
現代社会は虐待やうつ病の増加、就職難、少子化、国力の低下など、さまざまな問題を抱えていますが、私は旅が持つ人生や日常を豊かにする力はとても大きく、旅がこれらの問題の一助になると感じています。私自身、会社員時代は仕事のストレスが強く、旅行に行くことで心身のバランスを取っていました。また、子どもが生まれると、育児の疲れとストレスで精神的に余裕が無くなり、子どもの首が据わった生後4カ月の時に、自身のリフレッシュを目的に旅行を計画しました。当時は、「乳児を連れて旅行に行くなんてとんでもない」という周りからの風当たりがとても強かったのですが、行ってみると心に余裕が生まれ、帰宅後も前向きに育児に取り組むことができました。このように、仕事や育児、家事に追われて心に余裕がなくなっている人たちにこそ、旅は必要だと思います。ただ、そういう人たちの多くは旅行になかなか踏み切れないもの。だからこそ「旅行は心や体の健康の力になる」ことを、旅行会社が訴えていかなくてはならないような気がします。

旅において交流の力、教育の力は大変大きな意味をもつと思います。以前、家族で訪れたフィジーでは、子どもをキッズクラブに参加させてみました。そこでは、現地の文化を遊びながら学べるだけでなく、他国から来た同じ年頃の子どもたちと言葉の壁を越えて交流する経験を得ました。こういった経験は、子どもが大人になって生きていく中で非常に貴重です。「生きる力」を育むには、学校の勉強だけでは充分とはいえません。本来もつ力を育て養う上で、体験で学べる旅が与える影響は大きいと思います。
親は子どもの教育にはお金を惜しまないものですから、この分野はビジネスとして訴求できるポイントではないでしょうか。

旅の需要喚起に最も有効なのは成功経験の積み重ねです。旅行に行く人と行かない人の二極化が進んでいますが、行かない人にとって旅は「行って終わり」の一時的なものという認識が強いようです。また、価格だけに注目して安いツアーを選び、「思った内容と違ってがっかり。時間とお金の無駄遣いだった」という経験をしている人も多いように感じます。「行って良かった」という満足がなければ、次の旅へのモチベーションはあがりません。だからこそ、ひとつひとつの旅で成功体験を持たせてあげることが必要です。旅行に行きたいと思うポイントは人それぞれ違います。その人に合った訴求のポイントを見据えることがビジネスの鍵になると思います。
まずは、ツアーパンフレットにありがちな「癒し」などのキーワードなどを、もう一度見直してみてはどうでしょうか。メディアや企業などは「癒し」「女子会」「パワースポット」などの流行のキーワードに飛びつきがちですが、重要なのはそのキーワードの奥にある、「なぜ今癒しが必要なのか」「女子会でいったい何が語られているのか」「パワースポットに何を求めているのか」を見極めることではないでしょうか。その先に新しい旅のテーマがあると感じます。
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