会報誌「じゃたこみ」 【JATA活動】2023記者懇談会を開催

更新日:2023年12月22日


 JATAは7月5日、東京・霞が関の全日通霞が関ビルでJATA記者懇談会(主催:JATA広報委員会)を開催しました。今期は「ポストコロナにおけるさらなる成長と発展にむけて」といったテーマを掲げ発表、新聞やテレビなど一般媒体と業界紙誌の20社27名の参加がありました。旅行業界の現状と展望への高い関心をうかがわせました。

「7月5日 JATA研修室にて記者懇談会を開催」

<全体説明:髙橋会長>
業界の信頼回復に向けコンプライアンス教育を強化
 冒頭、記者懇談会に登壇したJATAの髙橋会長は、「会員企業による度重なるコンプライアンス問題が国や自治体からの受託事業で発生したことを非常に深刻に受け止めている」と述べ、「これまで実施してきた再発防止のための教育や啓発活動は、不十分であった」との認識を示しました。現在行っている受託業務に関する総点検について、現時点では、新たな問題は報告されておらず、今後はより具体的な対応策を検討し、実行していくとの考えで、「コンプライアンスは経営の根幹に関わる問題であり、全てに優先することを業界全体で強く認識し、業界の信頼回復とコンプライアンスレベルの向上に取り組んでいきたい」と決意を新たにしました。
※2023年記者懇談会資料

「髙橋会長」

海外旅行の復活が旅行業界の復活の鍵、三位一体のバランスの取れたツーリズムの復活を
 次にマーケット概況について説明、「全国旅行支援の追い風を受け国内旅行は堅調な動きが続き、訪日旅行も中国の状況次第でさらなる成長が期待される」と話し、「19年比で約40%と低い水準にとどまっている海外旅行の早期回復が業界の喫緊の課題である」と指摘しました。また、5月10日に観光庁との共同記者会見で発表した“パスポート取得費用サポートキャンペーン”は大きな反響を呼んだものの、本格的な需要の回復には至っておらず、需要回復に向けた、さらなる取り組みの必要性を訴えました。また、今後、国際交流を拡大するにあたっては、バランスの取れた二国間交流が必要との認識を示し、「海外旅行の復活なしには、旅行業界の復活はなし」と明言、現在、観光庁と共に取り組んでいる「今こそ海外!宣言」キャンペーンを軸としたプロモーション活動をさらに強化し、「国内旅行、訪日旅行と海外旅行、三位一体でバランスの取れたツーリズムの復活を早急に実現していく」と意気込みを語りました。

ポストコロナのツーリズム・旅行業界のあり方について、4つのテーマで説明
 続けて、髙橋会長は、ポストコロナのツーリズム・旅行業界のあり方について、4つのテーマで説明。
 1つ目として、脱炭素等「環境への配慮」やサステナブルツーリズム等「SDGsへの対応」を挙げ、世界のツーリズム業界では「持続可能性」が重視され、一部の欧米の旅行会社では、SDGsに取り組んでいない日本の旅行会社との取引を避ける動きも見られることについて言及。今年度より新たに開始した「JATA SDGsアワード」を通じて持続可能な観光の事例を広く共有することで、SDGsについて業界全体の意識向上と会員企業における取り組み強化を図るとともに、「レスポンシブルツーリズム」の取り組みも推進していくと話しました。
 2つ目には、「旅の高付加価値化」を挙げ、「旅行者個人では、なかなかできない新たな体験を付加価値として作り出し、提供し続けることにより、我々、旅行会社の普遍的な存在価値が認識される」と述べ、このことが高い収益性の実現にも繋がるとの考えを示しました。また、今年の秋に北海道でアドベンチャーツーリズムのワールドサミットが開催されることに触れ、「精神的な充足感が高いとされるアドベンチャーツーリズムは、訪日旅行のみならず国内旅行においても富裕層を中心に高付加価値の提供が可能である」と説明し、アドベンチャーツーリズムの取り組みによる旅行消費額拡大の可能性について言及しました。
 3つ目は、「双方向交流の定着」を挙げ、今春、発表された新たな観光立国推進基本計画には、訪日インバウンド拡大だけでなく、日本人の海外旅行の重要性も明記され、アウトバウンドの本格的な回復に向けた政策パッケージが策定されたことを指摘。「双方向交流が拡大することで、航空路線を中心とした観光インフラの発展と安定的な訪日インバウンド需要の享受が期待される」と述べ、「バランスの取れた交流を促進し、対等な関係性を築くためにも、日本人の海外旅行復活は不可欠だ」と訴えました。
4つ目には、「協調と共創」を挙げ、観光産業を取り巻く環境が大きく変化する時代において、業界全体で知恵を絞りながら連携する、「協調共創型」へ移行することの必要性を訴え、「観光産業が共に手を携え、国内旅行、訪日旅行、海外旅行三位一体での復活を通じて、観光立国の実現に貢献したい」との考えを示しました。
 最後に開催テーマを「未来に出会える旅の祭典」としたツーリズムEXPOジャパン2023について説明。「観光は間違いなく、未来の日本にとっての成長分野であり、産業の重要な柱となる」と話し、「その持続的な発展には、『SDGsへの対応』『高付加価値化』『双方向交流』『協調と共創』という4つの観点が不可欠であり、それらを具現化した姿を肌で感じ取ることができる高揚感あふれるイベントにしていきたい」と、4年ぶりとなる、大阪・関西地域での開催に向け意気込みを語りました。

<海外旅行:酒井副会長>
全体の回復率は35%、海外旅行市場の現状と課題
 海外旅行推進委員長の酒井副会長は、海外旅行の回復状況について、コロナ禍前の市場規模は年間、約2兆円あり、2020年からの3年間で5.5兆円の市場が消失したことを示し、主要旅行会社総販の約4割が海外旅行を占めていたことからも、海外旅行マーケット早期復活の重要性を訴えました。酒井副会長は「年間2兆円規模の市場をいかにして取り戻していくのかが大きな課題となるものの、未だ海外旅行に対する心理的な障壁が残っており、航空運賃、燃油サーチャージ、物価高などによる旅行費用の高騰とあいまって、敬遠されている傾向にある」と述べ、一方、海外旅行復活に向け鍵を握る座席の供給量については、19年並みの水準に戻りつつあるものの(中国を除く)、その多くはインバウンドのお客様で占められていると指摘し、依然、厳しい状況に立たされている海外旅行の現状について説明しました。

「酒井副会長」

また、1-4月累計の海外旅行取扱高ベースでの回復率は全体で35%(19年度比)となっているものの、業務渡航は65%(同)、総合・団体では30%(同)、レジャーマーケットは22%(同)と各社取り扱いの旅行形態により回復度合いは異なってきていると指摘しました。このような現状を受け、観光庁と共同で展開している「今こそ海外!宣言」プロジェクトについては、「パスポート取得費用サポートキャンペーン」が注目を浴びていると話し、キャンペーンの目的である海外旅行の機運醸成という意味では、大きな役割を果たしていると評価しました。
 最後に今後の海外旅行マーケットについて、旅行会社の強みと高付加価値化を取り上げ「旅行会社の強みは、圧倒的に海外旅行で発揮される」と話し、安心、安全を担保し、「個人では行けない国や地域への旅行」や「個人ではできない体験」を実現できるのが旅行会社のツアーの強みであることを改めて強調しました。高付加価値化については、旅行会社各社が取り組むべき課題であるとしながらも、「JATAとしては、3年間のブランクを埋めるために旅行会社にお客様が戻るような活動をしていきたい」と述べ、JOTC(アウトバウンド促進協議会)の活動を活発化し、会員各社の企画担当者に対するセミナーやワークショップなど、研修機会を増やしていくと、早期回復に向け意欲を示しました。
<国内旅行:小谷野副会長>
観光産業共通プラットフォーム始動、業界の業務効率化と生産性向上へ
 国内旅行推進委員長の小谷野副会長は国内旅行についてJATAの活動概況と7月に稼働した観光産業共通プラットフォームについて発表しました。活動概況については、需要喚起策として取り組んできた「笑う旅には福来たる」キャンペーンにおいて、需要の分散化や回復の遅れている貸し切りバス旅行の需要喚起を目指し、平日賞やバスコース賞を新設したこと、さらに、需要回復に伴う安全・安心への取り組みについて、また、国立公園プロジェクトやアドベンチャーツーリズムなど、高付加価値化に向け、注力する業界全体の取り組みや方向性について説明しました。共通プラットフォームについては、「コロナ禍で、業界が何を学んだかを体現する象徴的な取り組みである」と述べ、まずは宿泊施設と旅行会社双方で非効率になっている業務にスポットを当て、これを一元化することで業界全体の生産性を高め、人手不足や高付加価値化などの対応に経営資源をシフトできるよう、その第一歩として構築したのがプラットフォームであるとの趣旨を説明しました。

 

「小谷野副会長」

また、観光立国推進基本計画に掲げられている「稼げる地域・稼げる産業」や「持続可能な観光地域づくり」を進めていくうえでも、「時間の創出」と「人的資源の活用」は不可欠な事柄で、共通プラットフォームは、それらを実現するための「力」を生み出す一丁目一番地の取り組みであると強調しました。先々は情報の多言語化や画像管理、観光・入場施設への拡大なども視野に入れ、プラットフォームの運営を進めていくとの考えを示しました。

 

「観光産業共通プラットフォーム 災害時情報集約訓練を実施」
7月1日(土)、宿泊施設約2,000軒に対して、災害時の情報集約訓練を実施しました。この訓練では、午前11時に全国で震度5強の地震が発生したという想定で行い、全体の約45%にあたる920軒の施設に参加いただき、回答を得ることができました。ご協力いただきありがとうございました。

 

<訪日旅行:百木田委員長>
「地方誘客促進」 地域を活性化して日本を元気に
 訪日旅行推進委員長の百木田委員長は冒頭、訪日マーケット概況について説明、「昨年10月の水際対策の緩和後、急速に回復し、今年5月の訪日旅行客は189万8000人に達し、2019年対比で68.5%まで回復してきている」と話しました。一方、旅行消費額については「旅行者数増加を上回る勢いで回復しており、2023年の1-3月累計消費額は1兆円を超え、2019年と比較すると88.1%まで回復している」と説明しました。また、「アジアからの来訪者を中心に購買力の向上が見られる」と話し、「LANDコストの上昇は円安効果により相殺され、海外の旅行会社にとって、相対的に割安感が出ている」と指摘、訪日外国人の1人当たりの旅行消費について、「直近では21万2000円となり、政府目標としている20万円を超えている」と話しました。市場回復状況については、まず航空便の復便状況に触れ、「成田、羽田のアジア路線の夏ダイヤが約70%回復するなど、主要空港はかなり戻ってきている、一方、アジアの各国のLCCを中心とした直行便は増えているものの、地方空港を含む、全体としてはまだまだ不足している状況にある」と述べ、

「百木田委員長」

クルーズについては、「2023年に約1200回の寄港が予定されており、2019年対比で42%を見込み、復活の兆しが見えている」と説明しました。また、春の桜のシーズンに一部地域で発生したオーバーツーリズムが、秋の紅葉シーズンにおいても発生する恐れがあると指摘しました。
 次に今後の課題として、欧米市場を中心に意識が高まっているサステナビリティやアドベンチャートラベルへの対応を掲げると共に、サプライヤー側における人員不足を要因としたサービスレベルの低下、ノウハウ不足について言及しました。ツアーオペレーター各社における人員不足による回答の遅れについて、海外の旅行会社からの指摘が昨今、増えてきていると説明しました。
 このように急速に回復する訪日マーケットの課題を解決するため、日本政府観光局の支援のもと、日本観光振興協会と共同で、業種別の課題、地域間格差、訪日の受け入れの意欲を可視化するための、訪日の受け入れに向けた意識調査を7月下旬より実施することを表明しました。
 注目される中国マーケットについては、「JATAとしては、中国から日本への観光団体・個人パッケージが認められていない中、中国側の規制解除の時期を注視している」と述べ、「中国からの観光団体・個人パッケージがいつ解禁されても良いように準備をしている」と話しました。
 最後にインバウンド、アウトバウンド双方がバランスよく発展していく重要性を強調し、観光立国推進基本計画に示された「持続可能な観光」「消費額拡大」「地方誘客促進」という3つのキーワードと即し、JATAの今年度の事業計画として掲げた「SDGs推進」「高付加価値化」「地方分散化」3つの柱のもと、訪日による「地方誘客促進」を推進し、地域を活性化して元気にすることで日本全体も元気にしていくと意欲を示しました。
<人材対策:原副会長>
業界復活への一翼:JATAの人材対策と展望
 原副会長からは、人材に関するJATAの取り組みを発表、冒頭、「コロナ禍において、人員整理をした会社もあれば、将来に対して不安を抱き他の業界へ移っていった人材も多かった」と話し、旅行業界から多くの人材が流出したことについて言及しました。
 原副会長は「コロナ禍より脱却し、これから業務を拡大していくにあたり、どのように人材を取り戻していくのかが、各社の抱える喫緊の課題である」と述べ、会員が利用しやすい料金で経験者を採用する仕組みを整えていることや、2024年3月卒業見込みの学生を対象に会員会社20社が出展し、業界特化型の就職セミナーを復活させたことなど、(株)ジャタが展開している二つの取り組みを紹介しました。

「原副会長」

JATA単独の取り組みとしては、会員会社の中堅社員をリーダーとして育成していくための研修プログラム「旅行未来塾」を昨年から開始したことや、会員会社の協力により大学と連携し取り組んでいるインターンシップ制度、官公庁、ホテル、航空会社、旅行会社と連携し早稲田大学で実施しているツーリズム産業論について、説明しました。最後に次世代のリーダー育成に向け、自身が塾長を務める「旅行産業経営塾」を取り上げ、今期は、30代から50代まで、中小の経営者も含めて、42名の参加があり、「必ずや未来の産業を担っていける人材に育てていく」と意気込みを語りました。

 

<女性活躍:勅使河原運営役員>
業界変革の鍵:小さな活躍がもたらす大きな変化
 この春、観光関係功労者 国土交通大臣表彰を受賞した勅使河原運営委員は、旅行業界で働いている女性の働き方について発表しました。勅使河原運営役員は「旅行会社の現場では、多くの女性が活躍している一方、会議における女性の割合は1割程度にとどまり、意見、決定権が求められる場面では女性が不足している」との認識を示しました。さらに、日本の社会には家事、育児、介護などとの関わり合いにおいて男女間に格差があることを指摘し、これが女性の活躍を阻む要因の一つとなっていると話しました。
 勅使河原運営役員は、女性が得意とする「きめ細かな対応」や「お客様に寄り添った提案」、また「プロモーションの分野での才能」について言及し、「女性の活躍なしに旅行業界の発展はない」と訴えました。また、勅使河原運営役員は、JWTC(日本旅行業女性の会)LADY JATAの活動において、旅行業界で働く女性たちの優れた業務推進能力や意識の高さを実感していることからも、「多様性が求められる時代において、業界としても女性が活躍できるよう努力していく必要がある」との考えを示しました。自ら会社を興し様々な問題に立ち向かい、乗り越えてきた自身の経験を踏まえ、「自分の立ち位置を理解し、他の人の助けを受けることで、自ら変革していくことが大切」、「人生の様々なステージで大切な役割を担ってきている女性だからこそできることはたくさんある」と話し、「小さな活躍を積み重ねていくことにより旅行業界の変革につなげよう」とのメッセージを業界で働く女性に向け投げかけました。

<社会貢献 SDGs:坂元委員長>
 JATA SDGsアワードの取り組みで業界全体の取り組み後押し
 広報委員会の坂元委員長(前社会貢献委員会委員長)は、JATAの社会貢献活動として、JATA SDGsアワードの取り組みについて発表しました。冒頭、「SDGsの取り組みは業界問わず、共通の目標となっており、旅行業界においても積極的に推進する必要がある」と話し、アワード創設の経緯について3つの目的を説明しました。一つ目は、「優れた取り組みを表彰することによって業界全体の取り組みを後押しすること」、二つ目は、「SDGsの概念は理解しているものの、具体的な取り組み方法がわからない会員会社もあるため、表彰を通じたSDGsの教育的効果を狙うこと」、三つ目は、「表彰を受けた事例を他の会員会社が参考にして実践することを目指すこと」と話しました。
また、応募、審査状況について「26の会社から75件の応募があり、審査ではSDGsへの貢献度はもちろんのこと、他社のお手本になるかどうかや業界内外への広がりがあるかどうかなどの基準を持ち、幅広い議論が行われた」と説明、大賞に選ばれたエイチ・アイ・エスの「旅を通じて、カンボジアの子どもたちに学びの機会と楽しさを届ける」については、集客の実績があり、ツーリズムを通して貧困撲滅という社会的課題の解決に取り組んでいるという点が高く評価されたと話しました。
 最後に今回の取り組みについて「中小の会社からも応募があり、初の試みとして手応えがあった」と振り返り、「今後はSDGsに対する業界内の意識をさらに高めるためにも、応募する会員会社を増やしていきたい」と意気込み語りました。

 質疑応答では、コンプライアンスの取組み関すること、これからのパッケージ旅行の在り方について等の質問があり、髙橋会長やそれぞれ担当する役員が回答しました。
また、本年の記者懇談会では、コロナ禍で実施できなかった記者とJATA役員との「交流会」を再開し、髙橋会長はじめ、役員が記者と直接話し、お互いに理解を深める機会となりました。

「交流会 開会の挨拶をする坂元委員長」

「交流会にて記者と意見交換をする勅使河原運営役員」

「記者と交流を深めるJATA役員」