会報誌「じゃたこみ」 【JATA活動】旅行業再生戦略会議 5つの提言と対応策を発表

更新日:2023年12月22日


各社による取り組みの総和で「最も魅力溢れる産業」へ
JATA・旅行業再生戦略会議が5つの提言と対応策を発表

 

「5つの提言と対応策を発表するJATA髙橋会長」

 

 髙橋広行JATA会長は6月22日、東京・大手町の経団連会館で開催された第66回定時総会の後、JATAが昨年10月に設置した旅行業再生戦略会議での約半年にわたる議論をまとめた提言を発表しました。旅行業界がこれまで経験したことのないような移動と交流の厳しい制限を受けたコロナ禍からの復活・再生に向けて、「持続可能な旅行業ビジネスモデルの構築」と「『高収益構造』への転換の実現」を2つの基本的な目標として掲げた旅行業再生戦略会議では、「旅行業の存在意義の確立と周知」「『旅行ビジネスを極める』『新たなビジネス領域への進出』の両面における進化の追求」「前例にとらわれることのない協調と共創の実践」を3つの基本方針として打ち出し、「業界のブランディング/広報の強化」「協調/共創」「デジタル原則」「人財確保/人財育成/人財活用」「レジリエンス」という5つの提言とJATAとしての新たな対応策をまとめています。髙橋会長は、日本の将来の発展を担う観光産業にあって“エンジン役”である旅行業を「日本で最も魅力溢れる産業」へ育てていくため、JATA会員各社が提言を自社に置き換えて検討・実行していくよう呼びかけ、「各社による取り組みの総和が旅行業再生につながる」と訴えました。

 

 

 

旅行業の存在価値高める努力を

 髙橋会長は、旅行業再生戦略会議で整理された現状認識について、政府が成長戦略の柱と位置付けている観光における旅行業の地域への貢献や経済波及効果などに対し、コロナ禍の前から業界内での認識も社会への周知も不足していたという課題に言及。 時流に沿った対応という面でも、「デジタル化への対応やサステナブルな取り組みも不十分」であり、事業の収益性という観点からも、「人海戦術に頼る非効率な業務がいまだに数多く存在している一方で、人の手による付加価値の創造も十分ではなく、改善の余地は大きい」と指摘しています。また、大学における観光系学部の増加などにより、人財確保の環境は恵まれたものとなってきているものの、入社後の人財育成や多様な人財の活用という面では、「時代に合った工夫が必要」というのが実態です。髙橋会長は、「旅行業界では、ひたすら競争を優先する風土があり、各社間で協力体制を構築しながら発展するという空気が希薄だったという声も、旅行業再生戦略会議でしばしば聞かれた」ことを指摘。また、「JATAには多様な会員が所属していることから、各社による事業展開の方向性が一様ではないことを前提に議論を進めた」と説明しています。さらに、コロナ禍を通じて見えてきた実態として、髙橋会長は「雇用調整助成金や融資支援策、GoToトラベル事業などの公的支援なしでは、これほどの規模のパンデミックで経営や事業の継続は到底できなかった」と語り、「公的支援をベースに懸命の努力を積み重ねて生き残った会員企業が数多く存在する一方で、若年層を中心に転職も顕著に見られた」と振り返りました。その一方で、旅行業の持つ斡旋力やノウハウが評価され、ワクチン接種事業を多くの旅行会社が受託したり、オンラインツアーの収益化や英語教育特化型の保育園事業など、「新規ビジネスへの果敢な挑戦というプラスの成果も得られた」ことも強調しています。髙橋会長は、「今回のコロナ禍を通じて『旅行業は世の中に必要である。したがって、なんとか守らねばならない』というような社会的な空気やムーブメントは感じられただろうか」と問いかけ、「改めて、旅行業の存在価値を高め、それを広く世間に周知する努力が不足していたと実感させられる機会となった」と語りました。

 

 

前例にとらわれない協調と共創

 旅行業再生戦略会議では、「旅行業の存在意義の確立と周知」「『旅行ビジネスを極める』『新たなビジネス領域への進出』の両面における進化の追求」「前例にとらわれることのない協調と共創の実践」という3つの基本方針を打ち出しています。髙橋会長は、旅行会社が更なる深掘りによって高付加価値化を追求すると同時に、旅行業の知見やノウハウを活用したビジネスの横展開を図り、「この2つの軸で事業基盤を強化していく」ことの重要性を指摘。また、「前例にとらわれることのない協調と共創」については、「今回の提言のキモと言ってもいいと考えている」と強調しました。3つの基本方針に基づいて、旅行業再生戦略会議は「5つの提言とJATAとしての新たな対応策」と取りまとめており、髙橋会長は「会員各社が自社に置き換えて検討・実行することが重要」と呼びかけ、「各社による取り組みの総和が旅行業再生につながると確信している」と訴えています。一つ目の提言である「業界のブランディング/広報の強化」について、髙橋会長は「単純な観光旅行にとどまらない高い付加価値を生み出し、新たな市場と顧客を生み出すことを意味する『旅づくりを極める』ことこそ、リアルエージェントの存在意義・存在価値そのものに関わるテーマだ」と説明。「持続可能な社会の実現に向けた取り組みは不可欠な要素であると同時に、こうした取り組みを通じて旅行業の存在意義を社会にアピールしていく必要がある」という考え方を示しました。JATAでは、SDGs表彰制度の新設や様々な組織と連携したサステナブルツーリズムの浸透など、あらゆる対応策を検討していく方針です。

 

着地目線と価値競争の旅行業へ

 髙橋会長は、二つ目の提言である「協調/共創」について、「各社間での競合による“個社最適”から協調と共創による“全体最適”への意識転換」を促すものであり、非競争分野においては情報共有や相互連携相互連携といった「協力し合う関係性の構築が必要だ」と説明。「例えば、業務用の宿泊情報システムなどの差別化につながらないシステムを大胆に共有化することで管理コストを大幅に圧縮し、限られた経営資源を価値創出に集中させるべき」と指摘しています。また、「着地目線での旅行ビジネス展開」や「価格競争から価値競争へ」という提言内容については、「これまで発地一辺倒の営業が行われてきたが、今後は各地域と一体となって地域にある様々な魅力を掘り起こし、磨き上げ、地域ならではの価値を持つ商品としてマーケットに提供していくことが、目指すべき連携の姿」と説明しました。三つ目の提言である「デジタル原則」は、ツーリズムにおけるデジタル基盤構築と環境整備が時代の要請であることから、全国で進められているコンテンツの磨き上げや付加価値の高いプログラムの開発を広く国内外に周知して流通させる体制を実現していくため、JATAとしては「国とも連携して観光業界全体でのデジタル環境を整備し、観光DXを積極的に推進していく」考えです。

 

 

持続可能な産業に重要な「人財」

 髙橋会長は、四つ目の提言である「人財確保/人財育成/人財活用」について、「旅行業を持続可能な産業とするためには最も重要なテーマ」と位置づけ、JATAによる新たな対応策の一例として、「次世代を担うリーダーへ向けた研修の新設」「広い意味でOBOGに経験・知見を発揮してもらうホームエージェント型旅行業者代理業者の導入」などを検討する方針を明らかにしました。五つ目の提言である「レジリエンス」は、“大災害発生からの復元力”であり、髙橋会長は「今回のパンデミックの経験を未来への備えとする必要がある」と強調。「観光地災害情報の共有システム」については、災害時に被災地では復興に全力を注ぐ必要がある中で、「アナログが主流の観光産業にあっては、交通情報や宿泊施設等の営業状況の確認を各社が個別にファクスや電話で行っているため、この応対作業に忙殺される現地側は復旧・復興に手が回らなくなる」実態を改善することが急務となっています。災害発生時における訪日外国人旅行者へのタイムリーな情報提供も解決を迫られている課題であり、髙橋会長は「政府とも連携して取り組んでいきたい」と語りました。さらに、「公的支援の実現」についても「今回のコロナ禍で有事の際の事業存続の生命線であると思い知らされた」ことから、「今後も関係機関との連携強化に向けて会員各位のお力添えをお願いしたい」と呼びかけています。髙橋会長は、世界経済フォーラム(WEF)が今年5月に発表した2021年の旅行・観光競争力ランキングで日本が初めて“世界ナンバーワン”となったことに触れて、「観光資源の豊富さや交通・宿泊など観光インフラの利便性などが評価されており、日本には圧倒的な1位を継続する力がある」と指摘。「日本の将来を担う観光産業にあって、その“エンジン役”である旅行業を日本で最も魅力溢れる産業へ育てていこうではありませんか」と訴えました。

髙橋会長による提言発表動画はこちらからご視聴いただけます。
※著作権の都合上、動画の公開期間は2023年5月末までとなります。