7月号インデックス特集│旅の力│JATA NOWVWCニュース Cafe de JATA 添乗員のための旅行医学バックナンバー
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P6 【旅の力】


 町全体が秩父多摩甲斐国立公園に含まれ、町の行政面積の94%が森林という東京都奥多摩町。都心から電車で約2時間で行ける森林には巨樹が1000本余りあり(環境省の全国巨樹・巨木林調査より)、日本水源の森百選にも選ばれています。この資源を観光と健康、町の経済活性につなげようと、森林セラピー基地としての活動が始まりました。
 奥多摩町の観光客は、15年ほど前の270万人から近年は145万人にまで落ち込み、さらに町の主要産業である農業、林業が衰退の危機に直面していました。そこで町の資源を観光や地域活性化の手段として目を向け、2004年の森林セラピー研究会の発足をきっかけに検討を開始。2008年、森林セラピー基地として認定を受けました。奥多摩町観光産業課森林セラピー推進係の原島滋隆課長補佐は、「奥多摩という名前は有名ですが、観光地としての魅力が上手く発信されてきませんでした。森林セラピーは、町に来てもらうための素材の1つ」と狙いを語ります。

 では、肝心の森林が身体に及ぼす効果とはどのようなものでしょうか。独立行政法人 森林総合研究所が中核機関として実施する「森林系環境要素がもたらす人の生理的効果の解明」で行われた実証実験では、3日間の森林浴により、外部からの細菌やウイルスから体を守るヒトナチュラルキラー(NK)細胞の増加やヒトリンパ細胞内の抗がんタンパク質の増加が認められています。
 これらの結果を元に奥多摩町では、以前からあった4つの遊歩道を森林セラピーロードとしたほか、千葉大学の協力を仰ぎ、日本初となる森林セラピー用の専用ロードを作りました。さらに、山手クリニック(東京都目黒区)の服部幹彦院長監修により「奥多摩式呼吸法」を開発、同クリニックの入谷栄一医師によるオリジナルブレンドハーブティーを用意するなど、奥多摩ならではの特色を出しました。

 森林セラピーは、一度体験すると友だちや家族を誘って2度3度と体験しに来る人も多いようです。それだけに、「今後はメニューをさらに増やして、リピーター向けのツアー開拓にも力を入れなければなりません」(原島課長補佐)。一通りのセラピーロードを体験した後に来なくなった人もいるようです。新しい顧客獲得のためにも広く募集したいものの、今後の課題を原島課長補佐は以下のように指摘します。「森林セラピーは全国各地に広がりつつあり、その土地ならではの多彩なメニュー開発が重要です。ただ、セラピーという性質上、一度に多数のお客様に参加していただくことには向いていません。ツアー商品という形で主体的に販売していくためにも、旅行業の取得も視野に入れています」。町民の健康増進と観光客の増加にも寄与できる森林セラピーの可能性に期待を寄せています。


参加者
母娘2人×2組、30代女性2人組、女性1人、男性1人、
取材班2人組 計10人(5人ずつ2組に分かれてのガイドウォーク)

体験者の声
目的:健康
母娘2人組
娘:母が足を悪くしてからあまり外出をしなくなり、運動不足に。健康のためにと思い誘いました。
母:ウォーキングと聞いて不安でしたが、非常にゆっくりとした歩きで、途中立ち止まっての説明や休憩があったので、思った以上に楽でした。ヨガも不思議なポーズがなんだか楽しくて、久々に適度に体を動かせたと思います

目的:交流&健康(癒し)
30代女性2人組
前々回の森林セラピーで初めて会い、その後連絡先を交換して一緒に参加しています。これで3回目です。コースが複数あるので毎回来る度に内容が違い、楽しいです。

目的:健康
男性1人
以前に体を悪くして休職していました。今は復職していますが、最近また疲れが出てきたのか調子がよくないので、何か緩やかな運動もできて癒し効果もあるような体験がないかと探して、この森林セラピーを見つけました。森の中はやはり気持ちがいいですね。

この日のメニュー
ガイダンス&健康チェック、森林セラピー専用ロード「登計トレイル」のガイドウォーク(ティータイム含む)、昼食(セラピー弁当)、ヨガ、健康チェック

結果
半数以上の人が血圧、アミラーゼともに数値が下がった。


セラピー開始前と終了後に血圧と
唾液に含まれるアミラーゼを計測。

 
日本初の森林セラピー専用ロード、
香りの道「登計トレイル」。(左)

トレイルの途中には人間工学に基づいた設計のイスがあり、
目を閉じて周囲の音や香りを感じる。(右)


森林セラピーアシスターが周りの景色を説明しながら
進む。歩く速度は非常にゆっくり。


森林セラピーアシスターの
垣内正勝(かきうち まさかつ)さん
。森の整備などを行うサポー
トレンジャーをしていた関係から
森林セラピーアシスターに。


ヨガ・インストラクターの
二平美香(にへい みか)さん。
「ヨガは呼吸がとても大事。森での
深呼吸と通じるものがある」とヨガと森林の相性のよさを指摘。

森の中に設置された座禅やヨガを行う専用スペース。
インストラクター曰く、
立ってバランスをとるポーズは
初心者には難しいが、
広い空の下だと直ぐにできる人が多い。

 近年、旅が健康に与える効果が医師の間でも認知されつつあり、当院でもストレスによる体調不良などを訴える患者に旅行を勧めるトラベルセラピーを行うことが増えています。先日もある経営者の診察をしたところ、まずは精神的なストレスからの脱却が必要と感じて旅行を勧めました。旅が実際の心身に及ぼす影響はJATAの調査でも明らかですが、件の経営者は旅行から帰った後、ストレスから開放され、さらには思い出の地に旅行したことで会社創立当時の初心を思い出し、仕事に前向きになれたそうです。このように、旅がもたらす効果は身体的なことばかりではありません。

 特に私が注目したいのは、“学び”も得られる旅や“病気の予防”としての旅です。米ハーバード大学教育学大学院のハワード・ガードナー教授が提唱する「多重知能(Multiple Intelligences=MI)理論」では、人の知能は別表にある複数の要素が絡み合っているとしているのですが、旅行はこの複数の知能を効果的に刺激できます。私は、8つの知能のうち3つを刺激することで健康によい旅行ができると考えています。例えば、旅行先の方言や外国語は言語的知能を刺激します。旅行先で歩くことは身体運動的知能を刺激し、仲間との旅行や現地の人との交流は対人的知能を刺激します。そしてこれは、認知症予防にも非常に有効です。認知症予防には脳全体の活性化が求められますが、人は普段の習慣などによる行動の場合、左脳が活性化しますが、旅行は知らない景色や音を見聞きするので新しい刺激を受け右脳が活性化し、脳全体の活性化に繋がります。高齢者の方にはご家族から旅行を勧めていただき、認知症予防としての旅行を積極的に行ってほしいですね。旅行は健康のために有効に活用することができると思います。


※「旅と健康に関する調査」についてはJこちらをご参照ください

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