会報誌「じゃたこみ」 【法務の窓口】
第106回 最少催行人員について

更新日:2025年10月01日


法務・弁済部
(監修 弁護士 三浦雅生)

 今回は、「最少催行人員」界隈をテーマにお話をいたします。

・最少催行人員とは
 最少催行人員とは、説明するまでもなく、募集型企画旅行を実施する場合に必要とする最低の参加人数のことです。参加する旅行者がこの人数に達していない場合、企画旅行業者は募集型企画旅行を中止することができます。
 募集型企画旅行において旅行業者は、同じコース・日程で多くの旅行者を集めて一緒に旅行することで、スケールメリットを生かして旅行代金を安価にすることを目的としていますので、ある程度の人数が集まらなければ中止もやむなし、という立場です。
 一方の旅行者も、人数が集まらず採算がとれないときに旅行業者がツアーを実施しないこともあるということは、理不尽に思いながらも受入れられている状況であると思います。最少催行人員を設ける場合は旅行募集広告、取引条件説明書面、契約書面のいずれにも記載しなければならない(旅行業者等が旅行者と締結する契約等に関する規則第13条第6号、同第3条第1号チ、同第5条第1号ホ、同第9条第1号ロ)と規定されているので、消費者保護は十分に図られていると考えられます。

・最少催行人員に達しないことを理由に解除するときの通知の時期
 最少催行人員に達しないことを理由に募集型企画旅行を催行中止とするとき、旅行業者は旅行者に対して旅行開始日の前日から起算してさかのぼって、国内旅行の場合は13日目(日帰り旅行は3日目)に当たる日より前、海外旅行では23日目(ピーク時は33日目)に当たる日より前に通知をしなくてはいけません(標準旅行業約款 募集型企画旅行契約の部第17条第3項)。この期限を過ぎてから最少催行人員に達しないことを理由に契約を解除することはできません。
 では、いつからならば最少催行人員に達しないことを理由として催行中止にすることができるのでしょうか。
標準旅行業約款に通知の期限の定めがあることは先に書いた通りですが、通知できる始期については言及されていません。
 書いてないからと言って最終の通知期限まで1ヶ月以上もあるときに「経験則上、今後の申し込みは見込めず、最少催行人員に達することは極めて難しい」などと早々と催行中止にしてしまっては、契約済みの旅行者からは「集客の努力が足りない」とお叱りを受けることになるでしょうし、そんなことが続けば「おとり商品を多く扱う旅行業者」との誹りを受けないとも限りませんので、常識的な判断が求められるところと思います。

・最少催行人員を複数設定することはできるのか。
 何としてでも採算割れすることなく企画旅行を実施するため、1つの企画旅行に複数の最少催行人員と最少催行人員ごとに旅行代金を設けたらどうか、と考える方もいるかもしれません。あるいは、参加人数により追加代金を設けて実施すると考える方がいるかもしれませんが、いずれも、最少催行人員の主旨とは相容れないものです。そもそも、最少催行人員に達しないことは、ひとえに旅行業者の営業努力不足によるもので、それを理由に旅行業者が一方的に旅行契約を解除することができ、かつ、旅行に行けないというリスクを旅行者に押し付けている現在の旅行業約款の規定は不当であると問題視する向きもあり、拡大運用は避けたいところです。
 ちなみに、旅行業公正取引協議会が定める「募集型企画旅行の表示に関する公正競争規約」は、その運用基準で以下のように規定しており表示上も問題がありますので、ご注意ください。

 (45)一つの旅行に、複数の最少催行人員及びそれぞれの最少催行人員に対する旅行代金を設定して表示することはできない。
    また、最少催行人員未達による旅行催行中止の場合に、「○○名~△△名までなら追加代金××円で催行」という条件表示
    もできない。
    ただし、最少催行人員未達による旅行催行中止を旅行者に通知する際に、個別に当該旅行に新たな値付けをして参加を募集
    する旨を表示することはできる。

担当 法務・弁済部 杉原 賢二