会報誌「じゃたこみ」 【法務の窓口】
第102回
第三種旅行業者は海外募集型企画旅行を企画・実施できません

更新日:2025年01月21日


法務・コンプライアンス室
(監修 弁護士 三浦雅生)

 先般、海外募集型企画旅行と思しきチラシをある楽器店の店頭で見つけました。ツアータイトルは「ヴァイオリン製作家○○○○とヴァイオリン工房を訪ねる旅 クレモナ・ミラノ◇日間」、企画・実施の旅行業者名も記載がありましたが、なんと第三種旅行業者でした。さらに、説明文を読んでみると、その中に「この旅行は受注型企画旅行です」との記載が・・・!?

●旅行業者が計画を作成することは募集も受注も同じ

 そもそも旅行業者が作成し、自社でなくとも取引先等の店頭で誰もが持っていけるようにこのようなチラシを置いていれば、旅行者を募集しているとしか思えません。それだけで受注型企画旅行ではないと言えるものかもしれませんが、まずは、募集型企画旅行、受注型企画旅行それぞれが、旅行業法上どのように定義されているか、そして、旅行業務の範囲がどのよう区分されているか確認してみましょう。

 旅行業法第二条第四項で企画旅行を定義し、同第四条第一項第三号及び旅行業法施行規則第一条の三により、企画旅行が「参加する旅行者の募集をすることにより実施するもの」であるか否か等により業務の範囲を第一種旅行業務から地域限定旅行業務まで4つに区分しています。旅行業の区分と業務範囲の関係は、観光庁ホームページにある「旅行業法概要」の 「(図1)旅行業等の登録区分」をご覧いただくと、わかり易く整理されています。

 図1の表下部の「※1」に「募集型企画旅行 → 旅行業者が予め旅行計画を作成し、旅行者を募集するもの」、「受注型企画旅行 → 旅行者からの依頼により旅行計画を作成するもの」と注記があります。両者とも旅行業者が旅行に関する計画を作成する点では同様ですが、その計画を旅行者を募集するために予め作成しているか、旅行者からの依頼により作成するかが相違点となっていることがわかります。

 このチラシには利用運送機関・宿泊機関、目的地、日程、そして旅行代金があらかじめ定められたものが記載されており、さらには、最少催行人員まで設定されていて、募集型企画旅行の広告であることは間違いないでしょう。こう指摘すると当事者たる旅行業者は「モデルコースと参考代金を示しているだけで、広告している日程、金額通りに契約を締結するとは限らないし、ホテルや航空便などもお客様のリクエストに応じてアレンジし、受注型企画旅行として取引条件説明書面を交付している。」ので受注型企画旅行であると主張してくるかもしれません。

●業務範囲外の旅行の募集を行っていると疑われる広告がNG

 仮に、この広告が旅行業者へ相談するきっかけとなって、多少のアレンジが加えられた結果、旅行者の依頼による計画を旅行業者が作成し、受注型企画旅行契約として成立したとしても、広告そのものは不適切と言わざるを得ません。

 通達「企画旅行に関する広告の表示基準等について」(国総旅振第三八七号)では、誇大広告の事例の一つとして「旅行の目的地若しくは日程、旅行者が提供を受けることができる運送等サービスの内容又は旅行者が支払うべき対価に関する事項を具体的に広告に記載することにより、当該旅行者等に認められた業務の範囲上実施することができない企画旅行に参加する旅行者の募集を行えるかのような誤認を与える表示を行うこと。」(同通達 4(2)⑥)を挙げています。

 従って、本来実施できない海外募集型企画旅行の広告と誤認されるような広告(「旅行の目的地又は日程」、「運送・宿泊その他の旅行サービスの内容」、「旅行代金」のいずれかが記載されているもの)自体がNGということになります。広告できなければ、その結果締結されるであろう旅行契約も成立するとは考えにくく、やはり、このような“募集まがいの”受注型企画旅行という手法は不適切であると結論づけるよりありません。

担当 法務・コンプライアンス室 杉原 賢二