7月号インデックス特集│旅の力│JATA NOWCave de JATA添乗員のための旅行医学バックナンバー
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P6 【旅の力】



 「快汗!猫の手援農隊」は14年前、新潟県南魚沼市でのスイカの収穫作業が始まりでした。高齢化が進み人手不足となっている農山村の生産農家を支援することで、都市部に住む人たちに生産地の現状を理解してもらい、同時に交流を促進する??。農協観光が、地域の自治体、JA(農業協同組合)、受入農家を結んでスタートさせたのがこのプロジェクトです。
 援農隊の特徴は、「少しだけ農作業を体験する」のではなく、丸1日、農家と一緒に農作業を行う点です。農作業には知識と経験が必要ですが、人手が必要な作業も数多くあります。その代表ともいえるのが、農産物の収穫時期の終わりに一気に収穫する「総取り作業」。果実の成熟の見極めに経験が必要な収穫時期の初期に比べ、総取り作業は出来具合を判断することなく一気に収穫できるので簡単です。それでも、当初は「こんな田舎にわざわざお金を払ってまで農作業をしに来るはずがない」とか、職人気質なのか「人に手伝ってもらいたくない」と言う声がありました。とはいえ、人手不足は深刻。南魚沼市の成功を聞いた長野県中野市のリンゴ農家とJA北信州みゆきが試してみようと、2002年から“りんご総採り収穫隊”がスタート。翌年には、実の小さいうちに間引きを行う摘果作業や、リンゴを赤く色づかせるための葉摘み作業も加わり、実施している農援隊の中でも農家と参加者との交流が最も深い好事例となっています。今では梅やミカンの収穫、シイタケの駒打ち作業など、取組地域や品種を増やし、2011年までの参加員数累計は3,600人を数えています。

 


 取組事例が増える援農隊ですが、農産物によっては難しいものもあります。病気(菌)に弱いトマトや、果肉がデリケートな桃は素人による作業は適していません。また、野菜は早朝、まだ暗いうちから収穫することが多いため、時間的に無理があります。
 大阪から中野市の視察に来ていた農協観光のスタッフは、地域の特性を指摘します。「長野県は昔から子どもの体験学習の受け入れに積極的で、農業体験と観光が結びつきやすい土壌と自治体の理解もあります。また、関西に比べ東京のほうがボランティアに積極的です」(同スタッフ)。以前、大阪で援農隊を企画したときは、東京からの参加者のほうが多かったことから、地域の特性に合わせた進め方が定着のポイントといえそうです。それでも、援農隊を希望する地域は全国に増えています。宿泊が伴えば、閑散期の宿泊施設にも喜ばれます。援農は関係者全員にメリットを生み出しているのです。

 

 
いくつもある実の中から1つだけ残して、
その実に栄養を集中させる

 りんごの摘果は1カ月ほどの間に集中して行われるため、複数の班が数週間に分かれて訪れます。取材時は参加者18人中、初参加が3人。10年連続の常連参加者や、前年に摘果、葉摘み、収穫のすべてに参加した人も多くいます。そんな参加者たちの作業は真剣そのもの。援農隊で中野市に通うようになり、現地にアパートを借りた夫婦もいました。2人はこの援農隊の後、個 参加希望者が多い時は抽選も行われるというりんごの援農隊ですが、課題は参加者の固定化と高年齢化。現地で受け入れを手伝うJA 北信州みゆきの藤木信章係長は「参加者の若返りを目指したい」と語ります。本格的な農業体験がそのままボランティアとなる援農。人気の秘密は農家との交流にあるようです。





 



初日にJA北信州みゆき南部支所に現地集合し、オリエンテーション。スケジュールの確認と受入農家の紹介。早く作業したくてうずうずしている参加者もいます。

 

 



摘果の基準は農家や品種によってさまざま。茎が一番太く実が大きいものを摘むといった基準を教わり作業開始。最初は、茎全体が取れたり、細い枝を折ってしまうこともありますが、農家にとっては取り残しがないほうが嬉しいようです。

 

 



休憩は10時、15時頃と昼食時。農家が用意したお茶請けや昼食をいただきます。農家のお母さんが漬けた青梅を頬張りながら、そこから見える橋が10年ほど前まで木造だったなどの話で盛り上がっていました。

 

 



最終日前夜には、市内の温泉施設もみじ荘にて交流会が開かれます。常連の参加者になると以前に手伝った農家と再会する場にも。中野市が唱歌『ふるさと』の舞台となった地であることから、交流会の最後は全員で『ふるさと』を合唱します。

 

 


50代女性
3年ほど来ています。以前に別の収穫隊に参加して、最後の収穫だけではなく、1つの農産物ができるまでの過程を見てお手伝いしたいと思い参加しました。専業主婦で普段は家にいるので自然の中で黙々と作業できるのが嬉しいですね。初日の午前中は飯山まで足を伸ばして寺巡りをしてきました。そういうのも楽しみのひとつです。

60代夫婦(初参加)
妻 「しいたけ駒打ち」に数年参加していて、その参加者から「りんご援農隊もいいよ」と聞きました。毎年申し込んでいたのに、いつも抽選漏れ。今回、やっと当選して嬉しくて。季節もいいし、楽しいです。来年はりんごの花が咲く季節に観光しに来たいです。
夫 素人が役に立つのか?と思っていましたが、2日目の作業終了後、(農家の)お母さんに今日は昨日に比べて摘み残しがほとんどなかったと褒められて嬉しかった。少しは役に立てましたかね。



新潟の援農隊の件を聞いて、やってみたいと思いました。最初は受入農家が少なく、1農家7人くらいの参加者を受け入れたこともあります。最近は受入農家が増えてきて、むしろもう少し参加者に来てもらいたいくらい。


受入農家も参加者も顔見知りで慣れている人たちが多いのですが、一方で新規参加者、特に若い方が少ない点が課題です。開始当時、60歳前後だった方々がリピーターですので、平均年齢は70歳代。参加者の若返りを目指したいです。
気を使うのは、リピーターや農家さんたちの希望に配慮しようとすると、人数に偏りが出てしまうこと。農家さんからは「もっと人数を割り振ってほしい」という希望もあり、新しい人を増やしていきたいです。
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