会報誌「じゃたこみ」 【法務の窓口】
第109回 未成年者の旅行申し込みにはなぜ親権者の同意書が必要なのか?

更新日:2026年03月26日


法務・弁済部
(監修 弁護士 三浦雅生)

 みなさんは未成年者から旅行の申し込みを受ける際、会社から「親権者の同意書をもらうように」と指導されているかと思います。しかし、なぜ同意書が必要なのか、その理由を深く考えたことはありますか?
 誤解されがちですが、親権者の同意がない未成年者の申し込みであっても、旅行契約自体が成立しない訳ではありません。ただし、法律は判断能力が未熟な未成年者を保護するため、親権者の同意なしに行われた契約(法律行為)を、後から親権者や本人が取り消すことを認めています(民法第5条2項・第120条)ので、実務上はリスク回避のために一律に同意書を取りつけることが望ましいとされています。

「未成年者の法律行為」に関するリスク
 では、法律の基本ルールを確認してみましょう。標準旅行業約款には、未成年者の申し込みに関する直接の規定はありません。 約款に定めのない事項については「法令又は一般に確立された慣習による」とされているため、民法の規定が適用されます(募集型企画旅行の部 第1条1項)。その民法では「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない」(民法第5条1項)と定められています。この同意がないまま契約すると、後から一方的に「取り消し」をされるリスクが生じます。もし、この取消権が行使されると、契約は最初からなかったことになり、取消料が一切収受できなくなるだけでなく、旅行代金も全額返金しなければなりません 。
 つまり、親権者の同意が得られていることを証明する「同意書」がない契約は、会社にとって非常に不安定な状態なのです 。万が一の際、会社側が取消料の正当性を主張するためには、同意があった証拠として同意書を取りつけておくことが不可欠です 。

 なお、民法には「目的を定めて処分を許した財産」であれば、未成年者が自由に処分できるという規定もあります(民法第5条3項)。しかし、その財産が旅行に行くことを目的として未成年者に処分を許されたものであるかどうかについて旅行業者が知ることは事実上不可能と思われます。また、目的を定めないで処分を許した財産は自由に処分することが出来ますが、これはお小遣い程度の金額とされていますので、旅行代金がこれに該当するかは疑問です。
 以上のことから、未成年者からの申し込みに当たっては一律に同意書をとるのが「実務上望ましい」ということになります。

 「親権者一方のみだけの同意」では不十分な場合も
 また、意外と見落としがちなのが、「誰の同意をもらうか」という点です。 例えば、母親の同意書だけで進めた後、父親から「自分は聞いていない、全額返金しろ」と迫られるケースがあります。 法律上、親権は父母が共同で行うのが原則(※)です。 親権者の一方の同意しかない場合、最悪のケースでは同意が無効と判断され、取消料が取れなくなる恐れがあります。 後のトラブルを未然に防ぐためにも、親権者全員(父母など)の意思が確認できる形式で同意書を取り付けておくことが、最も現実的で安心な方法といえます。

※父母の離婚後は、子の親権はいずれか一方の単独親権になるとされていましたが、2024年(令和6年)5月に成立した民法等改正法(2026年(令和8年)4月1日施行)により、改正後は離婚後の父母双方を親権者(共同親権)とすることも、その一方のみを親権者(単独親権)とすることもできるようになります。 

担当 法務・弁済部 京近秀典