”というCO2削減・オフセットのスキームに従って取り組みを進めており、「航空会社自身が世界中をつなぎ、ヒトとモノの輸送を通じて生まれる価値を次世代に残していくためにもサステナビリティへの対応は不可欠」と強調しました。

 

魅力を存分に堪能できる「空の旅」を
 しかし、航空輸送における脱炭素は技術的に極めて難しいと言われており、文字通り、航空業界にとっての「大きな挑戦」となっています。
 国際航空運送協会(IATA)は、“2050年NetZero”に向けて、SAFと呼ばれる持続可能な航空燃料の活用や新技術・運航上の工夫、カーボン・オフセット、カーボンキャプチャーというCO2除去技術の活用など「難易度の高い技術レベルの実現」と同時に、航空会社だけでなく、あらゆる産業や政府支援を含めた官民連携、燃料製造事業者や投資家、利用者などとの「団結」という2つの視点を提示。
 国内でも、官民の連携によるSAFのイノベーションを図る取り組みが進められており、井上社長は「社会的なSAFの認知度向上も必要」と訴えています。
 井上社長は、さらに、脱炭素以外にも環境保全や生物多様性などの取り組みの重要性を指摘する一方、地域と人をつなぐ航空業界として「地方創生も大切な責務」という認識を示し、新しい旅行スタイルや交流人口の創出を通じて「日本の将来や地球の未来に貢献し、世界中の魅力を存分に堪能できる『空の旅』を提供し続けたい」と決意を表明しました。

 

コロナ禍は課題を再考する機会にも

 

 第5回TEJ観光大臣会合には、カンボジア、ジャマイカ、日本、フィリピン、南アフリカ、スペイン、ウズベキスタンの7カ国から観光行政トップらが出席したほか、アドベンチャートラベル・トレード・アソシエーション(ATTA)、太平洋アジア観光協会(PATA)、国連世界観光機関(UNWTO)、世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の国際観光関連4組織の代表なども議論に加わりました。
 UNWTOのイオン・ビルク賛助会員部本部長は、会合の冒頭で「コロナ禍によって持続可能な観光の推進や官民連携などについて再考する貴重な機会が生まれた」と挨拶。会合での意見交換を通じて、議論が深まることへの期待を示しました。
 会合では、前半のセッションで、各国・組織によるコロナ禍の状況認識や気候変動・持続可能な観光に関わる取り組みが報告されたのに続き、後半のセッションでは、気候変動に対応する取り組みにおける観光の役割や官民連携のあり方について出席者が意見を交換しました。

 

危機抑制へ観光復興基金の創設を
 カンボジアのトック・ソコン観光省国務次官は、森林破壊と二酸化炭素排出の抑制を目指して“One Tourist, One Tree”キャンペーンを開始したことを紹介。環境に配慮した経営指標や表彰制度の設定、観光関連団体による気候変動対策会議の設置など通じた取り組みも報告しています。
 ジャマイカのエドモンド・バートレット観光大臣も、持続可能な観光への転換を図るため、人材の強化・教育を進めていることに言及し、気候変動などの危機によるダメージの抑制に向けて、世界規模での観光復興基金の創設を提案しました。
 日本の石井浩郎国土交通副大臣は、UNWTO駐日事務所と連携して国際基準に倣った日本版「持続可能な観光ガイドライン」を策定するなど、政府として各方面での持続可能な観光を目指す取り組みを支援していることを紹介。
 フィリピンのシャリマル・ホファ・タマノ観光副大臣も、持続可能な観光の推進と観光による自然や気候変動への影響を抑制するため、他省庁や地方政府と積極的に連携していると報告。ASEAN地域におけるリーダーシップを発揮していることも強調しました。

 

 

 

気候変動の課題は官民による協力で
 南アフリカのルラマ・スマッツ・ンゴニャマ駐日大使は、「気候変動では全市民がステークホルダーだ」と指摘。現状では人材などのリソースやノウハウ・技術も不足していることから、「状況の改善に向けて官民のパートナシップが求められる」と訴えています。
 スペイン観光庁のフェルナンド・バルデス・ベレルスト長官も、「これからは気候変動対策が最大のチャレンジだ」と語り、観光客と住民の双方に向けた施策が必要となるため、「国や州に加えて、地域の関係者も含めた協力体制が不可欠」であり、「持続可能な観光の実現には地方主権が肝要だ」と強調しました。
 ウズベキスタンのアジズ・アブドゥハキモフ副首相兼観光文化遺産大臣は、アラル海の干ばつ問題を抱える中央アジアにとって、気候変動は世界でも最も深刻な課題であることに言及。周辺諸国が連携を図る一方、同国では、2億本の植樹による国土緑化プログラムや再生可能エネルギー・水素燃料の利用を推進していると報告しています。