現在地:JATAホーム > 会員・旅行業のみなさまへ > 国内旅行情報 > 提言:「更なる国内旅行にむけて」 > 第1部

第1部 国内旅行の現状と課題認識

1.国内旅行市場の現状

(1)伸び悩む旅行者数・下落傾向の消費単価

国内宿泊旅行者数は、1990年まではゆるやかに増加してきたが、その後現在に至るまで目立った増加は見られない。1990年代に入り、国内旅行における消費単価は年々下落する傾向にある。旅行者数が増えない一方で、消費単価が下落するため、宿泊を伴う国内旅行の総消費額も下落してきている。

長期にわたるデフレ傾向、価格志向が背景にあるとはいえ、旅行業としても、消費者の満足できる付加価値の創造に積極的に挑み、消費額の増加をもたらすサービスが提供できていない事実に目を向ける必要がある。


2001年まで:財団法人日本交通公社
2002,2003年:株式会社ツーリズム・マーケティング研究所推計


2001年まで:財団法人日本交通公社
2002,2003年:株式会社ツーリズム・マーケティング研究所推計

(2)人口構成の変化は市場の変化をもたらす

日本の年齢別人口構成の変化に伴い、旅行市場にも変化が現れている。世代人口1000万人を擁する「団塊世代」が50代の中盤にさしかかり、新たな国内旅行市場のけん引役となることが期待される。この年齢層は、リストラ等収入減のリスクはあるものの、住宅ローンや教育費の負担が軽減し、旅行等に支出できる「実質的な可処分所得」はむしろ増加すると見ることができる。

高度成長期を通じて豊富な消費体験を持ち、さまざまな志向をもつに至った団塊世代に対して、満足できる商品、サービスとそれに見合った価格体系を提供することで、新たな旅行需要を刺激し創造することが可能となる。


総務省統計局 人口推計

(3)団体旅行需要の低下と変化

バブル経済の崩壊以降、国内団体旅行は減少の傾向が続いたが、90年代後半からわが国の経済環境が厳しさを増したことに伴い、企業の職場旅行、招待旅行などの団体旅行の減少は加速している。大手4社の国内団体旅行取扱額は1997年から2001年までの4年間で600億円(約20%)減少した。企業の経費削減が緩められることは期待しがたく、また、団体旅行という旅行スタイルそのものを敬遠する傾向はあるが、そうした中にあって企業内のネット化・個人化によって希薄になった社員間コミュニケーションの活性化を図るための企業コンベンションや、旅行の持つ販売促進効果に着目したインセンティブ・イベントなどの企業主催行事、趣味を同じくする人たちのグループ旅行など、今後の拡大に期待が持てる分野もある。

また、従来旅行会社にとって大きく堅実な事業分野であった教育旅行市場では、少子化により中高校生の人口が今後ますます減少すると推定されている。その結果、修学旅行の規模(クラス数)の縮小が進むとともに、海外修学旅行へのシフトにより国内修学旅行を実施する学校数も減少すると見られる。さらに、クラス行動や班別行動など新しい修学旅行のスタイルが一般化し、大型団体・同一行動・周遊型を前提とした従来の修学旅行から、体験学習などを取り入れた「総合的な学習の時間」と連動した教育プログラム色のより濃い旅行への変化が進んでおり、旅行会社はこうした変化への対応を求められるようになった。

(4)個人旅行需要と価格の二極化

景気停滞の中で法人消費や公共投資に代わって消費を引っ張ってきた個人消費も、ここ数年個人所得の減少に伴い伸び悩み傾向にある。100円ショップの台頭やユニクロなど従来の価格帯を大幅に下回る商品の大量供給により「値ごろ感」が低下する傾向にある一方で、高額の外国高級ブランド品を競って購入したり、数十万円のエステに通うなど、「消費の二極化」が進みつつある。

国内旅行商品も低価格化がさらに進み、特に2001年のテロ事件以降、国内企画商品は大きく値を下げた。2万円を割る航空機利用の1泊商品や1万円以下の新幹線+ホテルのセット商品などが、新聞や旅行会社の店頭で目に付くようになった。一方で、1泊3万円を超える「離れ」を主体とした高級旅館などが半年先まで週末の予約が入らない状態となるなど、国内旅行においても需要と価格の二極化が進行している。


総務省統計局 人口推計

(5)増加する日帰り旅行

近年、高速道路や新幹線の整備が進んだことにより、かつては宿泊しなければ行くことができなかった観光地への日帰り旅行が可能になったことなどを背景に、日帰り旅行参加者は過去四半世紀にわたり増加を続けている。(社)日本観光協会の調査によると、平成13年度に日帰り旅行に出かけた人は国民の65%を占め、日帰り旅行者一人当たりの1年間の参加回数は5.7回であり、国内日帰り旅行消費額は5兆2640億円(国土交通省「我が国における旅行消費の経済波及効果について(2002年)」)となっている。

日帰り旅行は、一部のバスツアーを除いて、従来旅行会社としてあまり積極的にかかわってこなかった分野である。単価が低いため、手間を掛けて旅行の企画や手配を行うと採算が取れにくいことに加え、マイカー中心の旅行であり、宿泊を伴わないことから、予約業務を中心とした旅行会社のビジネスモデルに適応しにくいというのが、その主たる理由であった。

今後、女性グループを中心とした近場の温泉で昼食と入浴を楽しむ小旅行、テーマパークや日帰り入浴施設等への家族・グループでの旅行、スキーをはじめとする日帰りのスポーツレクレーションなど、日帰り旅行市場は、さらに拡大の可能性をもっている。また、宿泊旅行に比べて単価が低いことから、可処分所得伸び悩みの経済環境のなかで宿泊旅行から日帰り旅行へのシフトが進むことも予想される。

(6)新たな国内旅行ニーズ

単に有名観光地を巡るだけでなく、テーマや目的を明確にし、それに沿った訪問地・体験などを組み込んだ旅行の人気が高まっている。テーマ性のある旅行の場合、他に競合商品が少ないことから、同方面への通常の企画商品等にくらべて高付加価値である場合が多い。旅行者自身が「自分だけのオリジナリティーのある旅にしたい」という意識を持って旅行を計画・選択することが増えている。

旅行者の趣味・嗜好が、従来の性・年齢層別のステレオタイプに当てはめられなくなってきている。近畿日本ツーリストのクラブ・ツーリズムのように、同じ趣味や嗜好を持つ人々が集まって、その趣味をテーマにした旅行を企画するという傾向がさらに広まるものと見られる。
ライフスタイルを提案するタイプの旅行、テーマ性のある旅行や、趣味・嗜好に対応した旅行が広まるのに伴い、高いレベルで観光資源の解説を行うことのできるインタプリターや観光ガイドに対する需要が高まっている。
また、少子化・高齢化社会の中でペットを飼う家庭が急激に増加している。国内旅行の底辺拡大のためには、旅行中のペットの世話をするサービスや、ペットを連れて利用できる宿泊・観光施設が増えることがポイントとなる。

さらに、従来、旅行や観光に積極的に参加してこなかった高齢者や障害を持つ人々が、観光・旅行関係インフラのバリアフリー化が進むにつれて、より頻繁に旅行に出かけるようになってきた。今後の高齢化がさらに進めば、観光におけるバリアフリーやユニバーサルデザインに対する要求はますます高まる。また、ハード面中心に進められてきたバリアフリー対応が、接遇や情報提供などのソフト面においても求められるようになる。

(7)わが国の重要政策としての観光政策

政府は、ツーリズムの振興を今後のわが国の重要政策として位置づけ、省庁の枠を超えた政府全体の課題として取り組みを開始した。観光は他の産業に比べて直接・間接の経済波及効果が大きく、また雇用創出力、税収効果の高い産業であるとの認識の下、「経済の起爆剤」として期待されている。

地方自治体も地域経済活性化の重要な要素として観光を捉え、政府の施策と連動して観光振興への取り組みを積極的に展開している。例えば、スローフードをはじめとする「地産地消」の運動等も、観光を軸とした経済活性化の取り組みの一環である。

地域での観光振興が進められる一方で、環境への配慮がより高く意識される中で、環境への配慮をした旅行・観光のありかたが大きな課題となりつつある。エコツアーを振興するのみならず、既存の旅行・観光スタイルの中に、サステイナブル・ツーリズムとして環境への配慮を具体化することが求められるようになってきた。


2.インターネット普及が旅行流通に与えた影響

(1)急速に拡大するインターネット利用者

ここ1、2年の間にADSLおよびケーブルTVの急速な普及により、家庭からインターネットへのブロードバンド接続数が急増している。総務省によると、 2002年末には900万世帯がブロードバンドに接続されており、2003年末には1000万世帯を大きく上回ると予測されている。常時接続の高速回線が定額で利用できるようになり、家庭におけるインターネットの利用が大きく変化した。その結果、中高年齢者を含めて、あらゆる性・年齢層にインターネットの利用および電子商取引が拡大した。

「インターネット白書2003」によると、インターネット利用者の90%弱がオンラインショッピングを経験しており、ほぼ全員が商品・サービスの購入のためにインターネットで情報収集をしている。なかでも旅行関係は、書籍・雑誌に次いでインターネットで情報収集する人の割合が高く(48.3%)、また、インターネットで情報収集後、過半数がそのままオンラインで旅行やチケットを予約・購入している。さらに、オンラインショッピングを利用していない人の中でも、旅行はCD・DVD・ビデオ、書籍・雑誌に次いで今後購入してみたい意向が高いことから、旅行の電子商取引はさらに拡大することが確実である。

(2)利用の増加するオンライン・エージェント

「旅の窓口」、「楽天トラベル」、「イサイズじゃらん」などのオンライン・エージェント経由の旅行・宿泊予約が急激に増加している。「旅の窓口」をはじめとするオンライン宿泊予約サイトの特徴は、宿泊施設側が自社のパソコンを利用して自由に提供客室数を増減したり、販売価格を変更したりすることができることである。この機能があるため宿泊施設は販売状況に応じて臨機応変な対応が可能となり、販売効率を高めることができる。従来、「一物一価」の環境にあった国内旅行商品の価格が、航空運賃の多様化、変動型宿泊料金の登場等により、販売状況や販売チャネル、利用条件等により異なる「一物多価」に移行しつつある。

(3)商品選択の重要な情報となる「利用者による評価」

オンライン宿泊予約サイトでは、利用者・顧客が自らの利用体験にもとづき評価をサイト上にフィードバック(書き込み)する機能を備えているものが多い。利用者による評価は、他の利用者が商品選択する際の重要な情報となっているのみならず、利用者の書き込みに対するサプライアー側の対応(コメント)が、商品購入の判断材料とされている。

(4)既存旅行会社のオンライン販売への取り組み

インターネットの発達による旅行流通の急激な変化に対応するために、既存の旅行会社も1990年代後半から旅行商品のオンライン販売への取り組みを開始した。国内宿泊をはじめとするオンライン販売は、各社とも確実に実績を伸ばしており、宿泊商品の1割以上をオンライン販売が占めるようになった会社もある。

これらの旅行会社にとって、店舗などの既存の販売チャネルとネットによる販売とをどのようにバランスするのか、最大の営業実績と経営効率を上げうる最適な資源配分であるかを判断し、それをもとに遅滞なく営業革新を進めていくことが、これからの大きな経営課題となる。


3.国内旅行業の現状と課題

(1)JR、航空単品の減少と運輸機関の顧客囲い込み

1980年代以前、旅行会社の主力商品であったJR券、航空券は、運輸機関の直販強化に伴い、取扱規模が毎年縮小する傾向にある。さらに、昨年航空会社が予約済み航空券の購入期限を事実上撤廃したことにより、チケットレスサービスの実現が図られ、旅行会社の個人航空券取扱額の減少傾向が強まった。航空会社・JRともにインターネットや携帯電話による予約・チケット購入に対して割引を設定したり、事前座席指定を可能にしたりするなど顧客メリットを高めることで直販化の一層の拡大を図っている。

運輸機関(特に航空会社)は、FFP (Frequent Flyer Program) を利用した顧客管理を強化しており、メールニュースや予約サイトに「マイページ」を設定することなどにより顧客の利便性を高め、直販を推進している。直販化により顧客の購買データ収集が容易になり、運輸機関が顧客との間に相互の直接的な関係を構築するCRM (注)を推進することが可能となってきた。

注:CRM=Customer Relation Management顧客に関する情報を一元的に管理することにより、「顧客毎の個別ニーズの把握」、「顧客にあった商品やサービスの提供」を実施し、顧客との関係を長期的に維持しながら優良顧客に引き上げ、各顧客からの利益を最大化しようとする経営手法のこと。CRMの実現においては、IT(情報技術)を駆使した仕組みやシステムの利用が有効な手段となる。

(2)宿泊単品の企画商品化

ここ数年、各社とも国内企画商品の伸びが顕著だが、その内容を検討すると宿泊商品を企画商品化したものが多いことがわかる。大手4社の宿泊と国内企画商品の合計取扱額の推移をみると、国内企画商品が増加した分、宿泊を含む「総合旅行=個人手配旅行」が減少するという傾向が窺え、結果として国内宿泊の取扱総量はほとんど変化していないと見られる。


株式会社ツーリズム・マーケティング研究所

(3)旅行会社バイパス現象

オンライン・エージェントの台頭やサプライアーの直販拡大にともない、従来型の旅行会社を介さずに(バイパス)、消費者が旅行商品を予約・購入する機会が増加した。また、最近増加の一途を辿っている宿泊特化型のビジネスホテルの多くは、旅行会社からの送客を全く必要としないビジネスモデルで運営されており、国内旅行総需要に占める旅行会社の取扱比率は、さらに減少すると見られる。いわゆる「代売機能」が旅行会社の主要な機能・特権である時代は終わったと言わざるを得ない。

(4)宿泊商品流通に関する課題

宿泊施設は旅行会社に客室を「在庫」として提供し、旅行会社は提供された客室を利用した主催旅行商品として、あるいは宿泊単品として全国の顧客に販売する。宿泊業は独自の販売チャネルを補完するものとして、旅行会社を経由するこのような流通の仕組みを活用して営業の拡大を図ってきた。一方、旅行会社は宿泊施設の客室を顧客に販売することに対して、一定の販売手数料を受け取ることで宿泊商品の販売促進を展開してきた。

「従来、この宿泊商品流通は、宿泊業、旅行会社双方にメリットのある仕組みとして機能してきたが、オンライン・エージェントの登場による宿泊流通の変化が、両者の関係にも変化をもたらし始めている。

そのひとつの表れが、販売手数料の料率に見られる。オンライン・エージェントが宿泊施設に対する販売手数料を6〜8%に設定していることにより、既存の旅行会社に対して販売手数料の引き下げの圧力が顕在化しつつある。一方で旅行会社は営業収入の減少や予約システム開発・運用費用をカバーするため手数料率の引き上げを望んでおり、宿泊施設の意向とのギャップが大きい。こうしたことを背景に、大手旅行会社の中には宿泊施設に対する手数料の全面的見直しに着手したところもある。

(5)情報優位性の逆転現象

雑誌、新聞、テレビなどの既存メディアに加えて、インターネットからの情報を容易に入手できるようになり、消費者が自分の行きたい旅行先に関する最新かつ詳細な情報をもって、旅行会社の店頭を訪れることが増えた。その一方で、旅行会社スタッフは、情報の入手先が自社端末の提供するコンテンツ・タリフ・施設情報などの静的情報などに限定されるため、消費者のほうが観光地に関する詳しい情報をもつケースが増加している。消費者に対する「旅行・観光情報の優位性」という付加価値を旅行会社が提供できなくなりつつある今、旅行会社の専門性が問われている。

(6)地域仕入機能の縮小

各大手旅行会社は、業務効率化をめざして地域仕入機能を大都市拠点に集中化してきているが、この動きに対して地域のサプライアーや自治体は「旅行会社との接点が希薄になった」と感じる傾向がある。各旅行会社の重点送客先となっている旅館の任意組織である旅館連盟の会議等、旅行会社との意見交換の場はあるものの、普段からの四方山話的コミュニケーションを通じての情報交換や、地域での観光プロモーションへの参画が以前より難しくなった。

仕入・販売に関するサプライアー・旅行会社間相互の情報交換は、情報と付加価値に敏感な「賢い消費者」に受け入れられる商品・サービスの開発に不可欠であるが、この機能が低下することにより、旅行会社の仕入・商品企画担当者とサプライアーとの認識の差が広がり、ひいては個々の旅行者との距離が遠くなることが懸念される。

(7)発営業中心の旅行会社に対する地域の期待のギャップ

従来、旅行会社の多くは、主に営業所の所在地周辺の顧客が地域外へ行くアウトバウンド旅行を企画・手配・販売してきた。地元で開かれる大会行事等の取扱が唯一の国内インバウンド発想の業務であった。また、社内的な評価も、ほとんど発営業の実績に基づいて行われてきた。したがって、旅行会社の地域営業所・支店の社員は、地域の観光振興・観光客誘致に関して、地元の行政や観光協会、個々のサプライアーと必ずしも積極的に関わってきていないのが実態である。

一方、地域の観光促進に携わる行政、観光協会、サプライアー等の団体は、地域の観光資源・観光商品を全国に宣伝し、流通させる機能として旅行会社に高い期待を抱いている。このように、一般的に旅行会社と地域との間で、旅行会社の果たすべき役割・機能に関してミスマッチが生じている。

そうした中、一部の旅行会社には地域と共同で新しい観光地や観光資源の開発への取り組みの萌芽が見られる。山形県の小野川温泉や徳島県の祖谷温泉などは、地域、旅行会社、運輸機関が共同で新たな観光地づくりを試みた先行事例である。また(社)全国旅行業協会では、業界団体として「着地型商品」の開発と「着地型旅行業」の事業モデルづくりに取り組むなど、徐々にではあるが旅行会社が地域の観光資源開発にかかわる動きは広がってきている。

(8)旅行代金決済手段の簡素化の必要性

旅行者とサプライアーとの間の決済の流れは、旅行会社が旅行者から旅行代金を収受し、それにもとづき有価証券である「クーポン」を発行し、旅行者からクーポンを受け取ったサプライアーが、金融機関経由または直接旅行会社にクーポンを持ち込んで現金化するというのが一般的である。旅行会社はクーポンに対する支払いに際して、販売及び決済代行の見返りとして一定率の手数料を控除する。最近、一部の大手旅行会社では、予約・クーポン発券データに基づきサプライアーと直接決済を行っているが、これとても電子的な手法を利用しているものの、制度的にはクーポンと同様である。

クーポンによる決済制度は、旅行会社にとってサプライアーとの決済金という形での資金調達の手段として、またサプライアーにとっても売掛金を短期に間違いなく回収できる決済手段として、双方にメリットのあるしくみとして今日まで広く利用されてきた。
しかしながら現在では、世界的に見ると有価証券としてのクーポン制度を利用している国は少なくなっており、航空券の「チケットレス」化が進めば、さらにクーポンの利用は減少することが予想される。わが国の旅行業界においても、決済手段の簡素化について、早急な検討と具体化に向けた取り組みが求められる。

(9)観光マーケティング―旅行会社の新たな機能―

これまで旅行会社は、既存の観光施設・観光資源を利用した旅行の販売を行ってきたが、新たな観光資源を発掘・開発し、それを売っていくという発想が十分でなかった。今後、旅行会社の存在意義を堅固に維持していくためにも、地域と連携しながら消費者にアピールできる新しい観光資源を作り出し、そこから新たな観光需要を創造していくことが、旅行会社の重要な機能となりうるとともに、課題である。

(10)「鎖国」状態にある国内旅行オペレーション

わが国の観光・旅行産業においては、固有の契約制度、料金体系、決済手段、言語等が存在するために、国内旅行は世界から見ると「鎖国」状態にある。各旅行会社の国内旅行オペレーションのしくみも、この「閉ざされた」世界を標準に作られているため、世界標準からは大きく乖離している。

東アジアにおける観光分野の広域経済圏構想であるEast Plan をはじめとして、国境を越えた観光・人的交流が当然のものとして行われるようになることは確実であり、グローバルスタンダードに準拠した国内旅行の制度・オペレーションの仕組みづくりが必要となる。

(11)人材育成

国内旅行は、海外旅行に比べて、言語、オペレーションノウハウ、観光地理等において特殊な知識・経験を要求されてこなかったことから、旅行会社は国内旅行分野の専門家育成を十分行ってきたとは言いがたい。しかしながら、国内旅行マーケットが急激に変化し、旅行者のニーズや旅行スタイルが多様化するとともに、地域も新たな観光資源の開発や観光魅力のアピールを積極的に行うようになった現在、お客様に十分な満足を提供できる旅行商品の開発や販売には、それぞれの地域について広く、深い知識や経験が従来にも増して求められる。インターネット等を通じて旅行・観光情報が容易に入手できるようになったことに伴い、お客様の持つデスティネーション情報も広く深いものとなり、それを超える旅行知識・ノウハウが旅行のプロである旅行会社社員に要求されるようになってきた。

さらに、今後の旅行が一般的な観光名所周遊やリゾートでの滞在にとどまらず、特定のテーマを深く掘り下げたりテーマに沿った体験をしたりする形態が増加すると見られることから、デスティネーションに関する情報に加えて、それぞれのテーマに関する専門的な情報提供の必要性も高まるであろう。

こうしたことから、国内旅行スペシャリストの育成が急務であることは疑問の余地がないが、一方で旅行会社の実態は、コスト抑制の観点から販売担当者の派遣社員や契約社員へのシフトが進み、平均的な旅行業経験年数が急速に低下し、マニュアル以上の販売業務を期待しがたい社員が増加しているのが実情である。コストをコントロールしつつ、情報化時代のお客様にプロとしてのサービスを提供できる旅行会社スタッフの育成は、きわめて大きな課題であり、チャレンジである。


4.国内旅行サプライアーの現状と課題

(1)運輸機関の現状と課題

経営環境が厳しさを増す中で、直接販売比率の拡大による流通コスト削減は各運輸機関の重要な課題となっている。

従来、ロードファクター(座席利用率)が航空会社における業績の重要な指標であったが、世界的にイールド(便・路線あたりの総売上、利益)を重視する流れとなってきている。その結果、団体や企画商品用の特別運賃で提供される座席数が絞られるなど、旅行会社にとっては販売がしにくくなっている。

運輸機関の多くは、それぞれ旅行部門(グループ会社を含む)を持っており、航空会社やJR各社は、旅行部門をグループ戦略上の重要な機能として位置づけて強化を図っている。特にJR各社は傘下のホテルやレンタカーなどを含めた新たな旅行商品の開発や、地域や旅行会社と共同のデスティネーション開発など、積極的な取り組みを行っている。

他方、私鉄の中には、旅行部門の縮小や業態見直しを進めているところもあり、旅行部門への温度差が大きい。

(2)宿泊業の現状と課題

<1>厳しい宿泊業の財務状況

1980年代から90年代前半に掛けて、バブル経済に伴う国内旅行市場の拡大と消費単価の増加を背景に、国内の宿泊施設は客室の新増築、宴会場・コンベンション設備、大浴場等の新設・改修など、効率性のよい団体旅行を目当てにした大規模の投資を行った。当時は金融機関も融資を促進しており、高水準の金利で多額の借り入れを行った宿泊施設が多くあった。その後、急激に市場環境・経営環境が変化したことに伴い、当時の投資が現在の宿泊施設経営の大きな足かせとなっている。

大型投資の金利返済や減価償却によりコストが嵩む一方で、バブル崩壊以降法人需要が急激に冷え込み、目当てにしていた団体旅行が減少した。これに伴い宿泊単価と総消費額が下落し、宿泊業の収支は急速に悪化した。すでに大規模な投資により施設を保有してしまっているため、施設のランニングコストや減価償却費、固定資産税などの固定費を削減することが困難になっており、現在、国内の宿泊施設の過半数が赤字経営となっている。損益が悪化することにより投下した資金が回収できず、かえって負債額が膨らむ結果となり、債務超過に陥る宿泊施設が続出している。キャッシュフローは悪く、翌月の支払いに追われる施設も少なくない。

金融機関の不良債権処理のため、宿泊施設に対する融資はかつてないほど厳しくなっており、追加の借り入れもできないままに経営破たんする大・中規模老舗旅館が後を絶たない。

<2>宿泊業から見た流通にかかわる課題

宿泊業では、固定費の削減が難しい一方で、営業経費や旅行会社への販売手数料などの流通コストについて、支出額とその効果に関し厳しく検証を行っている。インターネットなどの代替流通手段が普及した今日、一方で旅行会社の送客力のメリットを享受しつつも、旅行会社に対する販売手数料が旅行会社の提供するどのような便益に対するものなのか、その額(率)が妥当なものなのか、改めて疑問を投げかけている。

宿泊業に対するヒアリングによれば、大手旅行会社は宿泊施設の客室を「仕入」と称して1年前から自社の「販売在庫」として提供を受けているが、週末や長期休暇期間などのピーク時を除いて、在庫室数の1、2割程度の販売に終わっているのが実態であるとのことである。自社で販売できなかった客室は、宿泊施設が希望すれば2、3週間前の手仕舞後に「返室」されるが、それまでは原則として宿泊施設側が販売することはできない。旅行会社は「返室」に対してペナルティーを受けることがなく、旅行会社から「返室」された時点では客室を再販売することが難しいため、販売効率がなかなか良くならない等の批判が宿泊業側から表明されるようになってきた。従来は、旅行会社利用のメリットを踏まえて、それを「商慣習」として受容してきたが、「旅の窓口」をはじめとするインターネット予約サイトが、「返室いつでも自由、料金変更自由」のサービスを提供するとともに、インターネット等を通じた直販実績が上がってくるに従って、それまで潜在的に抱いていた思いが次第に表面化するようになってきた。

宿泊業からは、「仕入れ」た客室に対し旅行会社が一定の経済的責任を負うしくみ(デポジット制、買い取り制など)の導入や、販売手数料を廃し、物販と同様に販売数量に応じてネット価格で提供された客室を、旅行会社が自社の責任で価格設定し販売する方式などが提案されている。

<3>宿泊単品の企画商品にかかわる課題

宿泊単品の企画商品が拡大傾向にあるが、販売価格をもとに宿泊客が期待する内容と、宿泊施設が旅行会社に提供する料金の範囲内で可能なサービスとの間にギャップが生じる場合がある。このギャップが原因で、宿泊客が期待するだけのサービスが提供できず、満足していただけないのみならず、宿泊施設そのものに対するイメージが低下する恐れがあるとの懸念を、宿泊業から指摘されている。

宿泊業は、それぞれの施設の個性を大切にし、その個性を生かした商品企画を期待している一方、旅行会社側は、個々の宿泊施設の個性よりも地域全体で共通のサービス提供をするキャンペーンを企画する傾向があり、双方の意向にギャップが生じている。たとえば、旅行会社の国内商品企画部門が、ある地区の企画商品に参画する宿泊施設すべてに夕食時「カニ一杯」付を要求する場合がある。施設によっては、「カニ一杯」が料理全体のバランスを崩すことを懸念し、また、質の高い料理を売り物にしている施設では、安く仕入れられる質の低いカニを提供することに強い抵抗を感じる。だからといって質の高いカニ一杯を提供すると食材の原価率が上がり、そのままの販売料金では赤字になってしまう。

宿泊業側は、旅行会社の企画担当者に料理やサービスに関する知識をもっと身につけてもらい、それによって施設もお客様も満足できる商品を共同で企画開発することを期待するが、旅行会社担当者の知識レベルが期待に追いついていないのが現状である。

企画商品造成のリードタイムの長さも、宿泊業と旅行会社の間の課題となっている。従来、企画商品の造成のためには、発売の半年から9ヶ月ほど前から商品内容の検討や料金交渉を行わなければならない。市場の変化が激しい今日においては、半年前のマーケットトレンドに基づいて商品を企画しても、発売する頃にはブームが過ぎ去っているということにもなりかねない。いきおい、直近の消費トレンドを反映した商品を企画し市場に投入しようとするならば、リードタイムの短いメディア商品か、直販で対応せざるをえないというところに、宿泊業はいらだたしさを感じている。

さらに、新たな企画商品の造成に際して旅行会社は、その商品用に一定数の客室の追加提供を求めてくる場合がある。消費者に人気の高い小・中規模施設では、そもそも旅行会社に提供できる客室数が少なく、追加提供のリクエストに応じることができない。その結果、プランに参画できるのは客室数の多い大規模団体用旅館が多くなり、消費者のニーズに合いにくくなるというジレンマが生じている。

<4>宿泊業の直販推進

宿泊業においても、従来の旅行会社のみに販売を依存せず、インターネットや顧客データベースを活用した直接販売を促進している。ビジネスホテルやリゾートホテルの一部では、すでに予約の半数以上がインターネットによる直手配になっており、この傾向は今後拡大すると見られる。

宿泊業がインターネット等を利用した直販を推進するひとつの理由は流通コストの低減であるが、もうひとつの理由は、自施設ならではの特色ある商品を絞り込んだマーケットを対象に販売するには直販の方が効率的であるためである。

<5>旅館における食事選択の多様化

旅館の食事に対するお客様のニーズは、より一層多様化してきているが、旅館側の対応は個々の施設により大きく異なる。大多数は1泊2食を基本とし宿泊料金に応じて食事の内容を一元的に決めており、多様化する食ニーズへの対応は一般的に遅れ気味である。宿泊料金と食事料金を分離した旅館は、ごく少数であるが、1泊2食料金を基本としながらも、インターネットでの直接予約や旅行会社の泊食分離型企画商品に限定して泊食分離を試行している旅館や、食事内容や食事の量について、きめ細かい選択ができるようにした旅館も徐々に増えつつある。

完全に泊食分離した旅館の中には、旅館経営の大きな課題である板場をなくすことにより、コストを軽減して経営を立て直しに成功した事例もある。また、本格的な和食の夕食を楽しみたいお客様のために、料理・調理の現場を見せるパフォーマンスや隣接する高級旅館と提携して、そこの料亭で夕食を提供するプランの設定など、新たなスタイルの旅館サービスの萌芽が見られる。

<6>「囲い込み」から開かれた観光地へ

1980年代から90年代にかけて、各宿泊施設は館内設備を充実させることにより宿泊客を館内に「囲い込み」、館内消費額の最大化を図った。しかしながら、企業丸抱えの招待旅行など高額の館内消費が期待できる顧客層が急激に減少し、かわって個人・グループ客が増加すると、館内に囲い込まれることの抵抗感が表出した。折しも由布院や黒川温泉、小野川温泉など「街歩きのできる観光地」や「湯めぐり」のできる温泉が脚光を浴び、時代は「囲い込み」とは逆の方向に転換してきている。早くからそれに気が付き、地域の一体化や連携の取り組みを具体化できている観光地が評価されるようになった。

一方、団体客中心の「囲い込み」営業からの脱却が遅れた施設や観光地の中には、バブル崩壊以降、業績が急激に悪化し再生の糸口が見出せないところが少なくない。

<7>個人化への対応

国内の宿泊施設では団体客が減少し、個人と小グループ客が増加している。各宿泊施設では従来の宴会場をつぶして食事処を新設したり、個人・小グループ向けの商品を企画したり、連泊プランを提供したりするなどして、市場の変化への対応を図っている。また、従来、旅行会社の団体営業担当者中心だった営業アプローチも、個人マーケット向けに見直しを迫られている。


5.地域の現状と課題

(1)地域に開かれた観光地

従来の多くの観光地では、従来の宿泊業やアトラクション、みやげ物屋などのいわゆる「観光関連業者」が積極的に観光客を受け入れ、地域に対しては「閉じて」いた。しかしながら、旅行スタイルの変化とともに、旅館や観光施設のみならず、訪れた地域全体の自然や生活文化を楽しみたいという傾向が強まってきた。これからは、観光関連施設が地域に対して開かれ、地域全体が観光客を受け入れることにより、地域の活性化と経済効果を享受できるというあり方を目指す観光地が増えると見られる。

こうした流れの中で、地域住民を巻き込んだ観光関連のNPOが各地で設立され、観光をベースとした地域活性化への地道な取り組みを行っている。従来旅行会社と観光関連のNPOとの間では、利潤追求の企業と非営利団体との性格の違いから、相互の接点はきわめて限定的なものであったが、観光関連NPOを支援しつつ、これらと連携して新たな観光資源を開発・商品化することは、国内旅行活性化にかかわる今後の旅行業の課題となる。

(2)新たな観光スタイルの開発

観光の形態が、団体旅行から個人旅行へ、周遊型から滞在型に変化しつつある中で、個々の観光客の主体性を尊重して、学びや癒しや遊びなど、それぞれなりの楽しみ方を可能にする新しい観光スタイルの開発が求められる。

自然や景観、温泉などを売り物とする国内の観光地の多くは、農山漁村に立地し、それらの地域では過疎化、高齢化が大きな問題となっている。観光は、ともすれば地域内にこもりきりになりがちな住民と、観光によって地域を訪れる都市住民との交流の機会として期待されている。

農山漁村や活力の低下している地方都市において、地域外からの観光客が増加することは、生活・経済の両面において地域の活性化につながる。政府も「住んでよし、訪れてよし」のまちづくりをスローガンに、観光振興を基軸にした地域づくり、歩いて楽しめるまちづくりを提唱している。

(3)生かしきれていない「観光資源」

地域にはさまざまな観光資源が埋もれている。従来の「観光資源」という概念からは外れるため、その地域の人々には観光資源としての価値を見出されないような「あたりまえの生活の一部」も、観光客の視点で見ると大きな魅力をもつ資源である場合が少なくない。このような埋もれた観光資源を発掘し、新たな観光魅力として都市住民に紹介し、さらに「観光商品」としてマーケティングすることができれば、地域にとっては大きなプラスとなりうる。

国内の自治体は、それぞれ「商工観光課」、「産業振興課」などの部署を持ち、地域の観光振興を推進しているが、著名な観光地をもたない多くの自治体の悩みは、地域のすばらしい観光資源を旅行商品として流通させ、都市住民にマーケティングすることができないことにある。これらの自治体は、旅行会社との接点が見つからず、独自でマーケティング活動を行おうとするが、力量・スキル両面で不足しており、結果を出せないでいることが多い。

(4)観光情報の重要性とその現状

観光は持ち運びができず、その場に行かない限り見たり体験したりすることのできない商品であるため、観光の振興において情報の果たす役割は極めて大きい。地域は地元の観光情報を、国内外のさまざまな人に対して、さまざまな方法で発信している。観光パンフレットの制作・配布、広告宣伝、雑誌や新聞・電波媒体などを通じてのパブリシティ、観光キャラバンの派遣、観光イベントの開催、ガイドブックへの掲載などの情報発信活動が、各地域で、あるいは地域の広域連携により実施されている。これらの地域情報発信に関しては、地域で作成したパンフレットの配布や観光キャラバンに対する店頭スペースの提供など、さまざまな形で旅行会社が関与している。また、地域が用意した販促物のみならず、旅行会社の作成する旅行パンフレットも地域観光情報の提供に大きな役割を果たしている。

また、インターネットの普及に伴い、最近では多くの地域(自治体・観光協会)がホームページや電子メールによる観光情報の提供に力を入れている。

(社)日本観光協会では、平成12年に国内の観光地情報を一元的に検索できるしくみとして、「全国地域観光情報センター」を立ち上げた。各地域の観光情報をXML形式により標準化し、地図情報と重ね合わせてさまざまな端末で活用する試み「観光GIS」も進みつつある。

しかし一方では、各地域の発信する観光情報が見てほしい消費者のところに届かず、反対に消費者は自分の求めている観光情報をなかなか見つけ出せないでいるという実態がある。情報発信のチャネルや媒体の見直し、情報提供のターゲットとすべき旅行市場の明確化、消費者ニーズに合った情報提供内容になっているかどうかの検証など、観光情報に関して地域で検討すべき課題は多い。それと同時に、あふれるばかりの観光情報の中から、旅行者が求める情報を的確に選択して提供するという役割において、旅行会社に対する期待も高まっている。


このページの先頭へ戻る