会報誌「じゃたこみ」 【法務の窓口】第92回 ふるさと納税の返礼品としての旅行商品

更新日:2023年12月22日


法務・コンプライアンス室
(監修 弁護士 三浦雅生)

 

 ふるさと納税の返礼品として旅行商品を提供するにはどうしたら良いか、というご相談を受けることがあります。ふるさと納税のカタログを見てみると、旅行券を提供して自社商品購入の際の支払い手段として使用していただく方法が多いようですが、一方で、より魅力ある返礼品として、その土地ならではの観光コンテンツを含めた旅行商品を提供したいという自治体のニーズに応えようとする場面もあるかと思われます。

 この場合は、既存の募集型企画旅行商品で適切なものがあればそれを用いる、あるいは、自治体が旅行業者に対して旅行商品の企画を依頼することになるので、受注型企画旅行として取り扱うことが考えられます。なお、、返礼品のカタログへの表示は、あくまでも寄付の返礼品であるという建付けにおいては、自治体が広告の主体ですので、旅行業法上の募集広告には当たらないと考えて良いと思います(旅行代金の表示までは必要ありませんが、返礼義務を負う対象ですので、旅行商品として特定する表示は必要です)。

 次に、旅行業者と自治体、寄付者(旅行者)の三者の契約関係についてですが、これは概ね二つの異なった組み立てが考えられます。

 

自治体を契約当事者とする場合

 ふるさと納税を行う人(寄付者)が自治体に支払う金銭はあくまでも寄付金であり、自治体は寄付金を受けることにより返礼義務として旅行商品を提供するものだと考えるならば、旅行業者に対して旅行代金の支払い義務を負うのは自治体となりますので、当該自治体が当事者となって旅行業者と旅行契約を締結する法的構成が考えられます。

 この場合、寄付者は旅行契約の当事者とはならず、旅行契約上の利益を受ける者(第三者(受益者))になるとした、いわゆる「第三者のためにする契約」(民法第537条)と考えて、当該自治体は旅行業者と寄付者のための旅行契約を締結します。

 しかしながら、標準旅行業約款は旅行者が旅行契約の当事者であることを前提として条文が書かれていますので、旅行者(ここでは寄付者)と旅行契約の当事者(ここでは自治体)」が異なることで旅行業約款と抵触する条項については、その規定を置き換える旨の「特約」を設けることになります。例えば、旅行業者が旅行者に対して旅行代金や取消料の支払いの義務を負わせることはできません(JATA HPの法務Q&Aに招待旅行の場合の特約書の一例を掲載していますのでご参考ください⇒コチラ)。

 なお、招待旅行を想定した受注型BtoB約款案(個別認可約款案)では、既に「旅行者」「事業者(旅行契約者)」「旅行業者」の三者を規定していますので、これを上手く利用することもひとつの方法です(個別認可約款の詳細はJATA HP<6 受注型BtoB約款>にてご確認ください⇒コチラ)。

 

寄付者を契約当事者とする場合

 他方、寄付者が旅行に行きたくて寄付をして旅行者になるのだから、寄付者自身を旅行契約の当事者とするのが自然であるという考え方もあります。この場合は、自治体が旅行代金支払債務を引き受けて寄付者はその債務を免れる「免責的債務引受」(民法第472条)として考えます。

 この場合は、標準旅行業約款では旅行者が旅行代金を支払うものとなっていますので、自治体が旅行者の代わりに旅行代金や取消料を支払うように「特約」で修正します。

 以上、二通りの考え方を述べてみましたが、いずれの考え方を採るにしても、寄付者が旅行契約を解除するときに、自治体の返礼義務はどうなるのかを自治体との間で決めて、返礼品のカタログ中で説明しておく必要もあるでしょう。

実際の運用にあたっては、自治体とよく話し合い、適宜、顧問弁護士に相談するなどして対応してください。

担当 法務・コンプライアンス室 中島一則