
日本を訪れる外国人旅行者の数は昨年10月までに732万人(JNTO推計)を数え、年間では900万人に達する見込みです。韓国、中国、香港のアジア主要市場だけでなく、欧米も2008年並みに回復しています。なかでもFITの多いスペインとイタリアは旅費が高いにもかかわらず、新たなハネムーン先として日本が注目されており、その勢いは今年も続きそうです。
また、700?1,000人規模のMICEや、ラグジュアリーの市場が伸びているのも訪日旅行にとって明るい話題です。MICEは従来から日系企業のインセンティブツアーの取り扱いはありましたが、北欧、東欧、ポルトガル、スペイン、トルコ、ギリシアなどから日本と取引のない企業の問い合わせや成約が相次いでいます。この分野は受注すれば経済的な効果が大きいことから、他国のように官民一体となって上手に「日本」をブランディングすることで、より大きな成長が望めます。

昨年はモスクワ、カンヌ、バルセロナなど10都市以上の商談会に出展しましたが、「なぜ、今まで出展しなかったんだ」などと各地で歓迎され、日本への期待の高さを感じました。日本は物価が高くて遠い国というイメージがいまだにあるようですが、正確な情報を発信することでイメージを覆すことができ大きな需要が生まれると感じています。
自動車、製薬、IT、金融などの業界や、各種学会の日本への注目度は今までにないほど盛り上がっています。経済効果の大きいMICEの誘致事業は少なくとも3年は継続できるように、国の事業として予算の計上を望みます。

余談ですが、海外旅行や国内旅行には、デスティネーションスペシャリストのような業界団体が実施している資格制度や各種のセミナーなどがありますが、インバウンドには資格やモチベーションアップにつながる研修制度があまりありません。個人のスキルアップはもちろん、若手の育成、横のつながりや業界の発展のためにも、何らかの資格制度があるとインバウンド担当者のやりがいもアップすると思います。

ロンドン支店長を兼務し、度々ヨーロッパを訪れますが、観光地では日本人旅行者が影を潜め、中国や韓国からの観光客が席巻している姿に圧倒されます。旅行は2国間、3国間のツーウェイが基本であり、さらなるアウトバウンドの奮起が望まれます。一方で現地からは日本の旅行会社に商習慣のグ
ローバルスタンダード化を望む声が聞かれます。FIT化が進む日本に比べ、中国や韓国は団体で多くが押し寄せることから、数を求めるランドオペレーターやホテルが日本以外のアジア諸国を有望視する傾向があるかもしれませんが、日本の事後精算に見られる商習慣やインフルエンザなどの事象に過敏に反応する日本人の行動に違和感を感じている様子も見受けられます。今後ますます世界に通用する資質への変革を求められるのではないでしょうか。

欧米でも、消費者は航空券やホテルを自分で手配する人はいますが、更なる付加価値を求める消費者、特に中産階級以上の人々にヒューマンタッチを求める傾向があり、旅行会社への回帰現象が見られます。たとえば、ホテルや旅館をネットで予約したものの、食事内容やビュー、アクセスなどに不安を感じる人は旅行会社に相談し、そのサービスの対価としてコンサルティングフィーを旅行会社に支払います。欧米ではサービスに対する対価を支払うのは当たり前の文化。今後は日本でも各分野でスペシャリスト化を進め、蓄積した知識をさらにレベルアップしてコンサルティングで収益を得られるようになることもグローバルスタンダードの形と言えるかもしれません。
インバウンドでは、専任者が旅行の相談、企画、手配そして添乗までこなす自己完結的なスタイルでやっています。ボ
リュームが増えると業務の効率化のため分業が必要かもしれませんが、各担当者が同じ気持ちで、お客様に対してヒューマンタッチのサービスを提供することこそ、旅行会社の存在感があるのではないでしょうか。
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