会報誌「じゃたこみ」 【法務の窓口】第96回 宿泊拒否と旅行契約

更新日:2024年01月31日


法務・コンプライアンス室
(監修 弁護士 三浦雅生)

                

 2023年12月13日に改正旅館業法が施行され、宿泊施設にとって過重な負担となり、他の宿泊者に対する宿泊サービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求を繰り返す「特定要求行為」を行う迷惑客の宿泊を拒むことができるようになりました(法第5条3項)。
 具体的には、宿泊料金の不当な割引や部屋の不当なアップグレード、従業員に対する土下座での謝罪の要求を繰り返す行為等が、この「特定要求行為」に該当します。
(特定要求行為の具体例)

障害者差別解消法との関係
 旅館業法が改正されても、宿泊者が障害者であることを理由に宿泊を拒むことは、もちろんできませんので誤解のないようにしてください。
 例えば、「車椅子で通れるように室内のベッドを移動して欲しい」という依頼や、「フロントなどで筆談でのコミュニケーションを求める」等の、「社会的障壁を除去する」ための要求は「特定要求行為」とはなりません。宿泊施設にとって「過重な負担」でない限り、障害を理由に宿泊を拒否すると旅館業法のみならず障害者差別解消法にも抵触することになります。

旅行者への丁寧な説明を
 もしも、貴社のお客様(つまり、国内旅行の契約を締結した「旅行者」)が宿泊拒否にあってしまったら、そのときには漫然と「宿泊拒否されたので手配できませんでした・・」と回答するのではなく、宿泊施設から宿泊を拒否する理由を聞いた上で旅行者に丁寧に説明することが求められます。旅行業者としては、宿泊施設に宿泊を強制することはできないものの、宿泊施設の判断が適法であることの確認は必要だと思われます。

旅行契約上の責任は
 手配旅行契約の場合には、結果として宿泊の手配をすることが出来なくても、旅行業者が善管注意義務を果たしていれば旅行業者の債務不履行にはなりませんので、そのまま旅行契約は終了します(手配約款第3条)。
 一方で、募集型企画旅行の場合は、旅程管理業務を行わない契約になっている場合を除き、代替となる宿泊施設の手配を検討する(募集型約款第13条、第23条)ことになりますが、旅行当日に拒否された場合など、新たな宿泊施設が手配できない場合は、事実上、これ以上の旅行の実施が不可能であると判断して旅行契約を解除することになります(同第第18条1項4号)。
 この際、旅行者は宿無しになってしまいますので旅行業者による帰路手配が必要になってきますが、その費用は旅行者負担とすることができます(同第20条)。
 また、この場合は旅行業者からの解除権行使となるので旅行代金の精算が必要となります(同第18条2項、3項)が、そうはいっても、契約解除の時点で旅行者がまだ提供を受けていない旅行サービスに係る金額から、取消料、違約料その他の費用を差し引いたら、旅行者に返金する分は、もうさほど残っていないかも知れません。
 斯様に、旅行契約においても、旅行者にとって「特定要求行為」の代償は大きいものとなります。

 以上、宿泊拒否と旅行業約款との関係として考えてみましたが、実際にはこのようなトラブルが発生することは稀でしょう。カスタマーハラスメントと障害は別のものという当然の事理を押さえておけば良いものと思われます。(中島)

担当 法務・コンプライアンス室 中島 一則