11月号インデックス│新春座談会│旅の力JATA NOWCave de JATA添乗員のための旅行医学バックナンバー
   旅の力
P2 【新春座談会】





─ 昨年1年間を振り返り、それぞれのお立場でどのような年でしたか

金井 昨年は何と言っても東日本大震災です。一時は観光業全体が大きなダメージを受けましたが、関係者の努力の積み重ねにより、旅行需要はかなり回復したといえるでしょう。特にアウトバウンドは夏以降弾みがついたように感じます。国内旅行も同様に回復しましたが、西高東低の傾向がはっきり出ており、今年は東日本側がどう立ち直っていくかがテーマとなります。インバウンドに関しては低迷が続いており、回復するための体制を整えるのが急務です。いずれにしても大きな痛手を受けたにもかかわらず、短期間で回復が見られたことは奇跡に近いと思います。

東 リーマンショック、新型インフルエンザ、国内線コミッションカット、尖閣諸の問題、そして昨年は震災とそれに伴う原発問題。この3年間は本当に厳しい状況でした。中でも震災と原発問題は、地方でもインバウンドもアウトバウンドも死活問題ともいえるほど大変な影響を受けました。家電エコポイントのような政府の救済制度も旅行業にはなく、自力で生き残りをかけた年であったと思います。そんな中、アウトバウンドを中心にある程度立ち直り、存在価値を社会に発信し続けている業界の自立した姿は誇りに思ってもいいのではないでしょうか。

中野 震災以降4〜6月は計画値をはるかに下回る赤字ぶりでした。それでも業務渡航については5月にはある程度回復するなど予想以上の動きで、日本の企業のたくましさを感じました。レジャー需要はゴールデンウィークこそ自粛ムードで停滞しましたが、夏場はハワイ、グアム、サイパンなどのリゾートを中心にいい結果となりました。震災関連では、助け合いの気持ちから、お金を払ってでも被災地で活動を行うボランティアツアーが出てきたのは新しい動きだったのではないでしょうか。
 また、昨年は航空会社の販売商品が運賃規則の緩和化により、施策運賃から公示運賃にシフトし、これがキャリア運賃として大量に出回りました。運賃政策の転換期ですね。旅行会社にとってはお客様に対し旅程を考えるうえで、持ち前の知識を活かして最適な航空券を提案できる環境が整ったように感じました。

松園 震災の影響でインバウンドは激減しましたが、日本に対する魅力は失われていません。その証拠に九州や西日本へは多くの外国人旅行者が訪れています。なかでも沖縄に1泊すれば中国人旅行者が数次査証を取得できる制度は功を奏したのではないですか?

東 確かに追い風の感触はあります。何よりも沖縄が日本のリゾートであることが中国全土に知れ渡ったのは大きかったと思います。




中野 航空会社の多くが旅客機のダウンサイジング化や発着地の再考を行ったこともあり、地方を中心にチャーター機の需要が増えました。また、LCCが特に注目された年でもありました。

松園 日本の空も今後、LCCのシェアが4割を占めると言われる欧米に近づくかもしれません。今年はその一歩となりそうです。問題は、LCCが増えてきたときに旅行業がどうなるかということです。しかし、レジャーマーケットがチャーターで開発されてきたヨーロッパと、定期便中心の日本では構造が違います。日本ではLCCが100%直販できるとは思えませんから、GDSを経由して旅行会社に販路が広がるのではないでしょうか。一方ではダイナミックパッケージのような商品が一層広がる可能性もあります。


東 
国際線が少ない沖縄ではこのところチャーターが増えており、できるだけフェリーをなくして双方向で座席を埋める努力をしています。第三国のチャーターを利用するケースも増えており、いい感触を得ています。

金井 JATAでは以前からツーウェイツーリズムを提唱してきましたが、チャーターの活用はそれを後押しするものとなりますね。

東 ただ、タイやシンガポールなどと沖縄では人口や休みの日も違います。休みの並びで費用負担の設定を変えています。日本の休みの並びがいい時は日本側の費用負担を7割に、相手国の休みの並びがいい時は相手国の負担を7割というように。しかし、例えばマイナス20度の寒い地域から沖縄に来る便の復路に、沖縄から寒い地域にお客様を送ることは困難です。往復ともうまくいくとは限らない場合があることは、実際にやってみてわかったことです。

松園 経験を重ねてこられ、現地での需要の見込みや集客のノウハウも蓄積されてきたのでは?

東 双方向の場合のパートナー探しは、先ずはオペレーターが現地発で集客できるかを相談します。アウトバウンドをしていない場合は、一緒に探し集客の強い会社を紹介してくれるように頼みます。それに沖縄県の場合、アジア各地にある県事務所や駐在員もとても熱心にセールスに協力してくれます。




─ 2012年の展望をお聞かせください。

中野 今年はいろいろな面で住み分けが明確化してくると思います。例えばダイナミックパッケージに勢いはありますが、消費者すべてが利用するわけではありません。現に旅行会社にアドバイスを求めているお客様はたくさんいます。航空会社のサービスと同じで、旅行会社によるフルサービスを望む人もいれば、安ければいいというお客様もいます。お客様も二分化してきていると言えるでしょう。

 運賃に関しても次から次へといろいろな種類が出てきて、個人が自分に一番有利なものを選ぶことが難しくなってきています。旅行者の旅程に適切な航空券を選んであげられるスペシャリストの存在は、それ自体、旅行会社にとって大きな武器になります。増え続ける複雑なアライアンス運賃を含め、キャリア運賃は旅行会社の存在意義を高めることにもつながります。

 それから、日本の旅行会社は伸び代のあるインバウンドにもっと積極的に取り組まれてはいかがでしょうか。日本は、言葉や標識などの面で外国人旅行者にとってハードルが高いです。また、羽田の深夜早朝便は公共交通機関がなく利用者も運航する航空会社側も困っています。真の観光立国を目指すなら、官も民ももっとできることがあるような気がします。

松園 エクスペディアにせよトラベロシティにせよ、アメリカでダイナミックパッケージが台頭したのは、昔からホテル産業が力を持っていたため、日本のような旅行産業が育たなかったからです。そういう意味では、日本で急激にインターネット専業旅行会社が既存の旅行会社より力を持つことは考えづらいです。
 東さんが取り組んでいる双方向チャーターは、シリーズものを設定して頻繁にチャーター便が飛び交うヨーロッパとは違ったアジア版の新しいビジネスモデルではないですか! 素晴らしいチャレンジ精神で、立派です。
 レガシーキャリアにもコミッションはほとんどありません。であればレガシーやLCCなどと区別せず、今、お互いがコラボし合ういいタイミングですよ。もはや「LCCは業界にとって何のメリットもない」などと言っている時代ではありません。お客様にそういう需要があるならチャレンジすべきです。チャレンジは市場を広げます。LCCのメリットを見出せばマーケット拡大のチャンスになります。何でも前向きに捉えるべきだと私は思います。

金井 2、3年前は旅行会社とLCCとの間で提携など考えられませんでしたが、最近の動きを見ると、東さんや松園先生の言うとおり、いろいろな取り組み方がありますね。何も足場は成田や関空だけにこだわらなくてもよいかもしれませんし、旅行費用にこだわるなら
ちょっと離れた空港という選択肢もあります。いろいろなマッチングを考えるべきですね。




中野 実際、LCCの8社が今、アクセスと契約し、当社システムを経由して旅行会社でも販売できる体制になっています。日本はもうそういう流通が出来上がっているため、航空会社も無視できないんだと思います。

松園 ホテルそのものがデスティネーションになっているアメリカではダイナミックパッケージが優位に立ち旅行会社が消費者にかかわることが少ないが、日本はそうじゃないんだから、もっと自信を持っていいんじゃないでしょうか。


東 私どもをはじめ沖縄の旅行会社が双方向チャーターに積極的に取り組み成功しているのは、元々の国際線の定期便が限定されているなか、自分たちでやるしかない環境にあるからです。言い方を変えれば定期便に依存しすぎていないということ。便がないことをデメリットと嘆くのではなく、メリットと捉えてチャレンジしています。


金井 すでに自分たちの軸足を固め、進むべき道を定めたということですね。ところで東さん、今年はどのような年になりそうですか。

東 2012年をどう生きるか。自分の会社を考えると、次の3点になります。
 1点目は、LCCでもFSCでもいいから、飛んできてくれて嬉しいと思われるような着地型旅行を提供すること。従来の着地型旅行はオプショナルツアーを下請けで販売していたにすぎません。もっと主体的に、地域に誘客できる真の着地型旅行会社へと脱皮しなければ生き残れません。
 2点目は、アジアが成長して嬉しいと心から思える環境をつくっていくこと。香港等からのお客様は夫婦の場合、必ずダブルベッドを希望しますが、日本ではダブルは敬遠され、数は多くありません。ホテルにこういうことを啓発したり、FIT層向けに1人いくらではなく、1部屋でいくらなのか、エクストラベッドを使ったらいくらという世界標準の室料の設定を、消費者のニーズに合わせて取り組んでいかなければならないと思います。
 最後に、高齢化社会が嬉しいと思えるようなコンサル型の商品造成とビジネスモデルの構築。団塊の世代をはじめ、シニアマーケットをもっともっと取り込めるように知恵を出さねばなりません。そんな仕掛けが業界全体でできたら明るい年になるでしょう。

松園 外国人は食事付きの旅館の料金を見ると最初はびっくりします。だから、部屋代がいくら、食事代がいくらかとわかるような表示を提唱したことがあります。これから日本にはアマンなど有名な世界チェーンが続々とやってきます。世界標準を地元のホテルといっしょにコーディネートしていくのも着地型を進める旅行会社の役割なのではないですか。

中野 確かに外国人は旅館の料金設定に驚きます。でも、説明すると理解してくれます。

松園 そこを着地型旅行会社が説明すべきなんですよ。

──最後に会員会社に何を望みますか。

金井 旅行業を取り巻く変化の要素はより具体的な形で表れてくるでしょう。総合旅行業や得意な業務に特化するなど選択する道はいろいろありますが、旅行業として自社がどのような道へ進むのか。各社が進むべき道筋について最終的な方向性の決定を迫られる年になるかもしれません。大切なのは、旅行会社がサプライヤー側に立つのか、消費者側に立つのかということです。そこで見失っていけないのは、消費者が旅行をどう捉えているかという視点です。消費者の旅に対する意欲は決して衰えていません。それをいかにして引き出すか。これは直販志向の航空会社やホテルと利害が相反することではありません。むしろ同一であり、私たちがお客様の立場をいかに航空会社などのサプライヤーに要望するかという視点にもなります。旅行業が今までやってきたことは限界に近づきつつあります。旅行のパーツそのものは消費者が直接買える時代です。旅行をどうプロデュースするかを大切に考えれば、自ずと答えは出るでしょう。ダイナミックパッケージは従来のパッケージ商品とは別のカテゴリーだと思います。旅の付加価値を提供するためにお客様に対して旅行をどのようにプロデュースできるか、それを見い出せれば自分たちのあるべき姿が見えてくると思います。
 世の中はいろいろな意味で変化が起こっています。これをいかによい方向へとアレンジしていくか。展望は決して暗くありません。いろいろな出来事が起こり、降りかかるかもしれませんが、その壁を乗り越える体力を身につけなければ生き延びることはできません。懸命に、そして適確に対応して、みんなで強い観光産業へと踏み出しましょう。
  旅の力

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