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更新日:2023年12月22日
“ Restart ” から “ Reborn ”へ コロナ禍を乗り越え、生まれ変わる旅行業界
新しい年が幕を開けて、4年越しとなったコロナ禍のトンネルにも、ようやく出口の曙光が見えてきました。ツーリズムの復活・再生へ着実に一歩を踏み出した2022年の後を受けて、新しい時代を切り開く旅行業界の覚悟が改めて問われる2023年を髙橋広行JATA会長に展望していただきました。
見えてきた復活への道筋
Q. 2022年を振り返るとともに、2023年を展望していただけますか。 髙橋 2022年は、ツーリズムの復活・再生に向けて大きく踏み出し、まさに、“Restart”の年だったと認識しています。2023年も、引き続き、復活・再生への道を歩みながら、新しい価値観を創出していかなければいけませんし、そのためには、業界全体も生まれ変わることが求められます。 キーワード的に言うと、「“Restart”から“Reborn”へ」というような気持ちで臨みたいと考えています。コロナ禍が3年越しとなった2022年は、水際対策が緩和されて、大きなターニングポイントの年となり、全国旅行支援に象徴される国の需要喚起策などを追い風に、国内旅行は順調に回復していくだろうと期待していますが、需要喚起策の継続は不可欠になるだろうと見ています。訪日旅行も、水際対策の大幅な緩和が功を奏して、拡大基調へと着実に転じてきていますから、復活・再生への道筋が見えてきたのではないかと感じています。
新しい時代を捉えた価値提供を
Q. 海外旅行については、どうでしょうか。 髙橋 海外旅行の復活・再生が、旅行業界にとっては、2023年の最大の課題であると思っています。これまでの延長線上で進めていけばいいということではなく、商品やサービスの見直しも含めて、新しい時代に即した新しい価値をお客様にどう提供できるかという観点から、旅行業界全体、あるいは、旅行会社そのものが生まれ変わる必要があると考えています。まさしく、“Reborn”の年にしなければなりません。
Q. “Reborn”を実現するための課題としては、どのようなことがあるでしょうか。 髙橋 現実的な問題として、先ずは観光業界全体として人手不足が非常に深刻な状態になってきています。解決に向けては、今までと雇用環境が大きく変わったことを前提として対応していく必要があります。厳しい環境下ではデジタルの活用を含む生産性の向上など、要員バランスも図りながら仕組みを変えていくことも大切です。そういう意味合いからも、旅行業界全体として今後、様々な場面で“Reborn”が必要となるのではと考えています。
海外旅行再開へ機運を醸成
Q. 海外旅行の復活・再生に向けて、より具体的な打開策については、どのようにお考えになっていますか。 髙橋 水際対策の大幅な緩和により、マーケットはもっと早く回復すると想定していました。昨年4月にハワイへ視察団を派遣し、復活に向けた足場を固めた上で海外旅行再開の道筋を開き、秋くらいには一気に回復するというような図式を描いていました。
2022年4月3日~7日「JATAハワイ視察団」として現地側と意見交換
この回復が遅れている状況は、円安や燃油サーチャージなどに加えて、世界的なインフレや旅行費用の高騰といった外的要因が働いていることは確かですが、根本的には旅行者のマインドセット、あるいはメンタリティに起因する部分が大きいと感じています。なかなかコロナ禍が落ち着かない状況の中で、「本当に海外旅行に出かけていいのだろうか」といった気持ちが根底にあるため、そのようなマインドセットやメンタリティを解きほぐし、機運醸成を図っていくことが、海外旅行の復活・再生につながると考えています。
活発な双方向交流の復活
2022年夏、全国8都市で実施した海外旅行機運醸成プロモーション
Q. そのために、どのような取り組みを想定されていますか。 髙橋 一つには、デスティネーション別戦略を検討しています。既に活発化している世界的な国際交流について、日本ではなかなか実感が沸かないというのが現状です。先ずは近場の韓国や台湾などのデスティネーションや根強い人気のハワイといった方面で双方向の交流を活性化させ、一定の流れをつくりそれを他の国々にも拡大していくという戦略です。国内旅行や訪日旅行の活性化ももちろん大切ですが、現時点で回復の遅れている海外旅行を活性化させないことには、旅行業界全体としての復活・再生は難しいのではないかと考えています。
ヨーロッパの各国からも日本と早く交流を再開したいという熱烈な声が寄せられていますので、海外旅行自由化60周年となる2024年も視野に入れながら、早期に「海外旅行に出かけたい」という機運醸成を実現して、一気に海外旅行の復活・再生に弾みをつけていかなければならないと考えています。
水際規制の更なる緩和を (2類相当から5類への引き下げを)
髙橋 国際交流の復活・再生にとって、足枷となっているのが入国時のワクチン3回接種、もしくは72時間前の陰性証明の取得という水際措置です。これは、新型コロナの感染症法上の扱いに大きく関係しています。新型コロナは依然として「結核」や「重症急性呼吸器症候群(SARS)」などと同じ「2類相当」となっている為、現在の水際措置がとられています。その結果として、例えば多くの学校で海外修学旅行を実施できない状態が続いていたり、企業の出張を含むビジネストラベルにも影響が出ている状況です。また、地方空港におけるCIQ要員の不足という事態が続いており、地方空港の国際線再開にも影響が及んでおります。政府では新型コロナについて季節性インフルエンザと同じ「5類」への引き下げも含め、見直しに向けた議論がされております。JATAではこれまで、経済団体連合会などと共に「5類」への引き下げを求めてきました。国際交流の本格的な実現のためにも、引き続き関係方面に強く働きを続けていきたいと思います。
旅行業以外への業用拡大と生産性向上について
Q. 冒頭でお話をされた““Reborn”というテーマでは、旅行会社個別の取り組みと業界全体での取り組みという二段階での対応が求められますが、その具体的なイメージもお話しいただけますか。 髙橋 コロナ禍で、旅行会社も生き残りを図るためにあらゆる企業努力を重ねてきましたが、旅行会社のノウハウやスキルが活かされた象徴的な事例として、ワクチン接種事業などのBPO事業があります。これは、旅行会社が培ってきた「斡旋」や「オペレーション」、「ホスピタリティ」といったコアコンピタンスがあってこそ実現したものです。コロナ禍がきっかけであったとはいえ、旅行業以外の分野への事業展開が出来たという経験は、新たなマーケットの開拓を図るうえでも自信となり、今後各社が知恵と工夫によって新たな事業領域を切り開くことにも繋がると考えております。
現在検討されている旅行業共通プラットフォームイメージ図
これまで旅行業界は競争を重視する傾向が強くありましたが、これからは生産性の向上や収益性の改善に向けて“協調”を図ることも必要なのではないでしょうか。 JATAでは具体的な取り組みを既に開始しています。例えば、宿泊施設の基本情報等については、これまでのように各社が個別にコストをかけるのではなく、旅行業界全体として活用できるシステムの構築を検討しています。また、災害時や緊急時にはお客様の安否確認や宿泊・観光施設の被災状況をいち早く把握する必要があります。いままでは各社がほぼオフラインで施設にそれぞれ確認しており時間も手間もかかっていました。情報の精度にも問題があったかと思います。 これらの課題解決に向け、一元化されたシステムへ施設側が最新の情報登録を行い、旅行会社はリアルタイムでその内容を共有できるシステムの構築を検討しています。このように、各社がそれぞれサービスや商品面で必要な競争を行っても、情報基盤等で協調していくことで生産性の向上や収益性の改善を図り、業界全体が生まれ変わることができるのではないかと考えております。
手に手を携えて急坂を克服
Q. 最後に、JATA会員旅行会社の皆さんへのメッセージをお願いします。 髙橋 まだ、「ポストコロナの時代」とは言い難いかもしれませんが、4年越しという長期に及んだコロナ禍のトンネルも、ようやく「ウイズコロナの時代」に向けて出口が見えるところまで辿り着きました。ただ、その先には平坦な道が開けているわけではなく、急な坂道が目の前に立ちはだかっている状況です。そして、その坂道を乗り越えなければ、旅行業界にとっての本当の復活・再生はないだろうと考えています。 2023年はその正念場になると考えており、会員各社の皆さんと手に手を携えて、これからの急な坂道を一緒に登りきりたいと思います。共に努力を重ねて一歩一歩登っていきましょう。
(2022年12月23日:JATA応接室にて取材/談)
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