会報誌「じゃたこみ」 【EXPO】ツーリズムEXPOジャパン2022 開催レポート Vol.3

更新日:2023年12月22日


“TEJ2022”フォーラム[テーマ別シンポジウム]

「SDGs」と「サステナブル」がキーワードに
訪日旅行や教育旅行に新たなアプローチ

 “TEJ2022”会期中の9月23日には、2つのテーマ別シンポジウムが開催されました。日本政府観光局(JNTO)が主催した「サステナブル・ツーリズム・シンポジウム」では、「ポストコロナに選ばれる観光とは~今日から始められるサステナブルツーリズム」をテーマに、和歌山大学観光学部の加藤久美教授による基調講演に続いてパネルディスカッションが実施され、最近のトレンドやアプローチなどを紹介。日本観光振興協会が主催した「持続可能な観光推進シンポジウム」では、「SDGsを踏まえた新しい教育旅行の今後に向けて」をテーマに掲げ、東洋大学国際観光学部の古屋秀樹教授による基調講演と基調発表、事例発表を通じて、地域の自然・社会などを学ぶことも出来る“SDGs”や“持続可能性”の有用性が確認されています。

 

サステナブル対応は大きな変革に

 「サステナブル・ツーリズム・シンポジウム」で基調講演を行った和歌山大学の加藤教授は、3年越しとなったコロナ禍により大きな影響を受けたツーリズムにとって、「社会・環境・利益に連携と平和を加えた5つの要素を均衡させることがサステナビリティだ」と強調。ウイズコロナ・ポストコロナの時代に移行しつつある現在、「回復」がキーワードとして共有され、リジェネラティブ・ツーリズム(再生型観光)やレジリエント・ツーリズム(回復力・復元力・強靭性を伴う観光)、レスポンシブル・ツーリズム(責任を伴う観光)への理解も広まってきており、サステナビリティに取り組むことが社会に変革をもたらす可能性にも言及しました。
 加藤教授は、コロナ禍以前の急成長がもたらした弊害への反省からも、サステナブルツーリズムの必要性が高まっていることを指摘。観光のもたらす「光」は、訪問者だけでなく誰もが享受すべきものであり、「地域の知恵や価値観を重視することこそがサステナブルツーリズムの根幹だ」と持論を展開しています。
 また、加藤教授は旅行者の意識が変わってきていることにも着目し、自然だけでなく地域や地元の生活に配慮する旅行者が増えてきている中で、地域側が「良いもの」だけを提供すれば、自ずと意識の高い旅行者が訪問するようになるとも強調。
 さらに、サステナビリティへの取り組みは、SDGs達成への貢献による自己実現や企業の存在意義への共感などを通じて、スタッフのモチベーション向上にもつながることから、「サステナブルツーリズムへの対応を進めて旅行者に選ばれるようになれば、企業にとっても大きな変革につながる」と訴えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和歌山大学 加藤久美教授

 

訪日市場復活で欧米からの注目も

 「サステナブル・ツーリズム・シンポジウム」のパネルディスカッションに登壇した北海道宝島旅行社の鈴木宏一郎代表取締役社長は、コロナ禍以前から北海道の優位性を活かせる「海外富裕者層向けのアドベンチャートラベルや地域の自然や文化を楽しむ旅行」に照準を合わせてきたことを紹介。「観光マネジメントには地域主導で取り組み、マーケティングやPRでは地域外の専門家にも力を借りることが重要」と強調しています。
 2009年に日本で初めて宿泊施設向けの国際エコラベル「グリーンキー」認証を取得した扉ホールディングスの齊藤忠政代表取締役社長は、「信州の山の中で自然災害の影響を受けてきたことが持続可能な観光に着目し、住み続けられる地域をデザインすることを目指すきっかけとなった」と説明。1980年代から生ゴミのリサイクルや水を循環させる冷却施設を導入し、電気自動車での来訪者には割引料金を設定するなど、様々な取り組みを進めてきていることを報告しました。
 また、宿泊施設向けに独自の認証制度を設けているブッキングドットコムのジョン・オリビア東日本地区エリアマネージャーは、同社が7年前から実施している調査で「持続可能な施設が見つからない」というユーザーからの声を受けて「サステナブル・トラベル」バッジ認証を開始した経緯に言及。認証施設は利用者からのレビュースコアが高くなる傾向があり、サイト内での掲載順位アップにもつながっていると指摘し、訪日インバウンド市場が復活すれば、欧米からの旅行者などにも注目されるという見方を示しています。

 

モデレーターのJNTO中山理映子理事

パネルディスカッション 左から 北海道宝島旅行社 鈴木宏一郎代表取締役社長、 扉ホールディングス 齊藤忠政代表取締役社長、 ブッキングドットコム ジョン・オリビア 東日本地区エリアマネージャー

価値判断基準にパラダイムシフト

 「持続可能な観光推進シンポジウム」で基調講演を行った東洋大学の古屋教授は、旅行・集団宿泊的行事(教育旅行)が文部科学省の「学習指導要領」でも経験主義的教育に役立つものとされていることを説明。文科省によって「自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を育成することを目指す」と説明されている「総合的な探求の時間」との関りでも、課題発見や解決への取り組みは自己学習にもつながることから、「SDGsや持続可能性は旅行テーマとして有効だ」と強調しました。
 古屋教授は、気候変動や防災、クリーンな経済手段など、SDGsの達成を実現するための指標も重要な概念となることを指摘。観光庁の「日本版持続可能な観光ガイドライン」に基づいて、着地側で考えるべき課題について現状を評価するモニタリングが各地で精力的に行われていることも紹介しています。
 SDGsや持続可能性に関わる教育旅行が「将来を考える第一歩になる」という考えを示した古屋教授は、「行動の目的を考えるきっかけを与え、自分が選択する行動によって生じるメリットとデメリットにも目を向けて、総合的に判断できるようにする教育が必要だ」と呼びかけました。
 さらに、古屋教授は、教育旅行を通じて地域と自分のつながりを学ぶことが自己達成感の充実をもたらす可能性にも言及し、「従来の価値判断基準におけるパラダイムシフトにつながる」と訴えています。

 

 

 

 

 

 

 

 

東洋大学 古屋秀樹教授

教育旅行に求められる「探求学習」

 基調発表を行った日本修学旅行協会の高野満博常務理事・事務局長は、2022年までの3年間に実施された学習指導要領の改訂では、正解が一つではない課題を考える「探求学習」が重視されていることを指摘し、「教育旅行にも今後、そうした要素が求められることになる」という見方を示しました。
 高野氏は「持続可能な開発のための教育(ESD)」にも言及し、持続可能な社会を実現するために必要な資質・能力を培うことを目指す教育であるESDが「日本の提唱により国連で認められた考え方」であり、2019年の国連総会では「教育がSDGsの全てのゴールを達成するための鍵である」と決議されたことを紹介。文科省もESDを重視していることから、国連にとっては、MDGs(ミレニアム開発目標)に続く中間目標であるSDGsが2030年にゴールを迎えた後も、「ESDの重要性は変わらないだろう」と強調しています。
 事例発表では、着地側として福井県観光連盟の坪田昭夫専務理事が海の漂着ゴミを分別調査し、減量の取り組みを自分で考えて、集めたゴミをアクセサリーなどに加工する「若狭de海ごみ」の取り組みを報告。一方、発地側として登壇した近畿日本ツーリスト豊橋営業所の中島ゆかチームリーダーは、同社が独自開発したカーボンスタディツアー“Think the Blue Planet”を紹介。同ツアーは、音楽家の坂本龍一氏が代表を務める森林保全団体と連携し、ゲーム感覚で旅行中の行動を通してカーボンオフセットに取り組むことができる教育プログラムで、中島氏は「課題感がアップデートされ、探求の過程が繰り返される」効果を指摘しました。

左から 日本修学旅行協会 高野満博常務理事・事務局長、福井県観光連盟 坪田昭夫専務理事、近畿日本ツーリスト 豊橋営業所 中島ゆかチームリーダー