会報誌「じゃたこみ」 【消費者相談室】苦情事例に学ぶ(88)
対応に苦慮するお客様について

更新日:2023年12月22日


監修 弁護士 三浦雅生

対応に苦慮するお客様について

 

 先日、観光庁から2023年も観光需要喚起策が実施されることが発表され、2023年の国内旅行はコロナ禍前の水準に近づくことが期待されます。その一方で、残念ながら対応に苦慮するお客様も増えてきております。今回は、関連する事例をご紹介いたします。

 

◆申し出内容 「業務上の都合?」

 今までA社を年に4回程度利用しており、楽しく旅行(募集型企画旅行)に参加していた。しかし先日、新たな旅行を申し込もうとしたら「“業務上の都合”で契約をお断りする」と言われてしまった。A社に理由を聞いても教えてくれません。これは人権侵害ではないでしょうか?

 

◆解決に向けての指針 「契約成立前と契約成立後の違い」

 契約が成立していない時点では、「業務上の都合があるとき」をもって、旅行会社がお客様の申込みを拒否することが可能です(募集型企画旅行約款第7条第8号)。営業の自由が認められていること(契約自由の原則)を理由に申込みを断ることは認められており、「業務上の都合」の具体的理由まで説明する義務はありません(募集型企画旅行として広く参加者を募っておりますので、理由の開示は不要ですが、断るにはそれなりの理由は必要です)。 従いまして、A社が不適切な対応をしていたという訳ではありません。このケースでは、A社にヒアリングしたところ、当該お客様は旅行の申込みのたびに不当な要求や電話での脅迫じみた言動があり、対応に苦慮していたので、新規の契約をお断りすることにしたとのことでした。

 一方で旅行契約が成立していた場合には対応方法を慎重に検討する必要があります。約款では旅行契約が成立してもお客様に理由を説明して、旅行開始前に企画旅行契約を解除できる事由が定められています(募集型企画旅行約款第17条第1項各号)。即ち、旅行契約締結後に「契約内容に関し合理的な範囲を超える負担を求めた」場合には、同条第4号に則り、旅行開始前の解除をすることは可能です。しかしながら、同条には「当社の業務上の都合があるとき」という項目は無いので、しかるべき理由と共に契約を解除する旨をお伝えする必要があります。

 

◆トラブル防止に向けて 「書面を発送」

 今回のケースのように、消費者が「自分は間違っていない」と思い込んでいる場合には、「“業務上の都合”で契約をお断りする」旨を告げられても納得されず苦情が大きくなり、対応に時間と労力がかかる懸念があります。トラブルの未然防止のために、会社として受付をお断りすることを決定した時点で、その旨を書面で消費者にお伝えするようにしてください。書面にはしかるべき理由と共に「今後のお取引は一切ご遠慮申し上げる」旨を明記し、「手違いにより一旦受付してしまった場合には事務上のミスによるもので、民法上の錯誤を理由に取消とする」「同行者としての参加もお断りする」旨も記載すると、後々のトラブルの未然防止につながります。

担当:島田 延治

カスタマーハラスメントについて
 2022年2月に厚生労働省が公表した「カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル」ではカスタマーハラスメントを「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義しております。もちろん、顧客等からのクレーム・言動について、それ自体が問題という訳ではなく、業務改善や新たな商品・サービス開発につながるものでもあるという点には留意が必要です。今後は旅行会社も、それぞれの業務特性に応じてカスハラ対処法を講じる必要があるかもしれません。