会報誌「じゃたこみ」 【法務の窓口】
第107回 事前承諾を得るのは面倒だけど

更新日:2025年11月18日


法務・弁済部
(監修 弁護士 三浦雅生)

・電磁的方法による交付には事前承諾が必要
 旅行業者が旅行者と企画旅行や手配旅行等の契約を締結する際には、取引の条件を説明した上でその内容を記載した取引条件説明書面(以下「説明書面」)を交付しなければなりません。一方で、ウェブ取引の場合等、旅行者に「紙」の説明書面を交付する代わりに「ウェブサイトから説明書面をダウンロードしてもらう」、あるいは「旅行業者のサイトに設けた顧客専用ページ内で閲覧してもらう」等の方法(以下「電磁的方法」)を採る場合は、あらかじめ、旅行者に対し、その用いる電磁的方法の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければなりません。
 こ
れは、旅行業法施行令第1条第1項で定められているものですが、皆さん、きちんと事前承諾をとっていますか?

「紙」での交付が基本です
 そもそも、ウェブ上での取引なのだから、説明書面の交付等もウェブ上でのやり取りが当たり前であり、わざわざ旅行者の承諾を得るまでもないだろう、と思われるかも知れません。ペーパーレスのこの時代にいまさら「紙」での交付なんて・・というご意見もあろうかと思いますが、高齢の方々をはじめ、ウェブ取引に慣れていない消費者もまだまだ大勢いるのだ、とご理解ください。「紙」とは異なり、電磁的方法の場合は、旅行者が使う電子機器の性能やインターネット環境の違いによって利便性に差が生じることがありますし、また、記載データの削除や改ざんを懸念する旅行者もいることでしょう。
 
たとえ面倒だと感じても、「大切な書面なので、紙で交付してほしい」と要望する旅行者に対しては電磁的方法を強いることはできませんし、また、事前承諾を得ている場合であっても、「やっぱり紙で欲しい」と言われたときは応じなければなりません(同条第2項)ので、注意をしてください。
 ちなみに、消費者契約ではありませんが、下請法施行令においても親事業者が下請事業者に、いわゆる3条書面(契約条件を明確に記載した書面)を電磁的方法により交付する場合には事前の承諾が必要だとされていましたが、来年の法改正(通称も「取適法」等となります)に伴って当該条項は削除されるようです(ただし、旅行契約と同様に、「紙で交付して欲しい」という要望を断ることはできません)。

・事前承諾を得る方法
 旅行者から事前承諾を得る方法としては、ウェブ上に「電磁的方法で交付することを承諾する」旨のアイコンを示して旅行者にクリックしてもらう、あるいはメールで承諾の旨の返信を受けるなどが考えられます。
 そして、承諾を得て説明書面を電磁的方法で交付した後は、最後の仕上げとして、旅行者が当該書面を記録したことを確認する必要があります。これもウェブ上に「取引条件説明書面を保存又は印刷しました」というチェックボックスを作って旅行者にチェックを入れてもらうのが良いでしょう。ちなみに、旅行業公正取引協議会が定める「募集型企画旅行の表示に関する公正競争規約」は、その運用基準で以下のように規定しており表示上も問題がありますので、ご注意ください。
 詳しくは、過去の法務Q&A(第79回「デンジテキ方法による書面交付」)もご参照ください。

担当 法務・弁済部 中島 一則