会報誌「じゃたこみ」 【法務の窓口】第91回 ハラスメント通報窓口と内部公益通報窓口との兼務

更新日:2023年12月22日


法務・コンプライアンス室
(監修 弁護士 三浦雅生)

             

パワハラ防止法(労働施策総合推進法)が改正され、昨年4月からは中小企業を含めた全事業者に対してパワハラ防止措置が義務付けられています。

ハラスメント通報窓口の設置を
 パワーハラスメントとは、ⅰ)優越的な関係を背景とした言動であって、ⅱ)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、ⅲ)労働者の就業環境が害されるもので、これら3つの要素を全て満たすものです。事業者は、パワハラ防止のための雇用管理上の措置を講ずる義務があります(第30条の2第1項)。また、厚生労働大臣は指針を定めており(同条第3項)、その内容は、①事業主の方針の明確化、②相談体制の整備、③事後の適切な対応、④プライバシー保護や相談を理由とした不利益な取扱いの禁止などで、概ね、会社トップ自らがパワハラを禁ずる方針を明確化して相談窓口を設置し、受けた相談の事実関係を確認して被害者と行為者に対する措置を適正に行うこと、その際プライバシーに配慮して相談しても不利益はない等を社内周知することを求めています。
 セクシャルハラスメントについては、男女雇用機会均等法において、事業主には雇用管理上必要な措置を義務付け(同法第11条第1項)、厚生労働大臣は指針を定め(同第4項)、その内容は前述の①から④までの内容と同様で、②の相談体制の整備も同じです。
 カスタマーハラスメント(顧客等からの著しい迷惑行為)に関しても、昨年2月、厚生労働省から「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」が発行されており、「従業員(被害者)のための相談対応体制の整備」として相談窓口の設置を推奨しています(同22頁)。

 

公益通報窓口の設置も必要
 一方、公益通報者保護法では、社内で不正を通報しても通報者の解雇を無効とするなどの通報者を保護することが定められていますが、同法も、事業者に対して公益通報対応業務従事者を定めて内部通報に適切に対応するための体制整備等(窓口設置、調査、是正措置等)を義務付け、また消費者庁長官は指針を定めて公表しています(従業員数300名以下は努力義務、同法第11条)。

 

兼務は実務に合わせて

担当:法務・コンプライアンス室 堀江 眞一

 そこで、いっそのこと相談や通報を一元的に受ける窓口を設置してしまえ、と考えることも可能です。しかし、単に窓口を設置するだけでは不充分です。やはり、カスハラは苦情対応部署の長がまず窓口担当者となる、公益通報やパワハラ・セクハラには就業規則など社内規程であらかじめ定めて社内で周知した公益通報対応業務従事者・顧問弁護士が窓口となるなど、組織や業務実態に合わせた実効性のある窓口とすることが必要です。また、窓口には守秘義務もあります。とりわけ、公益通報対応業務従事者は、(辞めても期限なく)公益通報者を特定させる事項を正当な理由なく漏らしてはならず(第12条)、漏らせば罰金が科せられる(第21条)など刑事罰を受けることにもなりその責任は重大です。
 窓口の兼務は可能ですが、実効性のある窓口とする必要があります。

 



(参考)

【厚生労働省】
 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html

【消費者庁】
 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/