会報誌「じゃたこみ」 【新年特集】髙橋会長2025年 新春インタビュー

更新日:2025年01月24日


双方向交流拡大で、ツーリズム完全復活の年に

              髙橋広行JATA会長

訪日旅行客の急増に沸いた2024年。国内旅行も2019年と同レベルにまで回復しましたが、対照的に海外旅行は緩やかな伸びに留まりました。迎えた2025年、いよいよ4月に「大阪・関西万博」が開幕、「ツーリズムEXPOジャパン2025」が初めて愛知県を舞台にするなど旅行業界にとってはビジネスに弾みをつけるイベントが開催されます。2024年を振り返ると共に2025年の展望、観光業界の課題、JATAの取組みなどについて髙橋会長にお話しを伺いました。

 

(2024年12月18日:JATA応接室にて(談))

 

若者の海外旅行離れは国際競争力に関わる問題

— まず、2024年の旅行業界を回顧するとともに、特に海外旅行について今後をどう見通しているかお聞かせください。

「2025年は特に若者の海外渡航促進を講じる」

2024年を振り返りますと旅行マーケットが大きく飛躍した1年となりました。訪日外国人旅行者数が過去最高だった2019年を大きく上回る水準で推移し、国内旅行も2019年と同レベルまで回復しました。しかしながら、海外旅行については2019年比で7割弱に留まっており、2025年は2019年の2000万人レベルに戻すべく、JATAとしても最大限の力を注いでまいります。

海外旅行の伸び悩みの背景には円安と旅行費用の高騰がありますが、3年間のコロナ禍での空白に伴い、旅行意欲が非常に衰えているというマインドの問題も大きいと考えています。また、現在日本人のパスポート保有率は17% (2023年) で、コロナ禍前の23%からさらに低下している状況です。
韓国40%、台湾60%、アメリカ50%と比べても非常に低く、強い危機感を持っています。あわせて、若者の海外旅行離れは将来日本の国際競争力にも影響すると懸念しています。

 

国際交流は国と国との互恵関係がベースとなりますので、現在のインバウントとアウトバウンドのバランスを著しく欠いた状況は早急に是正する必要があります。政府は訪日インバウンド目標として2030年に6000万人を掲げていますが、この実現には国際航空便の維持・拡大が不可欠であり、そのためにもアウトバウンドの回復は必須であると考えています。各国からも日本のアウトバウンドの早期回復を期待する声が強く寄せられています。

これまでも関係団体・政府観光局などにご協力いただき、2023年にパスポート取得キャンペーンを実施いたしましたが、2025年は、特に若者の海外渡航を促進する取組みとして、「今こそ海外」キャンペーンの第2弾を実施し、パスポート取得費用の支援などを含む様々な対策を講じてまいります。

政府への働きかけも行っております。昨年ANTA (全国旅行業協会) と共に政府与党の「予算・税制等に関する政策懇談会」において要望書を提出しました。「初めて海外渡航する若者へのパスポート無償配布などパスポート取得向上への抜本的支援」「海外の政府観光局とも連動したSNSを活用したPR」「修学旅行代金の上限の見直し支援」「地方空港復便のためのチャーター便支援、燃油サーチャージ補助」「双方向交流のための予算活用や国際観光旅客税の使途の拡大」などをお願いしています。

また、各国政府観光局と連携した二国間交流の促進、高付加価値商品造成のための会員への情報提供、日韓国交正常化60周年、日本・サウジアラビア王国外交関係樹立70周年といった周年をフックとした施策なども強力に進めていきます。


官民連携でオーバーツーリズム解消、旅行需要平準化を促進

— 訪日インバウンド、国内旅行の課題解決については、JATAとしてどのように考え、取り組んでいきますか。

訪日旅行については、急激な回復に伴い、一部地域でオーバーツーリズムが課題となっています。ゴールデンルートに一極集中し、東京、京都、大阪の宿泊者数は既に日本人と外国人の比率が半々となっている一方で、依然として外国人比率が数%程度にとどまっている地方都市が少なくありません。今後訪日インバウンド客が更に増えるなかで地域への誘客、分散が必須です。そのためには、観光資源の発掘や磨き上げ、ゴールデンルート以外の新たなルート開発、高付加価値旅行の提供など官民が連携して取り組まなければなりません。

また、観光DXへの取組みも重要となります。今やスマホ1つで交通・入場・体験などを検索し、予約決済まで簡潔に行うことが求められており、実際に、観光型MaaSや観光DXが導入された地域には国内外から多くの旅行客が訪れています。
需要急増とともに、観光産業全体で喫緊の課題になっている人手不足についても、観光DXによる新たなシステムやAIの活用などで生産性を高めるとともに、地域の魅力を国内外に発信して新たな人流づくりを行う必要があります。

国内旅行については、コロナ禍以前の水準まで回復してきてはいますが、今後いかに拡大するかが課題です。現在、日本人一人当たりの宿泊を伴う観光旅行は年1.4回、宿泊日数は2.3泊で、この傾向は十数年ずっと変化がなく、頭打ち状態です。その背景には、旅行需要が土日の週末や連休や年末年始などの特定の休日に集中していることが原因です。人口減少が進むなかでマーケットが縮小していくことが明らかですので、旅行の平準化と平日の旅行需要喚起を行っていかなければなりません。

こうした状況を大きく変えることができるのは愛知県を皮切りに全国知事会で進めている「ラーケーション」であります。この取組みが進むと、平日の旅行需要が増え、現在国内旅行の消費額は22兆円程度と言われておりますが、マーケット全体を大きく押し上げる効果が期待できます。これまで集中していた旅行需要の分散と平準化が図られ、オーバーツーリズムの緩和も期待できます。また、旅行者は平日により安く混雑を避けて旅行することもできるようになります。また、平日需要の増加は新たな雇用創出とその安定化にも繋がります。JATAとしても関係団体や地域と連携しながら、この取組みを推進してまいります。


新しい旅のカタチ、観光レジリエンス、観光DXを推進する

— 持続可能なツーリズムへの取り組みは世界的にも必須となっています。JATAとしてどのように推進していくかお聞かせください。

「新しい旅の形、観光レジリエンス、観光DX促進を」

持続可能な観光、サステナブルツーリズムにつきましても、非常に重要な課題です。旅行業界としても世界的潮流であるSDGsへの取組み、そして、サステナブルツーリズムへの取組みは欠かせません。大きく3つの観点で進めたいと考えています。
1つ目は「新しい旅のカタチ」の提供です。例えば、脱炭素につながるSAFなどを利用した航空機の利用もそうですし、排気ガス削減につながる電気自動車のような移動手段を組み入れることや、カーボンオフセットの商品などへの取組みがあげられます。また、「アドベンチャートラベル」への取組みも新たな旅のカタチとして成長させていきたいと思います。
2つ目は「観光DX」です。日本の人口減少がさらに進むなかで、特に地域の観光業界においては人手不足がより深刻化すると考えられます。いままで人手をかけて行ってきた部分をDX化により効率化を図るとともに、デジタルの力を活用して、地域の魅力を国内外に発信し、新たな人流づくりを行う必要があります。世界に通用するツーリズムを確立するためには観光DXが急務であり、JATAとしても国や地域と連携して取組みを進めたいと思います。

3つ目は「観光レジリエンス」の向上です。世界的に見ても気候変動や自然災害、そして感染症などが観光に及ぼす影響は大きく、また今後も継続的に発生すると考えなければなりません。
昨年11月に仙台で開催され、世界中から閣僚級が集まった会議「観光レジリエンスサミット」に参加してまいりましたが、観光分野の脆弱性が顕在化するなかで、その予防や影響をいかに最小化するかが求められています。
これについては、旅行業界のみならず観光業界が一体となって平時から準備を進めておくことが必要です。災害が発生した場合、被災地の正確な状況と情報を一元化して発信することが可能なJATAで構築した「観光産業共通プラットフォーム」の活用など更なる備えが必要だと考えています。

また、持続可能な観光への取組みとして欠かせない要素であるSDGsについても引き続き推進してまいります。「SDGsアワード」は今年第3回となりますが、会員各社の好事例の表彰や事例の共有化を行いながら取組みを深めてまいります。


今年は、「大阪・関西万博」と「ツーリズムEXPOジャパン2025 愛知・中部北陸」
2つの大型イベントが開催

— いよいよ4月に「大阪・関西万博」、9月には「ツーリズムEXPOジャパン2025 愛知・中部北陸」が開催されますが取組みを含めて期待などをお聞かせください。

2025年は旅行業界にとって大きなチャンスである2つの大型イベントが開催されます。まず、約2820万人の来場が予想され、そのうち約350万人が訪日インバウンドと見込まれる「大阪・関西万博」のキーワードは「万博+観光」。特に訪日インバウンドに対しては、万博を訪れる前後に日本各地に足を運んでいただけるよう取組みを進めてまいります。万博には約160カ国・地域が出展されるため、日本人来場者が海外の魅力を再発見、再認識し、海外旅行復活のきっかけになることも期待しています。

もうひとつの「ツーリズムEXPOジャパン2025 愛知・中部北陸」は愛知県で初開催となります。この地で開催する意義は、中部・北陸の魅力発信、中部セントレア空港のさらなる国際化、観光を通じた被災地域に対する息の長い支援です。
能登半島地域の本格回復は2026年とも予測されており、震災の記憶を風化させないためにも、今年開催することは大きな意味があると考えています。


すべての取り組みの基盤はコンプライアンス

— 最後に、JATA会員に向けてメッセージをお願いします。

3点あります。
先ずは何と言っても「アウトバウンドの完全復活」が最大の課題です。今年度はやれることは全てやり切るというスタンスで臨みたいと考えております。
2点目は「競争と協調」です。会員各社がそれぞれ公明正大に競い合って切磋琢磨していく一方で、協調すべきところはお互いに協調し合って、この業界が抱える人手不足や生産性向上などの課題解決を図ってまいりたいと考えております。現在、観光産業共通プラットフォームやJATAビジネスマッチングなどの取組みを進めておりますが、さらに知恵を出し合って商品やサービスにおける共同販売なども視野に入れて取組みを加速してまいります。
そして3点目は、「コンプライアンス」です。全ての企業活動のベースは「コンプライアンス」ですので、2025年も業界としての再発防止など取組みを継続します。

本年は旅行マーケットの拡大に向けて非常に重要な年であり大きなチャンスの年であります。この機を業界としてしっかりと捉え、国内旅行、海外旅行、訪日インバウンド三位一体でのバランスのとれたツーリズムの実現を目指してまいりますので、会員の皆様のご理解とご協力を何卒宜しくお願いいたします。共に旅行業の新たな未来を築いてまいりましょう。

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