3月号インデックス│特集1│特集2旅の力JATA NOW Cafe de JATA 添乗員のための旅行医学バックナンバー
   特集2:旅行会社に聞く
P2 【特集/旅行会社のリスクマネジメント】





 (株)ジャタと当社が中心となり、JATAならびに損害保険会社の協力のもとでJATA海外緊急重大事故支援システムが開始されてから今年で14年になります。その間にいくつもの事件、事故、災害時にお手伝いさせていただきましたが、近年は社会の状況や旅行会社を取り巻く環境が大きく変化していると感じています。まず、情報伝達の速度が飛躍的に早くなりました。以前は、事件・事故の発生時に現場にいる旅行会社からもたらされる情報が最新のものでした。しかし今は現地のメディアが流す速報で旅行会社が自社ツアーの事故を知るケース、さらには海外で使用可能な携帯電話の普及により、事故に遭遇したお客様が家族や友人に一報を入れることで、被災者家族のほうが旅行会社よりも先に事故の発生や詳しい状況を知るという事態も出てきました。 中には動画サイトのYou Tubeでご家族が事故現場を見ていた例もありました。

 事故の一報が土日や真夜中に入ることも多く、休日の外出中や就寝中に飛び込んでくる一大事に、事故対応の担当者も一瞬頭が真っ白になってしまうことがあります。危機管理の対応マニュアルが手元にない場合など、慌てて担当者から電話をいただくことが多くあります。
 事故が発生した場合、被災者のご家族にとって、頼りの綱はやはり旅行会社です。その旅行会社が最新情報を持っていない、連絡がつかない、初期の対応がよくないなどとなれば、後々までしこりが残ります。被災者やそのご家族とのトラブルの多くが、事故発生から6時間以内の初動動作いかんで決まります。限られた時間で万全な体制にするために、日ごろからマニュアルの定期的な見直しや担当者同士の連絡先を最新のものにしておくなどの準備が重要です。

 さらに近年、事故対応に追われる旅行会社が消費者意識の高まりによる被災者側の高い要求に時として応えられず、トラブルになる例も出てきています。20年前は、チャーターを手配して事故現場にご家族をお連れすることは、「こんなにしていただいてありがたい」とその対応に感謝されるものでした。ところが現在は、現場には代表者だけではなく家族全員で行くものと考える方が多くなっています。そこには旅行中の事件・事故は、旅行会社が対応して当たり前。つまり、事故によって発生した治療費などの費用も旅行会社が払って当たり前、という考え方をする人が増えていることもあります。旅行業法に基づき旅行会社が負うべき責任を明確にした上で、被災した本人、ご家族に対する気配りを含めた慎重な対応が必要となっています。

 JATA海外緊急重大事故支援システムで整理している必要最低限の事故処理対応項目は80項目にも上ります。この中に、マスコミ対応についても触れています。この数年は、企業の不祥事に限らず、事件・事故で経営陣が出席して記者会見を行うことが避けられなくなっているためです。現場の状況は刻々と変わり、つい数分前の情報でもすでに古い情報となります。負傷者がいればなおのこと。どのタイミングでマスコミに状況を報告し、記者会見を行うのか。現場との対応を進めながら対策本部がコントロールしなければなりません。
 JATA海外緊急重大事故支援システムでマスコミ対応の支援はまず十分にできますが、いざという時のためにマスコミ対応の想定問答集などを作った上で社内研修など定期的に訓練をすることが大切です。

旅行中に事故にあわれる人の中に、海外旅行保険の未加入者や、クレジットカード付帯保険のみの旅行者が見受けられます。海外の医療費が高額なことは旅行会社の方々は十分認識されていますが、旅行者やその家族の中にはまだまだその認識が行き渡っていません。海外の医療機関では、治療費を支払わなければ応急処置以上の治療ができない、あるいは治療が受けられないケースもあります。事件・事故の発生時に、被災者と医療機関などとの間に立つ旅行会社が、人道的観点から一時的に費用の立替をするなど緊急対応が求められる場合もあります。被災者が複数にもなりますと、旅行会社に責任のない範疇で発生した事件・事故の場合であっても、資金繰りが厳しくなるなど、時として旅行会社の経営を揺るがす問題に発展する可能性があるのです。
 危機管理の考え方に立つと、事件・事故が発生してからだけではなく、そこから発生するあまたのリスクを減らすために事前に旅行者に海外旅行保険に加入してもらうなど事前のリスク予防も重要です。結果として、海外旅行保険は旅行者を守るだけではなく、経営的な側面を含めて旅行会社を守ることができる重要なものといえるでしょう。



【情報伝達の変化】
●海外のメディアによる速報
●被災者自身による家族への連絡
●事故現場付近の一般人によるWEBからの情報発信
 →YouTube(ユーチューブ)やUSTREAM(ユーストリーム)など

【消費者意識・社会意識の変化】
●要求される気配りのレベルアップ
●記者会見開催の義務化


(株)ジャタと日本アイラックが中心となり、損害保険会社の協力のもとに運営されている、旅行会社向けの支援システム。会員専用の「24時間緊急サポートデスク」による相談受付のほか、緊急事故処理対策マニュアル作成時のアドバイスや研修会の実施も行う。実際の事故発生時は、要請に基づき専門家を派遣して対応。

 

  特集2:旅行会社に聞く

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