会報誌「じゃたこみ」 【旅行安全マネジメント推進チーム】
~旅行需要回復期の今こそ、危機管理体制の総点検を~
「JATA旅行安全マネジメントセミナー2026」開催

更新日:2026年06月01日


旅行需要が確実に回復軌道に乗る一方で、現在の旅行業界は価格高騰、緊迫化する中東紛争などの地政学的リスク、多様な自然災害や国内外での事故といった複雑な危機に直面しています。
こうした状況を踏まえ、JATA旅行安全マネジメント推進チームは7月1日~7日の「旅の安全マネジメントWEEK模擬訓練」に先立ち、5月19日(火)、「JATA旅行安全マネジメントセミナー2026」を開催いたしました。
セミナーでは、外務省および有識者から最新の安全対策、邦人退避の現場から得られた教訓、実務における具体的な危機管理などについて共有されました。

1.主催者挨拶:有事の対応が会社の存続と信頼を左右する
 JATA理事・事務局長 池畑 孝治

セミナーの冒頭、JATAの池畑理事・事務局長が登壇し、会員各社へ向けて安全管理体制の再構築を強く呼びかけました。需要の回復が進む一方で、世界的な価格高騰や中東情勢をはじめとする地政学的リスク、国内外で相次ぐバス・水難・火災事故など、旅行者は常に多種多様な危機に直面する可能性を含んでいます。
池畑事務局長は、「有事の際の対応次第で、会社の存続やお客様からの信頼が大きく左右される」と強調。7月1日からの「旅の安全の日」推進週間に合わせ、各社での危機管理マニュアルの総点検や緊急連絡体制の確認を要請するとともに、JATA作成のシミュレーションツールを活用した実戦的な模擬訓練の実施を呼びかけました。

2.海外旅行の安全対策と政府の取り組み
 外務省領事局 海外邦人安全支援室長 錦織 有史様

第二部では、外務省領事局 海外邦人安全支援室長 錦織 有史様より、最新の渡航者動向、地域別リスク、そして大規模事案における邦人退避の教訓について解説がありました。
◆ 渡航者動向とパスポート手数料の大幅改定
現在、海外の長期滞在者・永住者は約130万人規模で推移しており、一般の短期渡航者は1,500万〜2,400万人規模まで回復傾向にあります。こうしたアウトバウンド促進の一環として旅券法が改正され、2026年7月1日の申請より、18歳以上のパスポート手数料が半額程度へと大幅に値下げされます。ただし、制度導入直後は申請の急増が予想され、7月以降の申請分は手元に届くまで通常より長い「約1ヶ月」を要する見込みとなるため、旅行会社はお客様への早期の注意喚起が必要です。
◆ 邦人援護統計と地域別リスクの現況
短期渡航者の増加に伴い、邦人が当事者となる事件・事故等の総件数は増加傾向に転じています。特に犯罪被害や出入国違反トラブル(ビザ誤認等)が増加しています。地域別リスクとしては、アジアのデモ・暴動、中国での反スパイ法や歴史的敏感日への注意、欧州でのテロやスリ被害、中東の情勢悪化が挙げられました。中東等では写真撮影をしてSNSに投稿する行為そのものが禁じられている状況もあるため注意が必要です。なお、6月11日開催の北米ワールドカップに向け、外務省の特設ページ開設や広域情報発出も予定されています。
◆ 大規模事案と邦人退避の教訓・盲点
1965年以降で63件の邦人退避実績があり、国際情勢の深刻化に伴い規模が拡大しています。直近の2026年3月には、中東・湾岸6カ国からの退避でチャーター機6便を用いて1,104名を退避させました。チャーター機は原則「有料」ですが、今回は予測困難な急激な情勢悪化であったため特例で無料となりました。
退避時の実務的な教訓として、トランジット先(ドバイ等)での足止めによる人数把握の難しさから、顧客に対する「たびレジ」への乗継地登録の徹底が強調されました。また、陸路退避で他国へ入国(国境越え)する際、見落とされがちな「パスポート残存有効期間(6ヶ月以上)」の事前確認の重要性が浮き彫りとなりました。
◆ 健康リスクと旅行会社への4つの要望
円安による海外医療費高騰を踏まえ、外務省は十分な補償内容の海外旅行保険の加入を推奨しています。また、5月のGW期間中にクルーズ船で発生した「ハンタウイルス」への感染症対応(5月15日付で広域情報発出)事例も紹介されました。
最後に、外務省から旅行会社への要望として、①有事の連絡体制の構築、②本人・家族対応における外務省や在外公館との緊密な連携、③継続渡航の見合わせや注意喚起共有による二次災害の防止、④政府の記者会見等に伴う迅速なプレス対応・意思疎通の連携、の4点が提示されました。

3.旅行安全マネジメントのすすめ
 JATAアドバイザー 東洋大学国際観光学部 客員教授 越智 良典様

第三部では、JATAアドバイザーで東洋大学国際観光学部客員教授 越智良典様より、現場の旅行実務における法的・道義的責任の境界線と、具体的な危機管理の手法について提言がなされました。
◆ 有事の初期対応と「二次災害」の防止
突発的な事件・事故は、本部体制の手薄な夜間や週末に発生する傾向があります。越智客員教授は、「不慣れな担当者が焦って不適切なメディア対応等を行うことで混乱が生じ、会社の信用を失う『二次災害』のリスクが高い」と指摘。これを防ぐため、WEB上にある他社の過去の記者会見の動画を参考にし、有事の具体的な対応イメージを社内で共有しておくことの重要性を説きました。
◆ 契約・手配外の事故における責任の明確化
学校の部活動等を例に、旅行会社が手配・契約していない範囲での事故対応について解説がありました。旅行会社が手配していない任意の乗り物でお客様が事故に遭った場合、法的責任は発生しませんが、プロとして適切なアドバイスや情報提供を行う「道義的責任」は存在します。
また、学校側が作成する「旅のしおり」等に旅行会社の社名やロゴを掲載すると、旅行会社が手配した旅行だとお客様に誤解され、リスクに発展するケースがあります。トラブルを未然に防ぐため、書面上でどこまでが手配範囲であるかを明確に区別・明記しておくべきであると警告しました。
◆ 中国旅行における「歴史的敏感日」への注意
最後に、中国旅行における安全対策として、歴史的な敏感日である7月7日(盧溝橋事件)や9月18日(満州事変)などの日程を挙げ、現地でのナショナリズムの高まりやトラブルに備え、通常以上の綿密な安全対策と現地ガイドとの情報共有が必要であると結びました。

4.旅行安全マネジメント体制構築のポイント
 日本アイラック株式会社 クライシスソリューション事業部事業部長 内藤 智行様

第四部では、日本アイラック株式会社 クライシスソリューション事業部事業部長 内藤 智行様より、実際の旅行会社への対応現場から注意すべき点について説明がありました。
◆ 安全対策のマニュアルは夜間・休日でも機能するか検証を
安全管理体制構築の要諦として、マニュアルを形骸化させず、初動(事故対応の6割を左右)が夜間・休日でも機能するかを検証する「抜き打ち模擬訓練」の重要性が示されました。特に裁判の7割を占めるバス事故や、現地スタッフによる他社オプション紹介が「企画旅行の手配」と見なされるリスクにも注意が必要です。
また、海外の病院には応召義務がなく「保険がないと入院すら拒否される」現実や、カード帯同保険の補償不足をお客様へ具体的に説明する責任が強調されました。加入しないお客様には書面で意思確認を残す実務の徹底が不可欠です。
有事は金曜夜や連休に頻発します。足止めされた顧客のSNS発信が混乱を招く現代、休日でも外務省・在外公館と即座に情報連携できる体制を整えることが、信頼維持の鍵となります。

【JATA旅行安全マネジメントチームより】
安全こそ旅行業の基盤」です。本セミナーで共有されたリスクや、教訓を参考に、7月の「旅の安全の日」に向けて
社内体制のアップデートをお願いいたします。
本セミナーはJATAサイトにアーカイブを掲載しております。ぜひご覧ください。また、『旅の安全の日WEEK』模擬訓練
への参加も併せてご検討をお願いいたします。

◇関連リンク
 ●アーカイブ動画視聴 ※視聴期間 2026年7月7日(火)
 ●セミナー視聴アンケート ※回答期限 2026年7月7日(火)
 ●セミナー資料ダウンロード ※ダウンロード期間 2026年7月7日(火)
 ●『旅の安全の日WEEK』模擬訓練エントリー ※エントリー締切 2026年6月12日(金)