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更新日:2022年06月09日
2014年2月26日開催
JATAは2月26日、東京・日本橋蛎殻町のロイヤルパークホテルで「JATA経営フォーラム2014」を開催しました。「新 しい価値創造への挑戦」を総合テーマに掲げ、22回目を迎えたフォーラムには、会員会社など約340人が参加。特別講演や全体 パネルディスカッションに加えて、「今後50年の旅行業ビジネス」「環境変化に伴う国内旅行商品の提案」「訪日旅行の取り扱い 拡大」といった海外・国内・インバウンドの各分野における課題や「女子力の活用」「若手社員参加型セミナー」といったテーマによ る5つの分科会でも、熱い議論が繰り広げられました。
菊間 潤吾 JATA会長
挨拶に立ったJATAの菊間潤吾会長は2013年について、「安倍政権による積極果敢な経済 政策の展開や成長戦略の取り組みなどを通じ、景況感が好転した1年だった」と振り返ると同時に、 旅行業界においても取扱高営業利益率の上昇など、状況の改善が進んでいるとみられることを明らかにしました。
「第一種旅行業経営分析のための調査」によると、2012年には取扱高営業利益率が0.56% を示し、リーマンショック前の2006年時点における0.55%を超えるまでになっています。一 人当たり利益額も回復しており、規模別にみた場合、中堅以下の利益率や絶対額が高い傾向にあり、 菊間会長は「小規模な会社であっても、得意分野で利益率の高い経営を行っていることが分かる」と説明。さらに、ホールセーラーや リテーラー、メディアなど、企画旅行の募集に関わる業態でも利益率が改善されました。
菊間会長は「業界全体の利益率ではJATAの目指す1%に遠く及ばず、低いままにとどまっている」ことに言及、「JATAとしては、政策提言で取り上げた経営環境の改善に貢献できることを着 実に実施していきたい」と改めて決意を表明しています。
一方、観光庁では、一昨年の観光産業政策検討会の提言を受けた旅行産業研究会で、ネット化やグローバル化、仕入れ環境の変化などを踏まえ、旅行業法や旅行業約款など制度面における議論も進められてきました。
菊間会長は、「手配旅行や変更補償金など難しい問題はあるものの、旅行業界が自主的に取り組んできた安全マネジメントへの取り 組みには高い評価をいただいている」と強調。「業法や約款については、旅行会社の経営にも大きく影響するものであり、時期が来れば、会員各社には適宜報告する」方針を示しています。
「第一種旅行業経営分析のための調査」の結果、国内旅行と海外旅行の取扱高ベースでのシェアが52.3%と43.2%となっている のに対し、訪日旅行は4・5%にとどまり、取り扱いも大手に偏っています。菊間会長は、「安倍総理の施政方針演説でも、訪日旅行 をはじめ観光が何度も取り上げられるなど、観光産業のリーダー役としてのJATAへの期待も高 まっている」と指摘し、「現在の潮流を考えるなら、海外・国内に加えて訪日旅行にも大きなビジネスチャンスがあると捉えるべきだ」と訴えました。
菊間会長は、「時代に要請されている役割を業界がきちんと果たせるよう、JATAとして環境の整備や機会の創出に努めていきたい」と締めくくりました。
篠原 康弘 審議官
フォーラム当日の2月26日は、衆議院国土交通委員会で来年度予算の審議が行われていたため、予定されていた出席ができな かった国土交通省観光庁の久保成人長官は、篠原康弘審議官が代読 したメッセージの中で、「今年は海外旅行の自由化から50年という節目の記念すべき年でもある」と 指摘。「ツーウェイツーリズムの促進という観点も踏まえ、観光庁としてもアウトバウンドの振興にもより一層取り組んでいきたい」 考えを明らかにし、「JATAとの緊密な連携」を通じた今後の展開に期待を示しています。
坂根 正弘 氏
”ダントツ経営”の鍵はブランドマネジメント 地方を元気にするのは農業、林業そして観光だ
今年の経営フォーラムでは、日本経済団体連合会の副会長で産業競争力会議や国家戦略特別区域諮問会議の議員なども務めるコマツ (小松製作所)の坂根正弘相談役が、「世界の基本的変化と日本の構造改革」と題して特別講演を行いました。
2001年に小松製作所の社長に就任した坂根相談役は、グローバリゼーションの進展で海外へ拠点を移す製造業の企業が多い中、 日本国内での製造にこだわり、「見える化」を通じて日本の強みと弱みを分析し、危機にあった会社を世界第二位の会社に育てあげた”ダントツ経営”の手腕が高く評価されています。
世界の基本的変化について、坂根相談役は、1980年代から21世紀を迎えた現在にいたるまでの 建設・鉱山機械の地域別需要構成比の推移を振り返って、「日米欧の時代は20世紀で終わっており、 それは自動車や電機も同じことだ」と説明し、「リーマンショックの後は、中国が1カ国で市場を引っ張った」と指摘。
日米欧の時代からアジアを中心とした新興国の時代を迎える中で、アジアに位置する日本が「成長の機会」を享受できるチャンスを活かす優位性を持っていることを強調しました。
坂根相談役は、日本の高齢化率が20%を超えている現状にも言及し、今後、継続的な成長が見込まれているアジアの中間層のエネルギーをどう吸収するかが鍵となるという認識を示しています。
パートナーとして選ばれ続ける存在に
坂根相談役は、社長時代から「企業価値とは何か」を一貫して追求してきました。「社会やメディア、株主、金融機関、顧客、協力企業と販売・サービス代理 店、社員といった全てのステークホルダーからコマツがどのくらい信頼されているかを測ることができれば、それが企業価値」と語る 坂根相談役ですが、企業価値を評価する側と企業価値を創る側でステークホルダーを分けた場合、「企業価値を創る側で、一番大事なのは顧客である」という結論に至ったといいます。
坂根相談役は、「企業価値を創り、利益を与えてくれる顧客のコマツに対する信頼度」を「コマツでないと困る度合いがどれくらい 高いか」という物差しで測ることにしました。メーカーとして造った製品を、販売する戦略=セールスと、ニーズに合ったものを売る戦略=マーケティングがあるよう に、「コマツでないと困る度合いを高め、パートナーとして選ばれ続ける存在となる」、つまり、売れ続けるための戦略をブランディングとして定義し、ブランドマネ ジメントを”ダントツ経営”の中核に位置付けたのでした。
メーカーとしては、まず、”ダントツ商品”を造らなければなりませんが、坂根相談役は、「商品の場合、必ず、(競合他社が)追いついてくる」ため、「顧客の稼働コスト低減や安全オペレーショ ンの実現などの”ダントツサービス”、さらには、顧客が困っている問題を解決する”ダントツソリューション”の実現がより重要だ」と強調しています。
「困った時に助けることが信頼獲得の鍵」と指摘する坂根相談役は、「旅行業でいえば、予期しない突発事項が発生した時に、いか にテキパキと処理してもらえたかという印象は、強烈に残るはずだ」と語り、「日本の旅行業の最大の特色も、そこにあるのではないか」と指摘しています。
坂根相談役は、「今まで日本はビジネスモデルを後追いして、物づくりの現場だけで勝負してきたが、ビジネスモデルづくりで成功 し、現場での勝負も、モノづくりだけでなくサービスやソリューションも含めた現場力を武器にしなければならない」と主張。大企業も含めて日本の企業が自信喪失 に陥っている現状に対し、坂根相談役は「失わなくてもいい自信を無くしている」と喝破しました。
自身は島根県出身で、会社の創業地が石川県であることも踏まえ、坂根相談役は「東京への一極集中が最大の課題」と指摘し、 「高度成長期には効率的だったが、現在の状況では、日本は元気にならない」と断言。
「地方を活性化しないと、日本の成長はないだろうし、そのキーワードが農業・林業と観光だ」と指摘しています。
日比野 健 氏 篠原 康弘 氏 北村 吉弘 氏 久村 春芳 氏 米村 道章 氏
「旅行業の価値創造への挑戦 – 東京オリンピック・パラリンピックをバネに – 」をテーマに実施された全体パネルでは、国の 政策やICT、ライフスタイル、インバウンドのスペシャリストらが、旅行業の価値創造には何が必要かを探りました。
東京オリンピック・パラリンピックを追い風に 各分野のスペシャリストが近未来を見通し課題抽出
モデレーターを務めたJTB総研の日比野社長は、観光が国の「成長戦略」で柱の一つに位置づけられる一方、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの 開催が決定するなど、ツーリズムにとっての追い風が勢いを増していることを指摘。ICTの劇的な進化や旅行会社の役割の多様化など、環境の変化を業界として共有 することの必要性を強調し、そのうえで、業界として何を考え、どうあるべきかを模索していかなければならない、という認識を示しました。
日産自動車の久村フェローは、ICTの自動車業界への影響として、SFに近いような技術の進展が実現しつつあることに言及し、ネットショッピングなど移動を伴 わないライフスタイルが定着する一方で、SNSの情報をきっかけに移動した経験のある人も約25%に及んでいる事実を紹介。「電動化と知能化という技術の進展が温 暖化や交通事故などの問題解決に貢献するだけでなく、近い将来、自動運転車両を使ったドライブ旅行の企画も求められるようになれば、自動車業界と旅行業界とのコ ラボレーションによって、新たなドライブ需要や斬新な旅行商品が開発される可能性も出てくる」と期待をにじませました。
リクルートライフスタイルの北村社長は、消費者の心を掴むためのヒントとして「検討のマナ板が広がる」「日本文化の評価が『逆輸入』される」などを挙げまし た。ネットの普及などにより「わざわざ」「旬」という希少性や「事前に検討」という行為などが希薄になってきているため、北村社長は「そうした無意識の生活変 化を見つめ、違いを明らかにすることが重要になってくる」と指摘。また、外国人が100円ショップで日本の生活の分かるものを大量に購入していくケースが増えていることについて、「日本文化の魅力が逆輸入されている事例だ」と説明しています。
地域や生活者も巻き込むインクルーシブ・ツーリズムに注目
国土交通省観光庁の篠原審議官は、1000万人を突破した訪日旅行者について、「4分の3がアジア各国・地域からの旅行者で占められている」と指摘。特に、東 南アジア各国におけるビザ緩和により、2012年の80万人から2013年には115万人に増加したのに続き、今年1月も昨年の4割増を記録しています。年明けの観光立国推進閣僚会議では、 安倍総理から、(1)2020年に2000万人を目指すこと、(2)その障害となる規制や障害を除去すること、(3)必要なことを速やかに実施すること、という3つの指示 があり、6月をメドに観光立国推進アクションプログラムを改訂し、具体的な施策が講じられる見通しです。篠原審議官は、「制度としてのビザ緩和、さらなる需要 の刺激策、受入体制の整備などをアクションプログラムにどう反映できるか、正念場を迎えることになる」と決意を示しました。
東日観光の米村社長は、同社の売り上げの内訳が国内58%、海外33%、訪日9%となっていることを紹介し、「われわれのような中規模旅行会社でも、インバウンド で数字を残せることを理解していただき、オール観光産業でインバウンドを盛り上げていきたい」と呼びかけました。同社のインバウンド事業では、海外のオーケスト ラや人気バンドなどの来日公演での国内手配も手掛け、2013年の利益貢献度では13%まで回復したが、これをさらに拡大し過去最高の37%レベルに戻すのが今後の目標だそうだ。米村社長は、「イ ンバウンドは十分に儲かるビジネスなので、ぜひ、多くのJATA会員にチャレンジしてほしい」と訴えています。
JTB総研の日比野社長は、「旅行業の価値創造産業への挑戦では、ツーリズムの進化形である交流を中心として、地域や生活者を巻き込んだインクルーシブ・ ツーリズムに注目すべきだ」と強調。「2020年を軸にポジティブに考えることで、これからの可能性が広がっていくと思う」とまとめました。
旅行業経営委員会 木島副委員長が乾杯の音頭をとられ、登壇者、参加者がなごやかに交流しました。
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