会報誌「じゃたこみ」 【消費者相談室】苦情事例に学ぶ(87)
定宿がコロナ療養施設に指定された

更新日:2023年12月22日


苦情事例に学ぶ(87)

監修 弁護士 三浦雅生

 

今回のテーマ:定宿がコロナ療養施設に指定された
 新型コロナウイルスの蔓延の影響で、旅行申込後、突然予約していた内容が変更されてしまうことが頻繁に起きています。今回は国内パッケージツアー(募集型企画旅行商品)の相談案件から契約内容の変更と旅行者の解除権とについて取り上げます

 

 
申し出内容は以下の通りです
 今年の3月末に新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置が解除されたのを受け、4月中旬に本社のある東京行き出張を計画しました。旅行会社の出張パックの中から定宿にしているビジネスホテルを第一希望に選びました。このホテルは都内移動時に交通の便が良いという理由で、上京毎に利用しています。旅行代金を支払った後に確定書面が届き、希望通りの定宿も取れてることも確認できました。ところが後日、旅行会社から予約をしていたホテルがコロナの療養施設になったので変更してもらいたい旨の連絡が入りました。代案としてそのホテルから徒歩10分の距離にはなるが、クラスが1つ上のホテルを案内されましたが全く納得ができません。出張中の予定に影響が出てしまいます。こんなことって本当にあるんですか?

 

解決に向けての指針
 このケースは、旅行会社が相談者のご希望されたホテルを手配ミスしたわけではなく、募集型企画旅行約款(以下募約款)第13条にある「その他の当社の関与しえない事由が生じた場合」で、契約内容の変更を余儀なくさせられたケースと考えられます。このことを受け、旅行会社は相談者にホテルの変更を伝えたのではないでしょうか。
 ここで言う「その他の当社の関与しえない事由」は、宿泊予定していたビジネスホテルが東京都の要請を受けて、急遽宿泊療養施設に指定され全館貸切になり、全ての宿泊者がホテル自体に泊まれなくなってしまったことです。この対応は都道府県知事が、「当該都道府県知事が管轄する区域内における新型インフルエンザ等感染症の患者の病状、数その他当該感染症の発生及びまん延の状況を勘案して、必要な宿泊施設の確保に努めなければならない」という感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律の第44条の3第7項に基づいたものです。この措置を受けて、ホテル側は既に予約を受けていたお客さまに代替ホテルを用意し、旅行会社を通してその旨を案内していたようです。この措置に強制力があるのかという問題はありますが、ホテル側が応じてしまった以上は、旅行会社として「関与しえない事由」になるものです。
 この旨を案内した上で、相談者がこれらの提案にご納得頂けなければ、旅行会社は相談者へ「契約書面に記載した宿泊機関の種類又は名称の変更」が生じているケースに当てはまることを説明した上で、募約款第16条で定められている「旅行者の解除権」をお知らせして、旅行開始前に取消料を支払うことなく募集型企画旅行契約を解除できることを新たに伝えるべきです。
担当:佐藤 信吾