会報誌「じゃたこみ」 【懇談】「持続可能なツーリズム産業」に向けて
~ JATA髙橋会長とサービス連合櫻田会長がトップ懇談会を実施 〜

更新日:2025年02月27日


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2月13日(木)、JATA髙橋会長とサービス・ツーリズム産業労働組合連合会(以下サービス連合)櫻田あすか会長がトップ懇談を実施、「持続可能なツーリズム産業について」などのテーマについて意見交換を行いました。お互いに目指す観光業界の姿は同じであることを改めて認識し、「労使が力を合わせて『魅力溢れる産業』を創っていきましょう」と握手を交わしました。


【出席者】   髙橋 広行 一般社団法人 日本旅行業協会(JATA) 会長
                         櫻田 あすか サービス・ツーリズム産業労働組合連合会(サービス連合) 会長
【司    会】   石川 聡一郎 サービス・ツーリズム産業労働組合連合会(サービス連合) 事務局長
【懇談テーマ】    ① 交流の拡大について     ② 持続可能なツーリズム産業について


   髙橋 広行JATA会長 (画面:右) と櫻田 あすかサービス連合会長 (画面:左)

 

交流の拡大について

石川事務局長
— 髙橋会長、櫻田会長、本日はお忙しい中、トップ懇談会ということでお時間をいただきありがとうございます。両会長におかれましては、日頃より双方の活動にご理解とご協力を賜り御礼申し上げます。
我が国の人口減少、少子高齢化が進む中、観光を通じた国内外との交流人口の拡大の重要性に変わりはなく、観光が今後も大きな役割を果たしていくと思います。
本日は労使懇談会という堅苦しいものではなく、ツーリズム産業の持続可能な成長にむけて、忌憚なき意見を交わしていただければと思います。 政府は観光立国推進基本計画の中で、観光を通じた国内外との交流人口の拡大が重要であり、また、国際情勢の複雑化が顕著な今、双方向での人的国際交流は、その重要さを増している、としています。まずは交流の拡大についてお話をお伺いしていきます。
昨年の訪日外国人旅行者は過去最高の3,686万人を記録し、今年は大阪・関西万博などイベントも開催されます。一方、日本人の海外旅行は円安や旅行代金の高騰などもありコロナ前に比べ7割程度の回復状況と、双方向交流におけるアンバランスな状況が生じています。バランスのとれた双方向交流の拡大に向けてどのような取り組みが必要かお聞かせください。

            髙橋 広行JATA会長

髙橋会長
私たちは、国内旅行・海外旅行・訪日インバウンドの三位一体のバランスの取れたツーリズムの実現を通じて観光立国の実現に寄与することを目指しています。
国際交流は双方向のバランスが取れることで成り立つものであり、海外旅行の一刻も早い復活が急務です。理由は2つです。
1つは、国が目標としている2030年に訪日インバウンド6000万人を達成するためには、国際航空座席数がまだまだ不足しているという点です。言うまでもなく、国際航空路線はインバウンド、アウトバウンド双方から需要があってはじめて成り立ちます。片方からの需要だけでは航空会社は積極的な投資を続けることが困難です。また、主要空港だけではキャパシティ不足ですから、地方空港を積極的に活用することも不可欠です。国際航空路線拡大に向けたチャーター便の支援など、先を見据えた政策実現に向け、JATAも都度提言を行っています。
2つ目は、日本の国際競争力の維持・強化の観点です。最近徐々に回復しつつあるものの、コロナ以後、海外修学旅行や海外留学が減少した状態が続いています。その影響で、18歳~25歳の英語力が著しく低下しているという調査結果もあります。

将来国際舞台で活躍する人材を育成するには、やはり若いうちに海外での見聞を深める機会を国・自治体主導で支援することが必要だと考えます。
その対策の1つがパスポートの取得支援です。既に全国の自治体では独自の支援策が実施されていますが、特に若者については国が積極的に渡航環境を整備することが、将来的な国力をあげることにも繋がると確信しております。
また、訪日インバウンドは好調ですが、訪問する時期の偏りや大都市への集中など、オーバーツーリズムや地方に効果が波及していないことなど課題があります。課題解決のためには、地方における観光コンテンツの開発やデジタル化などの対応を進め、「地方分散」の流れをつくらなければなりません。

      櫻田 あすかサービス連合会長

櫻田会長
今後日本が観光先進国を推進していくためには、日本人の旅行機会を増やすことが必要です。髙橋会長がおっしゃる通り、我が国の国際競争力を高めるためにも、若者が海外での見聞を深める必要性があり、海外旅行は日本人の国際感覚の向上や国際相互理解の増進が期待できます。2023年に観光庁が行った「Z世代に対する海外旅行意識調査」では、海外旅行経験者の9割がすぐにでも海外旅行に行きたいと答えています。一方で海外旅行に行ったことがない人は、円安などを受けて躊躇することがあるかもしれません。そこは国が将来を担う若者が海外旅行に行くよう背中を押すべきです。パスポートの取得促進や安心して旅行が出来る地域を紹介するなど、工夫ができるのではないでしょうか。例えば、未成年のパスポートについては写真のみの更新を可能として10年パスポートの取得を可能とするか、未成年時の5年パスポートの更新については無償とするなどパスポート取得の後押しにつながる施策があれば、推進につながるのではないでしょうか。
また、若者に対する教育振興を目的とした旅行推進も必要です。学校現場においては、教育旅行が学びの場であることを改めて認識し、海外も含めた行き先での旅行体験を教育プログラムの一環として確立させる必要があるでしょう。


石川事務局長
—- 国内における交流、国内旅行については今後の可能性についてどう見ていますか?
近年では学び(ラーニング)と休暇(バケーション)を合わせた「ラーケーション」について導入する自治体が増えています。これらの動きは教育現場の変革や観光地域の発展も期待されています。

「休み方改革」の取り組みをと髙橋会長

髙橋会長
全国知事会が「休み方改革プロジェクトチーム」を発足させ、本格的に休日の分散化実現に向けた取り組みをスタートし、JATAでも重点事項として推進しています。
とはいえ、観光産業でもまだまだ知られていないことから、敢えて内容について言及します。まずは県民の日や県民ウィークの導入です。関東地方ではすでに導入されているところも多くあり、休暇の分散化に大きく寄与しています。続いてラーケーションです。これは公立の小中高の児童、生徒が家族とともに旅行などの社会体験を行う場合に、あらかじめ決められた日数内であれば学校を休んでも欠席とならないという画期的な制度です。
観光面での効果として、大きく4点あげられます。
1つ目は、間違いなく平日の旅行需要が増えることになり、国内旅行マーケット全体で数兆円単位の押し上げ効果が期待できます。2つ目として、旅行の時期と方面の分散化により、オーバーツーリズムの緩和に繋がります。3点目として、お客様はより安く、混雑を避け、より快適にご旅行いただけるようになります。
最後4点目は、特に地方における新たな雇用の創出や雇用の安定化が図れます。

以上のとおり、観光を活性化させるうえで極めて効果的な施策といえます。
すでに、いくつかの自治体で導入されていますが、これが全47都道府県で導入されれば、お互いに利益を享受できるようになり、より大きな効果を生み出すことができます。

「休暇取得の選択肢増を」と櫻田 会長

櫻田会長
現役世代が旅行をするためには、休暇を取得できるかどうか重要なポイントとなります。働くもの・事業主の双方が休暇を取得する意識を高めることが必要です。旅行需要は長期連休に集中しますが、近年ではワーケーションやブレジャーなどの新たな働き方・休み方が徐々に浸透しつつあります。仕事と余暇の時間があいまいになるなどの懸念はありますが、働き方・休み方のひとつとして休暇取得の選択肢を増やし、旅行の時期を分散させるために有効な手段といえます。
また、観光は地方創生に重要な役割を果たしますが、被災地の復興にも観光が貢献できることも多いと思います。2016年の熊本地震の時から観光地の風評被害対策として観光振興を図る復興割りが開始されました。能登半島地震においても、発災直後に「北陸応援割」が実施され、被災地の復興の後押しにつながっています。

 

持続可能なツーリズム産業について

石川事務局長
— これからの先を見据えて持続可能なツーリズム産業を目指すためにどうあるべきか、お伺いします。

                 「人材育成も重要」と髙橋、櫻田両会長

髙橋会長
持続可能なツーリズム産業を目指すためには、産業としての社会的有用性が不可欠であり、その点をどうやって高めていけるかが大変重要です。
持続可能な産業に向けて重要な着眼点がいくつかあります。
1つには、「サステナブルツーリズムの推進やSDGsへの貢献」です。脱炭素をはじめとした環境への配慮は、選ばれる企業であり続けるためにも不可欠な要素となりました。また、環境だけに限らず、地域の文化や経済の持続可能性も重要な視点です。
続いて、アドベンチャーツーリズムなどに代表される「高付加価値化」です。宿泊施設や運輸機関等サービス提供事業者による直販化が進み、単なる流通機能としての旅行会社は年々価値を持たなくなってきています。一方、“ならではの付加価値”を徹底して追求している会社は、好調な経営を続けており、まさに付加価値が企業の存在価値そのものに直結しております。

3点目は、「DX化」です。早晩AI技術や自動運転技術はあらゆる社会活動に深く浸透することは間違いなく、それを見据えたサービスや業務改革が求められることになります。
最後に、「人材」です。当面人手不足への対応と合わせて、この業界の将来を担う人財の育成が欠かせません。ツーリズム産業は、労働集約型産業と言われておりますが、今後はデジタルとヒューマンタッチの力を融合した産業構造を作り上げることがこの業界の持続可能性を高めることにつながると考えます。 今申し上げたことを持続的に推進していくためには投資能力を高める必要があり、そのためには、収益性、生産性が高い“稼げる産業”に変化していかなければなりません。

櫻田会長
商品やサービスに付加価値を生み出すためには適正な価格転嫁が必要です。そのためには業界の独自性、提案力を打ち出すことも必要でしょう。さらには、付加価値を生み出す人への投資や、人材が定着するための人材育成も大変重要です。
円安や物価高は国民生活に影響を与えています。しかしながら旅行は、決して贅沢品や余暇の過ごし方ではなく、人が生き生きと、潤いのある生活をするうえで、無くてはならないものです。

旅行を通じ、その土地の歴史を知り、人と交流することは、特に若者の成長において教育的な価値が高いといえます。 訪日旅行インバウンドは、拡大する需要にしっかり対応し、オーバーツーリズムの課題についても様々な知恵を出し合い、対応していく必要があります。 インバウンドのみならず海外旅行も重要です。双方の国際交流は、我が国の将来を担う若者の国際感覚を養うためにも重要ではないでしょうか。

全国津々浦々、地域にはまだまだ掘り起こされていない観光地、観光資源があります。国内外の交流促進にむけてツーリズム業界には重要な役割があります。
ツーリズム産業の持続可能性という意味では、公正な取引はもちろんのこと、この産業で従事するものがコンプライアンスの意識を高めていかなくてはなりません。
平和でなければ旅行はできません。私たちの産業は平和産業であり、観光の発展・成長は世界平和につながります。

 

最後に

石川事務局長
— お二方、長時間ありがとうございました。最後に一言づつメッセージをお願いします。

 対談後の記念撮影では力強く握手を交わされた

髙橋会長
ツーリズム産業は、これからの日本経済を支える「基幹産業」です。将来の日本を担う多くの若い方々にその存在価値や社会的有用性を伝えることが大切だと考え、観光庁や日観振と共にいま「観光教育」に注力しています。これが10年20年後、大きな礎になると期待しています。
そして、ツーリズム産業が社会の期待に応えるためには、それぞれの分野で“ならではの価値”を提供し続けることで、無くてはならない存在となれるよう、さらに進化・成長していかなければなりません。
労使共に力を合わせて、魅力溢れる産業に育てていきたいと思っています。

櫻田会長
昨年のツーリズムエキスポジャパンでは、「人財を惹きつける魅力ある旅行業にむけて」をテーマにした学生向けセミナーを共催させていただきました。業界の魅力や可能性について改めて実感するとともに多くの旅行業を志す若い方々に触れることができました。ツーリズムは人々の幸せを後押しする素晴らしい業種だと思います。業種としての可能性は、とても大きいので、ぜひ多くの方々に働く場としてこの業界を選んでいただきたいと思います。

人口減少の中、ツーリズム業界も人出不足に直面しており、待遇面で他産業との格差も開いています。選ばれる業界となるため、賃金はじめ総合的な労働条件の底上げが必要です。
持続的な産業の発展にむけて、労使で目指す方向は同じだと思います。産業課題の共有に留まらず、いずれは解決にむけた働きかけをご一緒するなど、今後ともご連携をよろしくお願いします。

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