3月号インデックス特集1特集2│旅の力│JATA NOW Cafe de JATA 添乗員のための旅行医学バックナンバー
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P6 【旅の力】





 現代社会は虐待やうつ病の増加、就職難、少子化、国力の低下など、さまざまな問題を抱えていますが、私は旅が持つ人生や日常を豊かにする力はとても大きく、旅がこれらの問題の一助になると感じています。私自身、会社員時代は仕事のストレスが強く、旅行に行くことで心身のバランスを取っていました。また、子どもが生まれると、育児の疲れとストレスで精神的に余裕が無くなり、子どもの首が据わった生後4カ月の時に、自身のリフレッシュを目的に旅行を計画しました。当時は、「乳児を連れて旅行に行くなんてとんでもない」という周りからの風当たりがとても強かったのですが、行ってみると心に余裕が生まれ、帰宅後も前向きに育児に取り組むことができました。このように、仕事や育児、家事に追われて心に余裕がなくなっている人たちにこそ、旅は必要だと思います。ただ、そういう人たちの多くは旅行になかなか踏み切れないもの。だからこそ「旅行は心や体の健康の力になる」ことを、旅行会社が訴えていかなくてはならないような気がします。


 旅において交流の力、教育の力は大変大きな意味をもつと思います。以前、家族で訪れたフィジーでは、子どもをキッズクラブに参加させてみました。そこでは、現地の文化を遊びながら学べるだけでなく、他国から来た同じ年頃の子どもたちと言葉の壁を越えて交流する経験を得ました。こういった経験は、子どもが大人になって生きていく中で非常に貴重です。「生きる力」を育むには、学校の勉強だけでは充分とはいえません。本来もつ力を育て養う上で、体験で学べる旅が与える影響は大きいと思います。  
 親は子どもの教育にはお金を惜しまないものですから、この分野はビジネスとして訴求できるポイントではないでしょうか。


 旅の需要喚起に最も有効なのは成功経験の積み重ねです。旅行に行く人と行かない人の二極化が進んでいますが、行かない人にとって旅は「行って終わり」の一時的なものという認識が強いようです。また、価格だけに注目して安いツアーを選び、「思った内容と違ってがっかり。時間とお金の無駄遣いだった」という経験をしている人も多いように感じます。「行って良かった」という満足がなければ、次の旅へのモチベーションはあがりません。だからこそ、ひとつひとつの旅で成功体験を持たせてあげることが必要です。旅行に行きたいと思うポイントは人それぞれ違います。その人に合った訴求のポイントを見据えることがビジネスの鍵になると思います。
 まずは、ツアーパンフレットにありがちな「癒し」などのキーワードなどを、もう一度見直してみてはどうでしょうか。メディアや企業などは「癒し」「女子会」「パワースポット」などの流行のキーワードに飛びつきがちですが、重要なのはそのキーワードの奥にある、「なぜ今癒しが必要なのか」「女子会でいったい何が語られているのか」「パワースポットに何を求めているのか」を見極めることではないでしょうか。その先に新しい旅のテーマがあると感じます。



 消費者が旅に求めるものを見つけるには、相手の気持ちに寄り添って考えてみることが必要だと思います。たとえば、ご家族を介護されている方の場合、「リフレッシュできるツアーがあります」と提案したところで、その家族をおいて簡単に家を空けられるはずもなく、積極的に旅を計画する気にはならないでしょう。対象者に合うツアーを告知するだけではなく、その人が「どうすれば行くことができるのか」という阻害理由をクリアできるサービスも同時に提供する必要があります。それは、高齢者や障がい者と一緒に行けるツアーかもしれませんし、旅行で留守をする間、安心して預けられるサービスかもしれません。サービス提供者にならなくても、「こんなサービスがありますよ。このツアー参加者には優先予約権があります」というだけで、「行けるかも。行っていいのかも」と旅への希望が湧き、また旅行会社への信頼感も高まります。
 今後はその人それぞれの背景や取り巻く環境まで考えて旅を企画・提案することが必要であり、そのためには相手の日常に寄り添う姿勢が大切なのです。
 
海外のキッズクラブなどは国際交流のチャンス。
多様性やコミュニケーションが学べる。

 本来旅行という商品は、価値を見出せばお金を出しやすいものだと思います。昨今は価格を訴求する傾向が強く、旅の価値の見せ方に工夫が感じられないという印象を受けます。まずはターゲットを絞って客層ごとに差別化を図り、その上で社会のニーズを見て、売り方、戦略を変えていくことが必要です。以前、ビデオショップで子どもと一緒に使える日焼け止めクリームの試供品をもらいました。子ども連れではなかったのですが、子ども向けのDVDを借りたときでした。企業が、子どもがいるお母さんが普段からどういった行動に出るのかを調査した結果の売り方、PRの仕方だと感心しました。
 これまで旅行会社は「疲れたから旅行に行って休みたい」など、明確に旅行のニーズが顕在化した人を対象にしてきました。しかし、人口が減少していく中、旅へ積極的でない人や、旅行という明確なニーズがない時にもアプローチをしていかなければ市場は縮小していく一方です。今後、旅行会社は「旅の力」と「消費者の潜在的な欲求」を結びつけ、消費者自身が気付いていないニーズを掘り起こしていかなければなりません。それが、人々の旅行の機会を増やし、また地域の旅の力の流通や掘り起こしにつながるのではないでしょうか。そのためには、人の欲求の根源や社会情勢なども注視してツアー造成や商品開発を行っていくことが重要だと感じています。
 旅行は、目的ではなく自分の人生を幸せに歩むための1つの手段です。その手段の部分をどう提供できるのか、旅行会社にできる役割は大きいのではないでしょうか。
 
親子で何か一緒の体験をするのは
家族旅行ならでは。


子どもにカメラを持たせると、
子どもならではの視点で景色を切り取る。

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