11月号インデックス特集 1特集2│旅の力│WTF開催報告Cafe de JATA添乗員のための旅行医学バックナンバー
   WTF開催報告
P6 【旅の力】





 茨城県の西部に位置する桜川市真壁町は、常陸三山(筑波山・足尾山・加波山)の山懐に抱かれた小さな町です。平安時代末期に真壁氏の領地となって以降、江戸時代には笠間藩(現笠間市)の飛び地として、また商人の町として栄えました。明治期以降は足尾山・加波山の一部から産出されるみかげ石により石の町として発展。しかし、バブル崩壊と共に石材業が衰退し、町は徐々に活力を失っていきました。
 衰退していく町を見ながら住民たちが、町を復活させる手立てを考え始めた頃、1つの発見がもたらされました。真壁町の町並み、とくに町割り(区画)が江戸時代からほぼ変わりなく残されていること、江戸時代の建築物の特徴を残した築100年を超える住宅や蔵が数多くあることなどが、町を訪れた河東義之氏(元千葉工業大教授)らの指摘により知らされたのです。これをきっかけに、1993年に町内の建築物の保存を推進する「ディスカバーまかべ」が立ち上がりました。また同時期には、町の商店に活気を取り戻したいと仲町商店会が町おこしの模索を始めていました。タイミングよく1996年に文化財保護法改正による「文化財登録制度」が導入され、1999年には真壁町に初めての国登録文化財が誕生。文化財保護による町おこしの道筋が見えてきました。当時から仲町商店会の中心的役割を果たしてきた桜川市商工会会長の川嶋利弘さんは、「ショッピングセンターを作る案もあったが、全国の商店街を見て回っても上手く行っているところは少ない。それよりは町の良いところを見直した町おこしが必要だと感じ始めていた」と振り返ります。
 その後は商工会や行政によるサポートを受け、2005年には文化財の登録件数が全国3位になるまでに。さらに、住民有志、商工会、行政職員らが集まり「町の中心でありシンボル的存在である旧真壁郵便局を復活させよう」という目的のもと、「まちづくり真壁」が誕生しました。




 有形登録文化財の増加に伴ってマスコミに取り上げられるようになると、観光客数は徐々に増加。しかし、「カフェがあるわけでもなく、せっかく来てもらっても、もてなせるものがない」(川嶋さん)という問題点がありました。「それなら、家で眠っている古いおひな様でも飾ってみようか」という住民たちの提案から真壁のひなまつりがスタート。現在はバスツアーなどを通して、この時期、10万人以上の観光客が真壁町を訪れます。市民協働の町づくりを担当する桜川市職員の鈴木謙一さんは「真壁町には昔から旅人をもてなす文化があった」と言い、現在ではおよそ170軒の民家でひな人形がお披露目され観光客を楽しませています。
 住民たちの協力により観光客が増えた真壁町ですが、川嶋さんは町のよさを「文化財の家に人が生活する、暮らしのある町であること。おひな様を飾っている家を観光客が見ていると、中から住民が出てきて気さくに会話ができる。そんな交流を楽しむには、少なくとも2?3時間かけて町を観光してほしい」と指摘。「この町の良さを理解してもらえないならば、無理に観光客が増えなくてもいい」(川嶋さん)と言います。
 そして真壁町のシンボルの旧郵便局が個人所有から市の管理になったことで町の活性化は「次のステップへ行く必要がある」(鈴木さん)として、「まちづくり真壁」を発展的に解消し、この10月1日から「真壁八七咲(はなさ)き社中」を設立しました。新しい集まりには30?40代の若い層も加わり、「これまでのボランティア的な観光振興ではなく、利益を生む観光を模索していく」(川嶋さん)段階にステップアップ。町の歴史、文化の再発見をきっかけに住民から始まった町おこしは、観光客との交流により町に誇りを復活させ、さらなる観光振興へと発展しつつあります。





真壁のひなまつり
毎年2月4日?3月3日に開催されているひなまつり。住民との会話を楽しみに来るリピーターも多い。県外からの観光客も多く、最近は外国人も訪れている。


つるし雛・手作り雛の店「遊布」
店内には、ご夫婦とその息子さんが作ったつるし雛やひな人形が飾られている。ひなまつりの時期は、手作り体験教室を開催し観光客をもてなす。


今ではあまり見かけない量り売りの米屋。
レトロな雰囲気ながら現役で活躍する品々がある。


町並み案内のボランティア。
町中で気軽に声をかけて質問できる。予約をすれば1時間かけて案内してくれる。






三輪 巴さん
登録文化財の藤屋履物店とそこで代々下駄屋を営む。明野町(現筑西市)の名物図書館長としても有名だった。


西岡 延廣さん
桜川市観光協会の真壁支部長。もともと酒蔵であった自宅は登録文化財に登録されている。


町の中心にあり、シンボル的存在の旧真壁郵便局。


休日には自転車愛好家や家族が訪れる。


持続可能な観光振興を目指して発足した「真壁八七咲き社中」。


 
観光客を呼ぶ方法は、お金と場所がすべてではないと思います。真心がこもっていれば、たとえ遠くても観光客は来てくれます。私はこういった古い町に人が住み、そこで生活している風景をぜひ観光客に知ってもらいたいのです。建物だけでは一度来たらおしまいですが、真壁の魅力は人。この町に住む人との交流は何度でも来たいと思ってもらえる。ツアーで案内する旅行会社の方にはまず、この町のよさを知ってもらいたい、わかりやすく観光客に伝えていってもらえることを期待しています。
 
 私が町づくりに参加したのは、登録文化の担当になったことがきっかけでしたが、川嶋さんたちに手とり足とり教えてもらう中で町づくりの面白さを知っていきました。真壁町は、もともと飛び地であった歴史的背景があるため、住民たちの中にも誰かに頼るのではなく「自分たちでどうにかしよう」という商人文化がありました。そういった町民性が観光客に対するもてなしの心、ひいては町の活性化につながっているのではないでしょうか。

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