第2回 JATAエコツーリズム調査報告
「中高年の旅行市場とエコツアー」
調査結果の分析とまとめ

更新日:2022年03月22日


本調査では「エコツーリズムとは自然観察を中心として、その土地に存在する生態系(エコロジー)を守り、そのインパクト(悪影響)を最少にしようとする実践活動である」のコンセプトの下、その旅行商品化したものがエコツアーであるとの基本認識で実施された。

<総論>

「自然に親しむ旅行」は中高年旅行市場の共通指向。

日本の観光旅行は、四季の移り変わりを観賞し、温泉旅行など自然の中に癒しを求めることを目的として、伝統的に広く大衆に親しまれてきた。本調査での設問中で取り上げた「自然にひたり、その美しさを愛でる旅行」、「自然に囲まれた旅館やホテルにゆったり滞在する旅行」はそうした伝統的な旅を意図して表現したものだが、いずれも自然をフィールドにあるいは背景に求め、その恩恵を基盤に成立している旅である。

本調査では、総サンプルの90%以上が自然の恩恵を受けた旅に親しんでいる事実が確認された。「自然に親しむ旅行」は現在も将来に向けても中高年旅行市場のゆるぎない共通指向である。

中高年旅行市場では既にエコツーリズムを受け入れる基盤が成立。

自然の恩恵は自然破壊の上では得られない。本調査によって、自然保護・保全の概念は中高年旅行者の間には広く浸透しており、大衆的に確立した常識であることが明らかにされた。自然の保護・保全には、自然を侵略する立場にある旅行者に自律的な行動の自制が伴わなければならないが、「動植物の採捕自制」、「立ち入り制限」及び「ゴミの持ち帰り」等の保護・保全のための基本行動に関しても極めて高い自律意識が確認された。規制をツアー参加者に強いることはできないとする旅行企画者・運行者の危惧は払拭されなければならない。基本的に中高年旅行市場にエコツーリズムが受け入れられる基盤は既に成立している。エコツーリズムはマーケットが非常に限定されているとの考えは改められなければならない。

生態系への理解は生態系を学ぶことことに始まる。中高年は学ぶことが楽しいセグメント。

自然の保護・保全は正しい生態系への理解に始まらなければならない。正しい生態系への理解はツアーにおけるガイドの役割が極めて重要となるが、中高年旅行者は大半がガイドの同行を望んでおり、生態系を学ぶことに旅の楽しさを認識している。「解説ガイドのつくツアーは高くなる」と敬遠する傾向は見られない。「知識が増えることが旅行の最大の楽しさ」とする回答者も多い一面、「自然に親しむ旅行を望むが適当なツアーがない」と指摘する回答者が多く、これまでの物見遊山のツアーから、知識欲を満足させる旅行内容の実現に向けガイドの養成、ガイダンスの充実と合わせ、旅行企画者の努力が望まれる。

「自然に親しむ旅行」に「適当なツアーがない」。

「自然に親しむ旅行」へ参加できない阻害要件は、その回答の多さから順に「時間がない」、「体力的に自信がない」、「適当なツアーがない」「経済的余裕がない」そして「家を離れられない」などが挙げられたが、前述のごとく、旅行業界として「適当なツアーがない」との回答が多いことは、中高年市場の旅行指向は「自然に親しむ」事であるが確認される以上、厳粛に受けとめられなければならない。「時間がない」事を阻害要因に挙げたサンプルは45~54才代が最も多く回答者の50%を超えたが、65才以上にいたっては20%以下となっている。逆に「体力的に自信がない」ないとの回答は65才以上が20%近いのに対して、45~54才代は10%を下回っている。伝統的な「自然に親しみ癒しを求めるツアー」をエコツアー市場に誘導するには、中高年市場をひと括りに捉えず、年代別に体力に合わせたきめ細かな旅行企画が望まれる。

一日4時間・10キロメートル程度の徒歩。

「自然に親しむ旅行」は手付かずの自然に近づこうとすればするほど、動力機関の運送機関を廃せなければならない性格を帯び、旅行者各自の体力が求められる事となる。本調査では、概して一日4時間・10キロメートル程度の平坦地での徒歩は大きな抵抗なく受け入れられることが明らかにされた。徒歩の求められる距離や地形を明記し、午前と午後に分割する、あるいは荷物を運ぶ第三者の援助を設定する、などが考慮されればその愛好者は飛躍的に増加することが予想される。

55~64才の年令層が中高年エコツアーのコアセグメント。

年代別に照準を合わせて分析すると、55~64才代の旅行市場が現実的に最もエコツアーに親しみやすい状況が観察される。「自然の成り立ちや動植物の生態に理解を深めながら自然に親しむ旅行」及び「特定の動植物の観察を目的とした旅行」と言った、既にエコツアーの範疇に入る旅行への関心が最も高く、「時間的余裕がない」「経済的余裕がない」「家を離れられない事情」も急減し、体力的衰えも余り自覚されていない。併せて「ガイドの同行」希望、生態系への知識欲は最も高い。

同好者の組織化とその拡大。

中高年市場は、自然観賞の旅、自然の中での癒しの旅、歴史・文化・遺跡を訪ね学ぶ旅を求めており、その旅の中に地方の特色、人々の暮らしや独特の食の楽しみに接したいと望んでいる。同行者は基本的に配偶者を望んでいるが、趣味や特殊な関心を目的とする旅行では友人・知人を良しとしており、夫婦単位での参加を前提として旅行企画がなされ、また同じ趣味を分かつ同好会らしき集団の形成による旅行企画が歓迎される。世代を超えた家族旅行にエコツアーが選択される状況は、未だ市場では見られないと言えよう。

エコツアーは連泊国内旅行、長めの海外旅行促進の旗手。

旅行期間は国内でも連泊指向の強さが観察される。ただし「浜辺や高原など自然に囲まれてのんびり過ごす旅行」でも3日間前後が主流で、一泊からようやく二泊への傾向に移行したという状況であろうか。「自然に浸り、動植物の観察やそれらの生態環境に接し親しむ旅行」は最も長期の旅行傾向が観察され、エコツアーは国内旅行の旅行期間延長の動きをリードすることが期待される。海外旅行においても10日間程度の旅行希望が普及の傾向にあることが観察される。特に自然、文化、歴史、生態系、その土地の生活に触れる旅などエコツアーに包含される旅行はやや長期の旅行期間を望む割合が多く、じっくりと時間をかける必要があると認識されている。

エコツアー普及促進活動と旅行会社の商品化が必要。

中高年市場では、顧客の会員組織化が情報の伝達に有効に作用している。モチベーション作りにおいても、現実的な旅行商品情報の伝達においても、極めて有効に会員誌が機能している。会員誌に続き、一般メガ媒体がモチベーション形成には大きく作用していることが認められる。また、消費者はまず旅行を実行する意識をもった後、適当と思われる情報源を選択して情報を吟味し、その上で具体的なモチベーションを起こすというプロセスを踏むことが観察される。エコツアーは未だ殆どの旅行商品が旅行会社のパンフレットとして具現化されておらず、一般メディアなどでの認知を高める強力な活動と並行して、旅行会社の積極的な対応・商品化が望まれる。具体的な旅行情報や商品情報は、旅行会社のチャンネルに依存する傾向が強く、急速に開花しつつあるエコツアー市場に対応して販売サイドの情報装備が早急に図られなければならない。

情報普及にインターネットを活用する。

インターネットは中高年市場でも普及傾向がはっきりと観察される。しかしながら、利用者は有職者に多い傾向が極めて強く、高年令層には未だ普及率が低い。本調査では「適当なツアーがない」事が明らかにされており、現地エコツアーオペレーターが「情報を取りに行く」積極的な市場を対象として、ホームページの開設・情報の提供を行うことは有効に市場に作用するものと思われる。ともあれ、効果あるメディアとして位置づけられる状況には達しており、時間の経過と共にその重要性が増すことが確実視される。