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更新日:2022年06月09日
2017年2月28日開催
2月28日、東京・六本木の“六本木アカデミーヒルズ49”で「JATA経営フォーラム2017」を開催しました。「構造変化に強い旅行業経営へ向けて」をメインテーマに掲げ、今年で25回目と迎えたフォーラムには、会員企業など328人が参加。基調講演や特別講演に加えて、旅行業経営力を強くする企画提案力、旅行業とLCC、観光地域づくりにおける旅行会社の役割などをテーマに開催された4つの分科会では、パネリストらによる議論に参加者らが熱心に耳を傾けました。
田川 博己JATA会長
今年1月に発足した米国のトランプ新政権や欧州連合(EU)における主要国での選挙の行方に言及し、「『往来の自由』を拡大することで交流の輪を広げていくというツーリズムの理想に反する動きに対しては、これを注視して必要な時には声をあげていかなければならない」と語り、ツーリズムの大前提である「往来の自由」を維持することの重要性を訴えました。
また、旅行市場の動向については、昨年の海外渡航者数が3年ぶりに前年比でプラスを記録するとともに、訪日外国人旅行者数も初めて2000万人を突破したことを指摘。「ますます観光産業に対する関心や期待が高まってきている中で、海外旅行も訪日旅行も需要の伸びに比べて旅行会社の取り扱いが伸びていない」実情を踏まえ、「今年は旅行会社自らがマーケットを動かすために仕掛ける年にしたい」と語り、「旅行会社の真価の発揮」を今年の事業テーマに掲げ、1年を通じて取り組みを進める考えを示しています。
JATAはすでに今年2月、海外旅行市場の復活を目指して、旅行会社と各国の政府観光局や大使館によって構成される「アウトバウンド促進協議会」を立ち上げており、「日本全国からの海外旅行を促進するため、送り手と受け手が積極的に情報を共有して意見交換を行い、フォーラムやセミナーなどの開催を通じて、商品に直結するような企画担当者と現地とのコミュニケーションを強化する」方針を明らかにしました。同協議会について、「民間の総力を結集した活動として業界内外から大きな期待を集めている」と説明。「これを大きなうねりとして、海外旅行の需要喚起とともに、お客様に旅行会社を使ってもらえるよう仕掛けていく」と意欲をみせています。
統合から4年目を迎えるツーリズムEXPOジャパンについて、「過去3年で基本形が完成し、主催者に日本政府観光局(JNTO)が加わる今年、〝観光立国=日本〟を象徴する旅の総合イベントとして新しいステージに挑戦する」と決意を表明。日本の観光産業を代表するイベントに成長したツーリズムEXPOジャパンを「旅行業界とパートナーの方々との商談やネットワークづくりの場」として機能を強化していく考えを示し、海外旅行商談会の拡充やアウトバウンド交流会の新設、インバウンドでもランドオペレーター商談会の新設などを計画していることを明らかにしました。
さらに、「貸切バスの安全や情報セキュリティへの対応、東北や熊本での復興支援なども企業の責任・業界団体の使命」と強調。「安全・安心とコンプライアンスの徹底や地方創生に向けた活動の推進なども、旅行会社の真価発揮にとって重要だ」と指摘しています。
黒須 卓観光庁参事官
田村明比古長官による挨拶を代読。2016年における観光産業について、「訪日外国人旅行者数が暦年で初めて2000万人を超えて2404万人となり、訪日外国人旅行消費額は3兆7476億円まで拡大した。他産業の製品別出荷額と比較すると自動車、化学製品に次ぐ3番目の規模に達している」と振り返りました。その上で、2017年を「『明日の日本を支える観光ビジョン』が示す『観光資源の魅力を高め、地方創生の礎に』『観光産業を革新し、国際競争力を高め、我が国の基幹産業に』『すべての旅行者が、ストレスなく快適に観光を満喫できる環境に』という3つの視点に立ち、政府一丸となってビジョンを形にしていく1年となる」と位置付けています。
また、観光立国推進における旅行業界の役割にも言及し、「これまで海外旅行市場は旅行業界が常にリーダーとしての役割を果たすことで成長してきた」と指摘する一方、「観光産業を取り巻く環境は変化したものの、現在においても旅行業界が果たすべき役割は大きい」と強調。「改めるべき商習慣は見直し、新たな筋肉質の経営体制を整え、観光先進国を目指す日本のリーダーであることを強く意識し、その役割を果たして行ってほしい」と呼びかけ、旅行業界への大きな期待を表明しました。
古田 貴之氏
旅行業界とロボットは敵対関係にあると考えている方が多いかもしれません。しかし実際には互いは味方同士です。旅行業界をレストランのシェフとするなら、我々のロボットは料理のネタになる食材。シェフと食材の関係なのです。
現在のロボット技術は相当に進んでいます。数年前、蹴っ飛ばされても転ばない米国の軍用4足歩行ロボット「BigDog」の動画に驚いた方も多いと思いますが、今ではこの程度のロボットは造作なく作れます。段差があったり滑ったりする坂道や雪道も平気で歩く2足歩行のロボットだって“お茶の子さいさい”。もうすぐヒト型ロボットの貸し出しサービスも始まります。それほど進化しているのです。
ロボット実用化のポイントは2つ。一つは人件費よりコストを安くできるか。もう一つは客の満足度です。たとえばホテルでロボットが荷物を運ぶだけでは、むしろ手抜きと捉えられかねません。客を気遣うサービスや、ちょっとした会話とひもづいて初めて「よかった」の満足感を引き出せる。しかも人より安くそれができねばならないのです。
東京スカイツリーのソラマチ8階に、千葉工業大学の東京スカイツリータウンキャンパスがあります。ここではロボット技術を身近に感じてもらうために体験型アトラクシションを用意していますが、大変な人気でオープン3年間に60万人が訪れました。実感として最先端技術と観光のコラボは相性がいい。ロボット技術でアミューズメント施設も大きく変化していくでしょう。現在、お台場周辺を、ロボット技術など最先端技術をさまざまな形で活用して新たなアミューズメント・エリアに変えていこうというプロジェクトも進めています。
また千葉工業大学未来ロボット技術研究センターはアイシン精機と共同で、ロボット技術を応用した安全機能搭載のパーソナルモビリティ「ILY-A(アイリーエー)」を開発しました。若者からお年寄りまでの移動を、さまざまな生活シーンでサポートする超小型の乗り物で、乗って移動するビークルモード、立って移動するキックスケーターモード、荷物を押して運べるカートモード、引いて運ぶキャリーモードの4種類の形態に変形、トランスフォームできるのが特徴です。
セグウェイやこの「ILY-A」のような1人乗りのパーソナルモビリティの公道走行が近いうちに日本で認められるはずです。それに伴い、東京五輪の2020年までには少なくとも自動車メーカー4社がパーソナルモビリティを発売します。通信業者と連携して自動運転を取り入れたパーソナルモビリティによる人の移動や荷物運搬の各種サービスも産み出されるはずです。東京五輪はパーソナルモビリティへの応用も含めたロボット技術のショーケースにもなることでしょう。
ただし重要なのは、ロボット技術や最先端技術は、使いこなすコンテンツがあって初めて生きるということ。我々がよく言うのは「モノ作りよりモノゴト作り」です。どんなに素晴らしい自動車があっても、行きたい場所がなければ人は自動車に乗らない。それと同じ。「技術は使いよう」なのです。
自動運転などに欠かせない技術がAI(人工知能)です。AIはサービスの大衆化を促します。たとえば運転手付きの自動車はお金持ちだけのものでしたが、自動運転が実現すれば専属運転手付きと同じで、しかもAIが行動を先読みして好みの場所へ連れて行ってくれるようにもなるでしょう。ロボット同様にAIも生活を大きく変えていきます。
ただし一つ誤解があります。よく「AIが人間の仕事を奪う」と言われますがこれは間違い。たとえば20年後にロボットが人間の仕事の多くを奪っているなどということは500%あり得ません。そういう詐欺まがいの言説に惑わされないでください。「人工心臓」は人が作った心臓のことを指しますが、「人工知能」は人が作った脳のことではないのです。
AIの中に感情は作れません。「嫌だ」とされることに対して嫌がる動作で反応させることはできても、AIが喜怒哀楽を持ったわけではありません。AIが囲碁で人間に勝てるのは、何千万回もの対局を通じてデータを蓄積するからです。
つまりAIは過去のデータから学習するのが得意なだけで最終的に人間に敵わない。専門家としてそう申し上げておきます。付け加えれば、今後、そのような特性を持つAIの力をより引き出そうと考えればデータが必要だということ。つまりデータを持っている者が有利だということです。ですから各企業は、どのようにして人々の生活に入り込み、上手にビッグデータを収集、蓄積していくかに知恵を絞りしのぎを削っているのです。
専門家として最後に申し上げたいのは、ロボットやAIはサービスをサポートしたり、物を効率的に運んだり、必要な情報を素早く的確に提供したりすることが可能ではあるけれど、人に接してサービスできるのは、やはり人だということ。心と心のつながりが持てる人間同士だからこそ、サービスされた側が満足感を得られるということです。ロボットやAIに関して、そのことは忘れないでいただきたいと思います。
岩崎 夏海氏
20年前から世の中がどんどん便利になりました。昔は、営業マンがカバンに東京や日本の地図を入れて、それを片手に移動していたのが、インターネットが普及すると、住所検索をして地図はプリントアウトするものになり、今では、ナビゲーション機能が付いているスマホで、迷わずに行けるようになっています。
移動にかかる時間が減って、仕事も早く終われるのに、ムラ社会で相互監視社会の日本では、先輩や上司を差し置いて、家に帰れない。それどころか、「ホーレンソー」だとか「PDCA」などと言い出して、相互に仕事を水増しするようになり、会議が際限なく増えてしまいました。何もしていないとサボっていると思われるから、「ホーレンソー」や「PDCA」で仕事をするフリをしているわけです。 そういう状況だと、働いている人たちは「役に立っている」という実感がないから、うつ病が増えました。
どんどん悪いサイクルが拡大して、過去20年間で日本の労働生産性は、先進国の中ではビリに近くなってしまっています。 労働生産性を高めるには、「働く」ことが目標ではなく、「成果をあげる」ことに焦点を合わせていかなければなりません。 残業を敢えて禁止することにより、限られた時間の中で仕事を終わらせるようにして、初めて生産性が高くなっていくのです。 多少の荒療治となるかもしれませんが、労働生産性を高くするには、時間内に成果をあげるという目標を従業員に課さなければなりません。 昭和の高度経済成長を経験した日本人は、その栄光の残像にとらわれがちですが、通勤時間もかかり交通の便も良くなかった当時は、夜遅くまで働けなかったので実労働時間はそんなに長くなかったのです。
イノベーションの第一歩は、何かを始めることではありません。 例えば、ベッドが古くなって新しいベッドを買う時は、その前に古い方を捨てます。そうしなければ、部屋に入らないからです。 ところが、働くことについては、そうじゃない。 日本人は大体が勤勉で、1日の中で制限ぎりぎりまで働いています。何か新しいことに取り組む時に、通常業務の上に働こうとしますから、身動きが取れなくなってパンクしてしまいます。 ですから、イノベーションの第一歩は、何かを止めることです。何を止められるかを検証することから始めなければなりません。 例えば、日本のフィルムメーカーの場合、フィルムが売れなくて、これまで多くのリストラを繰り返してきました。販売店の方から商品を置かせてくれと言ってきた「神商品」と言われた大ヒット商品の製造販売が止められず、赤字を垂れ流しながらも緩やかに縮小することを選択したのです。
携帯音楽プレーヤーの代名詞だった「ウォークマン」の日本メーカーは、1990年代にはハードディスク付きのウォークマンを検討していましたが、カセットテープやミニディスクの媒体事業部が猛反対し、結局、製品の販売にはいたりませんでした。 しかし、米国の企業はドラスティックです。デジタル携帯音楽プレーヤーを発売して、あっという間に「ウォークマン」を死語にしてしまった米国のメーカーは、デジタル携帯音楽プレーヤーが売れなくなることを承知で、音楽機能付きのスマートホンの販売に踏み切りました。その後の成功は、皆さんもご存じの通りで、この米国メーカーは、時価総額ナンバーワンになっています。 捨てるということが如何にイノベーションを起こすか。使えなくなったビジネスモデルを捨てる、あるいは、残業を止めたら、業績は伸びるのです。
ドラッカーの経営学で話題になるのは、「権限の委譲」です。人間の一番の好物は「責任」ですから、権限を委譲すれば、仕事ができなかった部下も仕事ができるようになります。ところが、多くの人は、部下に権限の委譲ができません。信用できないからです。 捨てるということが日本人の風土や慣習に馴染まないのか、経営改革や経営健全化のネックになっています。 逆に、だからこそ、捨てることが大きなチャンスになるわけです。 近年における日本の大企業による地盤沈下は、問題の先送りや帳尻合わせで、長期的なビジョンを失ってしまっていることによるケースが多いと思います。 昨年、日米通算4000安打を達成したイチローは、記者会見で「8000回の凡打」の重要性を強調しました。失敗に学べる、つまり、失敗が上手いのです。 沈没していく企業は、失敗が下手です。 倒産した米国のフィルムメーカーは、1960年代にデジタルカメラを開発していましたが、フィルムを売るという目先の利益を優先して、結局、デジカメの販売には至らず、2010年に倒産しました。40年近くは利益を出せましたが、結局、会社の命脈は尽きたのです。 今という時代は、日本人そのものが問われています。 歴史的には、明治維新と戦後の復興という2度にわたって、日本は旧来のシステムを捨てて、大きく成功しました。21世紀に入って、3回目のイノベーションの時期を迎えていますが、今回は血を流さずに成功させることができるかどうか。 日本の未来も、会社の未来も、皆さんの双肩にかかっているのです。
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