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   JATA国際観光フォーラム・旅博2011 開催報告
P6 【旅の力】

旅の楽しみのひとつである交流と、その土地が持つ歴史、文化とをつなげて観光客の受け入れに貢献しているのが、名古屋城を拠点に活躍する「名古屋おもてなし武将隊」(以下武将隊)です。愛知県にゆかりのある戦国時代の武将、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、加藤清正、前田利家、前田慶次、さらには足軽などが登場、毎日、名古屋城で観光客を出迎えています。それぞれの人物になりきった演者たちが、名古屋城の建築の解説や名古屋の歴史・文化、各武将の歴史などを戦国時代のような口調で語り、時には寸劇や甲冑を着たまま華麗に踊る甲冑ダンスなどのパフォーマンスを披露。一躍人気となりました。
 この試みは各地で評判となり、全国の自治体から視察が訪れ、今では宮城県仙台市の「奥州・仙台おもてなし集団 伊達武将隊」をはじめ、愛知県岡崎市「グレート家康公 『葵』武将隊」、新潟県上越市「越後上越 上杉おもてなし武将隊」など全国の観光地で同様の観光PR隊が結成されるまでに広がっています。さらに、相互の地域を訪れる武将隊同士の交流にも発展しています。

 
「名古屋おもてなし武将隊」の豊臣秀吉(右)と
市蔵(左)。2人1組での出陣が基本

 武将隊の結成はもともと、2010年の名古屋城開府400年祭にちなんで、名古屋市が改めて名古屋が持つ歴史の魅力を発信しようとしたことがきっかけ。名古屋市市民経済局文化観光部観光推進室の吉田祐治主事は、国の「ふるさと雇用再生特別交付金」や「緊急雇用創出事業臨時特例交付金」の制度が活用できたことも大きいと言います。「観光は裾野が広く、観光が盛り上がれば雇用促進に波及することから、交付金を観光関係に活用しようと考えました」(吉田主事)。
 今では、武将が案内する名古屋城ツアーが旅行会社のツアーに組み込まれ定期的に催行される他、名古屋扇子や有松鳴海絞の手ぬぐい、八丁味噌など名古屋の銘品とのコラボ商品の発売、さらにはDVDの発売、イベントやコンベンションの出演など武将隊単独で収益性のある活動も増えています。しかし、武将隊の人数や拘束時間など制約があり、ツアーでは大口団体に対応できないといった課題も浮き彫りになるなど、ビジネスとしての独り立ちを模索しているのが現状です。観光産業の一角を担う事業として確立するためにも「旅行業界など観光業界からも知恵を借りながら、地域独自の文化に寄り添い、地域に根を張る事業にしたい」と吉田主事は語ります。

 
名古屋市市民経済局文化観光部
観光推進室の吉田祐治主事

 武将隊が成功した背景のひとつに、演者が「武将になりきる」というコンセプトがあります。それぞれが与えられた武将の歴史を学び、織田信長ならこんな話し方をして、こんなことを言うのでは?という視点に立って人となりを研究し、実際に武将として観光客に語りかけます。それはブログでも行われており、信長なら「わしじゃ!」、秀吉なら「サルだぎゃ」で始まり、前田利家なら「本日はこれにて御免」で締めるなど、それぞれの個性を演出する徹底ぶり。「武将たちはもちろんのこと、裏方の運営事務局もやる気のある人たちばかり。このプロジェクトは人に恵まれたと思います。彼らは名古屋を観光で盛り上げようと、本当に真剣に考えてくれています」と、吉田主事は観光振興における人材の重要さを指摘します。
 この武将隊は国からの交付金による事業のため、現段階では2011年度末までの活動となっています。今後は、収益性を上げて事業の継続を図り、武将隊を入口に名古屋市にあるそのほかの観光資源との相互作用を高め、名古屋をPRしていくことも考えられています。「『なごやめし』などの食文化、伝統的なモノづくり文化にもつなげていきたい」(吉田主事)と、人を介した文化の紹介にさらなる期待を寄せています。

 
取材が終わった瞬間、
雨の中訪れた観光客に囲まれる武将隊

秀吉 県外から名古屋城に来る者の中で、儂ら(武将隊)のことを知っとる者はなかなかおらんでねぇ。いきなり「こんにちはじゃ」と言っても驚かれるでな。名古屋がいかに武将にゆかりがあるかを説明するところから入らにゃならん。だもんで、最初に客人に「お主はどこからござったのじゃ」と聞いて、その都道府県と名古屋や儂(秀吉)との関わりを話して距離を近づけようとしとる。
市蔵 コミュニケーションとやらが大事でございますから。
秀吉 まぁ、儂は天下を統一しとるもんで、全国となんらかの関係があるでな。ただ、良い縁ばかりではないな。信長様と跡目争いをした柴田勝家の地である北陸では、儂は人気がないからな。
 歴史っちゅうのは苦手な人は苦手なもんで、そういう人たちにも楽しく見てもらえるよう、演武も有名な史実を再現しておるでな。「歴史の中でいかに人が生きたか」を知ってほしいと思うちょる。だからこそ、市蔵のような一般農民の足軽も舞台に上がっておるんじゃ。
市蔵 名古屋城の石垣の石を運んだのは我々足軽です。今でいうサラリーマンですな。皆様の目線にいちばん近い存在として名古屋を紹介させていただいてます。

 
●名古屋城にて
取材当日は台風15号の接近に伴い
激しい雨模様の名古屋城でしたが、
豊臣秀吉と足軽の市蔵が出迎えてくれました。

秀吉 今日のように雨の日は正門の下でしか案内できないでな。名古屋城の仕組みや名古屋の歴史、それに雨に濡れる石垣の美しさなど、雨の名古屋城ならではの見どころも解説しとるぞ。
市蔵 名古屋には異国の方も多くいらっしゃります。先ほども台湾の団体がいらっしゃったのですが、言葉は通じなくても秀吉様が偉いお方だとわかるようで、身振り手振りで意思疎通を図りながら写真を撮りました。
秀吉 そういえば家康は南蛮の言葉ができるよう(家康役は英語が話せる)だが、儂はとんとわからん。しかし、大切なのは気持ちじゃ。

秀吉 名古屋城に来た後、どこを観光するとよいか、城を拠点にいろいろなところを案内したいのぉ。名古屋は観光資源がようけあるが、それらがうまく繋がっておらん。それらを繋げていくのが儂らの役割じゃ。
市蔵 名古屋は、ご飯も美味しいですしね。
秀吉 今はインターネットという便利なものがあるでの、「名古屋ファンクラブ」という口コミサイトをやっておる。美味しいお店やおすすめの土産物屋などを紹介しておるんじゃ。
 観光は商店など小さい店がなければ盛り上がっていかんでな。名古屋の皆で力を合わせていきたいと思うちょる。

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