1月号インデックス年頭所感│新春特別インタビュー│旅の力JATA NOW Cafe de JATA 添乗員のための旅行医学バックナンバー
   旅の力
P2 【新春特別インタビュー】



 リーマンショック後、残念ながら先進国の経済状況は立ち直っていません。IMF(国際通貨基金)は2010年の世界経済は順調に回復すると予測していますが、これは中国や東南アジアなど新興国の成長によるところが大きく、日米欧の回復のスピードは緩やかとなっています。加えて少子高齢化、人口の減少、デフレからの脱却の遅れなど、日本は二重苦、三重苦に陥っているほか、財政赤字は世界でも突出しています。いち早く経済を回復させ、成長を軌道に乗せる必要がありますが、それには新成長戦略を速やかに実行し、成長著しいアジアをはじめとする新興国の需要を取り込むとともに国内需要の喚起を図る必要があるでしょう。


 デジタル化、ネットワーク化が進み、世界はわずかこの20年ほどでグローバル化が急速に進行しました。世界を相手にした市場競争の真っ只中で勝たないと、企業や国は生き残れません。観光業や地方でも同じです。世界中の人が旅行の目的地にどこを選ぶか。観光地こそ市場経済の中に置かれています。グローバル社会で競争力を高め、戦略的に誘客・送客を実行する。すなわち、今こそ、観光力が問われています。
 新成長戦略のひとつに観光が掲げられ、遅れていた観光政策にやっと手がつきました。潜在需要を発掘し、短期間で効果を出さなければなりません。アメリカやドイツやスペイン並みに国家戦略として本気で観光に取り組む必要があります。
 それには、国民一人ひとりが観光の重要性を認識し、地域の活性化やまちづくりに観光が役立つことを理解する必要があります。国内旅行の消費額は年間23.6兆円(平成20年度)と、他の産業に比べても遜色ありません。投資額が市場規模の割に小さいことを考えると、大変期待できる産業であることは間違いありません。


 内需の拡大が難しい今、外国人観光客の誘致は市場拡大の鍵を握っています。しかし、2009年は679万人の外国人しか誘致できていません。四季折々の自然やおもてなしの精神を感じていただき、「ぜひもう一度、日本を訪れてみたい」と思っていただけるよう、観光産業に日本の観光力を育てていただきたいと思っています。
 観光産業は、交通、宿泊、観光施設だけでなく、地方の企業、工場、医療機関、学校などあらゆるところに影響を与える、すそ野の広い産業です。地域間の連携と切磋琢磨による誘客のアイデアを競い合い、サービスの向上や観光収入に結び付けて外国人観光客3000万人の誘致を目指す。その経済効果を将来的には4.5兆円へと押し上げ、観光が日本を潤す産業になることを期待しています。


 その中で旅行業の皆様が中心となってネットワークを築き、多くの外国人観光客に日本を選んでいただける競争力のある国・地域づくりに参画していただきたいと思います。
 旅行業の果たす役割についてですが、より着地側の視点で地域の活性化に貢献していただくとともに、豊富な経験を活かして地域の人材育成にも取り組んでいただきたいと思います。訪日旅行について、国の政策は現在、アジアに力を入れていますが、欧米からのお客さまも大切です。旅行業界の皆様には日本の良い観光資源を次々に発掘していただき、観光需要を牽引する役割を期待しています。



 また、観光はツーウェイツーリズムが基本です。今、日本の企業では外国人を含めたグローバルな視点を持った人材を求めています。将来の多様性に耐えられる人材を育成するためにも、日本の若者はもっと海外を旅行し、外から日本を見る視野を養う必要があります。若者の海外旅行離れを放っておけば、日本の経済は劣化します。現在、日本で働く外国人高度人材は1%にも満たず、10?
30%ほどある他国に比べ、大きな差があります。人口の減少が予想される日本はますます外国人人材に頼らざるを得ません。そうした環境に対応できる高度な人材が求められています。そういう意味では、旅行業界は日本の将来を担っていると言っても過言ではないでしょう。
 今年、日本観光協会とTIJ(日本ツーリズム産業団体連合会)は合体し、インバウンドだけではなく、相互交流についても積極的に取り組んでいきます。ぜひ、旅行業界の皆様には、産業や地域の観光力に磨きをかけていただくとともに、海外との相互交流にも一層努力していただくことを望みます。



 日本を訪れる外国人旅行者の数は昨年10月までに732万人(JNTO推計)を数え、年間では900万人に達する見込みです。韓国、中国、香港のアジア主要市場だけでなく、欧米も2008年並みに回復しています。なかでもFITの多いスペインとイタリアは旅費が高いにもかかわらず、新たなハネムーン先として日本が注目されており、その勢いは今年も続きそうです。
 また、700?1,000人規模のMICEや、ラグジュアリーの市場が伸びているのも訪日旅行にとって明るい話題です。MICEは従来から日系企業のインセンティブツアーの取り扱いはありましたが、北欧、東欧、ポルトガル、スペイン、トルコ、ギリシアなどから日本と取引のない企業の問い合わせや成約が相次いでいます。この分野は受注すれば経済的な効果が大きいことから、他国のように官民一体となって上手に「日本」をブランディングすることで、より大きな成長が望めます。


昨年はモスクワ、カンヌ、バルセロナなど10都市以上の商談会に出展しましたが、「なぜ、今まで出展しなかったんだ」などと各地で歓迎され、日本への期待の高さを感じました。日本は物価が高くて遠い国というイメージがいまだにあるようですが、正確な情報を発信することでイメージを覆すことができ大きな需要が生まれると感じています。
 自動車、製薬、IT、金融などの業界や、各種学会の日本への注目度は今までにないほど盛り上がっています。経済効果の大きいMICEの誘致事業は少なくとも3年は継続できるように、国の事業として予算の計上を望みます。


 余談ですが、海外旅行や国内旅行には、デスティネーションスペシャリストのような業界団体が実施している資格制度や各種のセミナーなどがありますが、インバウンドには資格やモチベーションアップにつながる研修制度があまりありません。個人のスキルアップはもちろん、若手の育成、横のつながりや業界の発展のためにも、何らかの資格制度があるとインバウンド担当者のやりがいもアップすると思います。


 ロンドン支店長を兼務し、度々ヨーロッパを訪れますが、観光地では日本人旅行者が影を潜め、中国や韓国からの観光客が席巻している姿に圧倒されます。旅行は2国間、3国間のツーウェイが基本であり、さらなるアウトバウンドの奮起が望まれます。一方で現地からは日本の旅行会社に商習慣のグ
ローバルスタンダード化を望む声が聞かれます。FIT化が進む日本に比べ、中国や韓国は団体で多くが押し寄せることから、数を求めるランドオペレーターやホテルが日本以外のアジア諸国を有望視する傾向があるかもしれませんが、日本の事後精算に見られる商習慣やインフルエンザなどの事象に過敏に反応する日本人の行動に違和感を感じている様子も見受けられます。今後ますます世界に通用する資質への変革を求められるのではないでしょうか。


 欧米でも、消費者は航空券やホテルを自分で手配する人はいますが、更なる付加価値を求める消費者、特に中産階級以上の人々にヒューマンタッチを求める傾向があり、旅行会社への回帰現象が見られます。たとえば、ホテルや旅館をネットで予約したものの、食事内容やビュー、アクセスなどに不安を感じる人は旅行会社に相談し、そのサービスの対価としてコンサルティングフィーを旅行会社に支払います。欧米ではサービスに対する対価を支払うのは当たり前の文化。今後は日本でも各分野でスペシャリスト化を進め、蓄積した知識をさらにレベルアップしてコンサルティングで収益を得られるようになることもグローバルスタンダードの形と言えるかもしれません。
 インバウンドでは、専任者が旅行の相談、企画、手配そして添乗までこなす自己完結的なスタイルでやっています。ボ
リュームが増えると業務の効率化のため分業が必要かもしれませんが、各担当者が同じ気持ちで、お客様に対してヒューマンタッチのサービスを提供することこそ、旅行会社の存在感があるのではないでしょうか。



 2010年は、前年の厳しさとは対照的に渡航者数が自然に回復し、円高の追い風を受けた年でした。ただ、2009年には業界全体にこのままではいけないという危機感があり、各社がネットビジネスやSITなど新しいことにチャレンジしていましたが、昨年は危機感が薄らぎ、新しい動きが頓挫してしまった印象があります。
 旅行は他の商品やサービスに比べて機会損失が多いと
思っています。取材の過程で知った面白いツアー企画のその後の動向を聞くと、最少催行人数に届かず催行しなかったなどの例がよくあります。特にSITは特別な企画に参加したいと思って申し込む人が多いわけですから、少々高い料金でも参加したのではと素人的には考えます。私が過去に担当してきた流通・小売りの世界では、不良在庫は悪ですが機会損失の方がもっと悪です。多少のリスクを恐れずに、機会損失を減らしていくような新たな動きを期待しています。


 旅行業界は市場規模が不確かなことからマーケティングが難しい業界ですが、各種業界を取材していると、綿密なマーケティングを元に企画・開発した商品が必ずしも売れるとは限りません。むしろ、感性を生かした商品が売れることも多いもの。企業の力とは、そういったセンスある人材をどれだけ抱えているかではないでしょうか。旅行商品の要であり競争力の源は、アイデアと人。ところが、旅行を企画、販売していく中でコアとなる部分を旅行業界はアウトソーシングし過ぎてしまったと感じる部分があります。コストを削減し、効率化を進めることは重要です。しかし、添乗業務を派遣添乗員化したことで旅行中の現場の情報、顧客の生の声が拾えなくなってしまったのではないでしょうか。ツアー内容に価値をおいていた旅行ですが、フリープランの旅行が増えてしまった結果、競うべき価値が価格になっているのが現状です。一方で収益率は低いまま、その安売り競争も限界に近づきつつあります。リスクを取らない旅行業経営のあり方が収益率を低くしている最大の理由ではないでしょうか。座席や客室を買い取らないローリスクな方法だけでは代売や手数料商売から抜けられません。ハイリスク・ハイリターンな事例をあまり聞かないのは残念ですね。


 過去に担当していた流通・小売業界は、業界団体が国や行政に対して積極的に働きかけていました。旅行は他業種よりも規制の多い業界ですが、JATAなどの業界団体がもっと前面に出て働きかけを行ってもいいと思います。また、業界再編がほとんど無いと感じています。他業種では1万社もある業界はそうそうなく、これだけ多ければ戦略的統合が進んでいてもおかしくないもの。旅行業界は中小の企業が多い故に国や社会への働きかけが弱くなっているのだとしたら、業界団体が率先して国や社会、サプライヤーである航空会社や宿泊施設にももっともの申すべきです。また、観光立国推進の戦略会議などに旅行業界からの代表者が出ていないのも不思議です。日経読者の反応を見ていると観光に対する感心が、地方を含めて大いに高まっていることが感じられます。業界団体は「民」の立場から業界の声を届けるようすべからく強く主張すべきです。


 2011年以降は、ネット予約の浸透と航空業界の動向に注目しています。ネット予約と旅行会社の窓口業務がどのように共存していくのか。羽田の再国際化に加え、航空会社が機体を小型化していく中での仕入確保や、価格との均衡。格安航空会社(LCC)の登場によるFITの進化。FIT化が進んでも、観光産業全体が活気づいているのであれば旅行業界に対する国からの支援は望めません。その中でいかに自社の強みを生かして生き残っていくのか。業界の中での勝ち負けがさらにハッキリしてくるのではないでしょうか。ただ、観光産業全体のパイは大きく、ネット旅行会社のように急激に躍進する企業が登場する業界というのは、伸びしろがある証し。改革の余地は十分にあると思います。
 2009年まではリーマンショックや新型インフルエンザなど、業績の落ち込みに理由をつけることができました。しかし、今後はそういった言い訳はできなくなるでしょう。今年、各社がどのような対応を進めていくかが見どころです。

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