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   特集/旅の魅せ方 Part.2
P2 【特集/旅の魅せ方 Part.1】






 『世界ふれあい街歩き』は、旅番組の定石をやぶってリポート役となる旅人を立てず、さらに食や店の情報、有名な建築物などの情報をほとんど省いて淡々とカメラの目線のみで街を紹介していきます。今はどこにでも気軽に旅行できるようになりましたから、名所旧跡を見ることや土産物屋での買い物が旅の一番の目的ではなくなりつつあります。それよりも、現地の人との交流が楽しいのではないかと考え、番組はカメラが旅行者のように街を歩くことで、視聴者自身がその街を旅行している気分を味わえるようにしています。
 自分も旅行が好きなんですが、異国の街を楽しむなら市場や商店街がわかりやすいんですよね。そこでなら物を買うことで無理なく現地の人と言葉を交わすことができます。でも、そこからさらに一歩踏み込んだ体験はなかなか難しいものですから、それを疑似体験できることが、この番組が受け入れられた理由の一つなのかなと思います。

 番組で紹介する街の決め手は、まず歩いて楽しい街か。たとえばロサンゼルスは言わずと知れた大都市ですが、とても広くて車移動が中心の街ですので、ぶらぶらと当てもなく歩くには広大すぎます。番組のコンセプトの1つに、「何かを見に行く」といった目的をつくらずに、気の向くままに散策して自分なりの発見を楽しもうという部分がありますので、無目的に歩ける適度なサイズ感が必要です。次に、楽しさは安全が伴っていなければ感じることができませんので、治安のよさにも非常に気を配っています。
 街の選定はガイドブックや現地のコーディネート会社から情報を集めて、地域が偏らないようにしながら大体の方面を決めていきます。


門やトンネルから見る町並みなど、
「歩きたくなる」風景が印象的。ルーマニア・シビウ


ルーマニアのシビウの家々。
屋根に並ぶ通気口が日本人には目のように見える

 

 この番組制作には入念な情報収集が重要です。事前に現地に入って下調べを行う「ロケハン」は、1つの街に1週間かけて行います。ディレクターが現地でその街のマップを入手して徹底的に街を歩き回り、路地裏の1つ1つを見て回ります。有名な建築物などはランドマーク程度にとどめ、地元で有名なパン屋の肝っ玉おばちゃんやおじいさんなど、ユニークな人物も探します。
 現地ではコーディネーターが通訳を兼ねて案内をしますが、この時に重要なのは、コーディネーターが現地に長く住んでいるなどしてあまりにも慣れすぎていないかに気を使います。そこに住んでいる人にとっては日常で当たり前の風景や習慣も、日本人にはとても珍しかったり、おもしろかったりすることがたくさんあるものです。それを我々取材側が拾うことで、街の顔に変化が生まれ、ガイドブックにあるものとは違った一面を見せることができます。
 たとえば、11月に放映予定のルーマニアのシビウという街は、立ち並ぶ家々の屋根に付いている通気口がまるで人の目のように見えて、とても奇妙で不思議な感覚にとらわれる風景を醸し出しているのですが、現地の人たちはそれを別に面白いとも変わっているとも思わないんですね。「昔からこうだったけど、何が面白いの?」と。こういう発見は実際に現地に足を運ばないと見つけられません。現地から得られる情報は最初のとっかかりとしては重要ですが、街のどこに魅力を見出すか、それをどのように見せるかというのは、自分たちがその土地に行かなければ定まらないと思っています。


 番組では、全体のテーマに重なってくる中核的なシーンとちょっとした小ネタを織り交ぜてメリハリをつけるようにしています。メインとなる人なり、街の顔なり、大きなネタは必要ですが、それが2つも3つもあると逆に視聴者には“重たくて、もたれる”感じを与えてしまうもの。かといって小さなネタばかりですと細切れな印象になり、街の魅力が伝わりにくくなります。
 その時に悩ましいのが、緩急を考えた構成にすると、歩き方が実際の地図通りにならないことがあるということ。A地点のネタとB地点のネタの間にC地点の小ネタを挟み込みたくても、A地点からC地点は離れすぎていて「街歩き」をすると絶対にB地点を先に通るんです。実は、この番組通りに街歩きをされている方が結構いらっしゃるようで、「番組通りに回ってきました」というお便りが届いたり、ブログで書かれたりすることがあるんです。そういう楽しみ方をしてくださっている人がいると思うと、不自然なルートでの紹介は控えたい。そこが難しいところです。 その国、街の名所を押さえたツアーももちろん楽しいものですが、それだけでは飽き足らず、ガイド本では紹介されていない通りや店などの発見、そしてその土地の人との出会いがあるといいな…と思う人は、結構多いのではないで
しょうか。有名ではないけれど日本人が見ると「へぇ」と思える場所が組み込まれている、メリハリの効いたツアーがあると面白いかもしれないですね。土産物屋で買い物をするやりとりだけではない現地の人との交流が、ツアーの中に1つあるだけでも思い出深い旅行になるはず。多くのツアーに自由時間があると思いますが、そういう時に『世界ふれあい街歩き』を思い出して、かすかにでも現地の人と心がふれあったと実感できる旅行をしてもらえたら嬉しいですね。

 
スペインのロンダ。旧市街から新市街を望む


イタリアのルッカ、旧市街の街並み。街歩きは、
南門から中世門をくぐり、北側の城壁へ向かう


番組では街の人との出会いが重要なポイント。
中国・平遥

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